サンコイチ

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やらかし

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 日に日に冬の足音が迫ってくる11月のある週末、あかりたちはいつものように幸尚の家に集まっていた。

「尚くんち、お父さん達そろそろ帰ってくるの?」
「うん、再来週から。3月にはまた出かけるけど、来年は夏も帰って来れそうって」
「お、良かったじゃん」
「うん…まずはこれをどうするか考えないとなんだけどね……」
「あー……尚のベッドの下とクローゼットと…隣の部屋?」
「隣は母さんが掃除に入るから危険。僕の部屋は流石に入ってこないけど…」
「随分増えちゃったもんねぇ……2人分だし…」

 目の前にあるのは、この半年で増えに増えたグッズたち。
 あかりと奏それぞれの玩具に拘束具や鎖、その他見られてはいけない道具が今は幸尚の部屋とリビングに散乱している。
 半年間、はっちゃけすぎたな……とちょっと真顔になる3人は「来週末は片付けと大掃除を頑張ろう」と誓い合うのだった。


「じゃあ、始めるか」
「…はい」

 奏の一声で、空気が少し重くなる。

 あかりはいつものように服を脱ぎ、奏と幸尚も部屋の暖房を強くして軽装になる。
 そしていつものようにソファに腰掛けた。

 その前に全裸になったあかりが跪く。
 その所作は2ヶ月にわたる礼儀作法の調教ですっかりこなれていて、これから行われる調教への期待だろう、ほんのり頬は赤らみ、ピアスに穿たれた乳首とクリトリスはその存在を主張していた。
 クリトリスはようやっと下着をつけても日常生活を送れるようになったが、とは言え24時間刺激され発情したままには変わりなく、とかく愛液の量が増えて時には太ももまで垂れてくるのが目下の悩みだ。

「奏様、幸尚様、本日も淫乱奴隷のあかりに調教を授けてください」
「…いいよ、首輪を」
「はい」

 いつもより外が冷えているせいだろう、暖房をかけても部屋はひんやりしている。
 いつもより首輪が冷たく感じ…なのにカチリとロックがかかった途端、情欲の炎を灯されたように頭がくらりと熱くなる。

(ああ、何度やってもこの瞬間は…堪らない)

 うっとりしながらその場でしゃがんで股を大きく開き、手を頭の後ろで組めば「じゃ、今日の調教の説明な」と奏が話し始めた。

「今日はあかりが懇願したおしがま…排尿管理調教だ。ルールは一つだけ。俺たち二人の許可が出るまで漏らしてはいけない」
「……はい」
「決壊も仕置きの対象な。限界は二人で見極めるから」
「調教中は自慰禁止。餌と水はこちらで用意したものを与えるからね。あと、気を紛らわすものも一切禁止するから」
「気を、紛らわす…?」
「このリビングから出ること、後はスマホや本を見ることかな…とにかく何もせずにここにいること。ウロウロするくらいはいいよ。あ、時計も見えないように隠してあるからね」
「っ、はい…!」

(にしてもまさか、漏らしちゃだめだなんて)

 あかりはそのルールに不安を覚える。
 許可が出るまで排泄できない、これからどれだけ追い詰められるか想像もつかない。
 それでも自分は二人の奴隷だ。それも自分がやりたいと申し出た調教だ。
 今回のために二人が身体を張って準備していたのもよく知っている。

 だから、あかりには「はい」以外の言葉はない。
 ただ、二人のご主人様を信じるだけだ。


 ………



 世の中のおしがまは、大抵最後は限界を迎え決壊して終わる。
 だがそれでは調教の意味がないと奏は考える。

「限界を試したいんだ」

 計画中、奏は幸尚にそう語っていた。

「あかりがどこまで俺たちを信じて頑張ってくれるのか…だから本当のギリギリまで排尿は許可しないし、排尿を許可しても敢えてためらうような形にする」
「…あかりちゃんの身体が壊れない?」
「こないだ俺がトイレ行くたび悶絶する羽目になったのは、尚の尿道責めのせいだからな!姉貴に爆笑されていまだに弄られるんだから…」
「う、本当ごめん……」

 その時に、凛にちらりとおしがまのことを聞いたのだ。
 我慢しすぎて出せなくなることはあるのかと。

「姉貴曰く、健康な身体ならどれだけ我慢しても必ず決壊するから出せなくなることはねえってさ。カテーテルとかで止めてたらまた違うけど」
「そっか、それなら安心だけど…」

 でもそれってさ、と心配そうな顔で訴える幸尚の頭を「分かってるって」と奏はぽんぽんと撫でる。

「俺らが許可するタイミングを見誤れば、あかりはお仕置きになってしまうな」
「だよねぇ…これ、責任重大だしあかりちゃんがすごく不利…」
「だから試すんだって。わざと失敗させられる可能性もあるけど、ご主人様を信頼できますか?ってな」

 そしてあかりなら、確実に首を縦に振る。
 試されているのはむしろ自分達の方だ。

「二人で判断するんだ。限界に近づけばどうなるかだって俺らはもうわかっている。あかりを失敗させないこと、それがご主人様の役目だな」
「うん……僕も、頑張るよ」

 大丈夫、きっと上手くいく。

 ……これまでにない危険を伴う調教に、今にして思えば二人ともかなり入れ込んでいたのかもしれないな、と思う。


 ………


「とりあえず飯にすっか」

 二人が昼食の用意をするのを、あかりはダイニングテーブルの側で基本姿勢を取り静かに待っている。
『プレイ中はあかりは奴隷なんだから、人間のように振る舞っちゃダメだろ』と、二人は決して奴隷であるあかりに家事をさせない。
 自分だけ楽をしているようで引け目を感じる一方で、こんな優しい振る舞いでお前は人間ではないと突きつけられる歪んだ甘美さに、あかりはいつもどこかうっとりしながら股間を潤ませるのだ。

 いい匂いと共に、餌台に金属製の餌皿がセットされた。
 今日はシチューだ。具材も口だけで食べやすいよう、小さめに切ってある。

「いただきます。…あかり、食っていいぞ。あと餌の時間に水分1リットルな。ちゃんとディルドで飲ませてやるから」
「ええと、水、スポドリ、紅茶、緑茶、コーヒーがあるよ。好きなものをおねだりしてね」
「はい。奏様、紅茶を飲ませてください」
「おけ」

 改造した『射精機能つきディルド』は、1回に250mlの液体を充填できる。
 あかりと息を合わせないとすぐ咽せてしまうが、ここ数ヶ月試行錯誤を繰り返した今ではスムーズに全てを飲み干せるようになっていた。

「んっ…んっ…ぷは……ありがとうございます…」
「あかりはホントちんぽから飲まされるの好きだよな?気持ちいいのか?」
「はいぃ……喉まで押し込まれて、無理やり流し込まれるのが好きです……」
「変態だな。ほら、餌もちゃんと食えよ?その水分もカウントしてるからな」
「はい……んふぅ…」

 餌皿に顔を突っ込み、口の周りをベタベタにしながらあかりは美味しそうに餌を平らげる。
 奏的には餌というからにはそれらしいものを与えたい気持ちはあるが、作る手間を幸尚にかける以上そこは妥協している。何より見た目も味も餌らしくしろなんて言ったら、間違いなく幸尚が涙目で反対してくる。

(ま、これでも満足そうだからいっか)

 先に食べ終えた奏は、股の間から蜜を滴らせ、時折悩ましい吐息を漏らしつつ餌をがっつくあかりに興奮を覚えながら、その様子をじっと見下ろしていた。

 ああ、これからこの顔が苦痛と羞恥に歪み、涙をこぼしながら必死で懇願するのかと思うとそれだけで堪らない。

「んぷ……はぁっ、お水をありがとうございました…」
「うん、顔の周り拭こうか。奏、これで1リットル」
「おけ。餌も入ってるからお腹重いだろ?少し食休みしてから追加で飲もうな」
「ふぅ…っ、ありがとうございます……」

 流石に短時間にこれだけ一気飲みすると、お腹がたぽたぽする。
 とは言え休むと言ってもあかりに許されているのは、床に座ることだけだ。

(…暖房はそこそこだけど……お尻冷たいな…)

 フローリングは意外と冷える、という事をあかりは初めて知る。
 あまりお尻をつけて座っていると、これだけで冷えてトイレが近くなりそうだ。

 どのくらい経ったのだろう、「そろそろお腹は落ち着いた?」と幸尚が尋ねてくる。
 その手には給水用のディルドが握られていた。

「はい、大丈夫です。お茶を飲ませてください」
「うん、どうぞ」

 喉にディルドを差し込まれ、ぬるめの緑茶が流れ込んでくる。
 必死に飲み下していると、ふと尿意を感じた。
 既に1リットルも飲んでいるのだ、おしっこがしたくなってもおかしくはない。

「んぷ…ありがとうございます……」
「うん、おしっこはまだなんともない?」
「えと……ちょっと、行きたいなって」
「そっか、じゃあそのままでいてね」

 幸尚はディルドを片付けると、何かを手に戻ってくる。
 それに気づいたあかりの喉がヒュッと鳴った。

「あ、ああ…幸尚様……」
「先に足枷をつけるね」
「うう……はい……」

 その手に握られているのは、金属の枷と鎖、そしてアイマスクだった。
 あのアイマスクはお仕置きで使われたやつだ。SMグッズとして売られているものではなく、幸尚の父が愛用している『これさえあればどこでも夜中になってぐっすり寝られる!』と大絶賛の旅行用品らしい。
 初めてつけられた時は、本当に全く光が入ってこなくて軽くパニックに陥ったほどだ。

 足首の枷は短い鎖で繋がれ、ちょこちょことしか歩けないようにされる。
 さらに長い鎖を…これはあらかじめソファに固定してあったのだろう…左の足枷に繋がれた。

「これ、ちゃんと測ってあるから。リビングからトイレに向かう廊下には絶対に出られない長さだよ」
「っ……!」
「無意識にトイレに行っちゃまずいからな。ほら、アイマスクもつけるぞ」
「ぅ、はい……」

 逆らうことなどできないまま、視界を遮られる。
 あかりの目をきっちり覆うアイマスクは、わずかな光すら通さず…否が応でも尿意を意識させられる。

(ああ、逃げられない……紛らわすことができなくされる…!)

 ああ、奏様も、幸尚様も本気で責めるつもりだ。

 途端にあかりの心が恐怖に襲われる。
 それに気づいたのだろう、大きな手がそっとあかりを抱きしめた。

「幸尚様……」
「大丈夫、僕らはずっとここにいる。ああ、トイレに行くのは許してね」
「不安になったら呼んで確かめろ。俺らは最後まであかりを一人にしない。ちゃんとあかりが悶え苦しむのを見届けるさ。だからそんなに怯えんな。…ま、その、あかりの怯えっぷりも俺は好きなんだけどな」
「奏はなんでそう鬼畜なんだよ…」

 幸尚の温もりを感じる。
 奏の声色の優しさを感じる。

 暗闇に閉ざされ、じわじわと高まる尿意に不安は消えないけれど。

「…ありがとうございます……変態奴隷のあかりが、おしがまで無様な姿を晒すのをどうか楽しんでください…」

 自然とあかりの口から言葉が漏れた。


 ………


(出したい)

 我慢できないわけではない。
 けれど、その思考の一部はずっと尿意にとらわれている。

 チャリ、と鎖が鳴る。
 視界を塞がれているから、四つん這いでそろそろとしか進めない。

 どこに行くわけでもない。
 トイレに行きたくても、この鎖はそれを許さない。

(おしっこしたい)

 分かっていても動かずにはいられない。
 じっとしていれば、途端に尿意が高まる気がして。

『いい感じだな』
『そろそろ6回目の給水だね』
『餌から2時間、トータル2リットル。これが最後の給水だな、あれ出してきて』
『了解』

 通知機能を切ったメッセージアプリで二人は相談しながら事を進めていく。
 もう十分な量は入った、後はその時を待つだけだ。

「あかり、口を開けろ。これが最後の給水な」
「っ、はい!お水を飲ませてください…!」

 もう、これ以上飲まされたら持たない、そう感じていたから最後と聞いて明らかにあかりの顔に安堵の色が浮かぶ。
 そんなあかりにニヤリとしながら、奏は喉にディルドを挿入してポンプを押した。

(…っ、冷たい……!!それにこれ、この匂い……!!)

 何を飲まされているか気づいたあかりの瞳から溢れた涙は、アイマスクに吸い取られる。
 全てを飲み干しカタカタと震えるあかりに「美味しかったな、なぁ?あかり」と敢えて尋ねれば、ヒッと喉を鳴らし「はいっ、美味しかったです!ありがとうございます!!」と涙声で叫んだ。

「そりゃ良かった、冷蔵庫でキンキンに冷やしたコーヒーは効くよなぁ」
「うぅ……」

 その冷たさだけで、一気に尿意が高まった気がする。
 その上に利尿効果のあるコーヒーだ。分かっていたとはいえ、徹底的に尿意を高めてくる二人の本気を痛感する。

「ま、精々頑張るんだな。ああ、辛くなったらおねだりしてもいいぞ?許可はしないけどな」
「そんな……っ、ううっ…」

 おねだりなんかしたら、もっとトイレに行きたくなる。それだけは避けないと。

 しかしこの時はまだ余裕があったのだと、あかりはすぐに思い知ることになる。


 ………


(まだ…まだなの……まだおしっこできないの…!?)

 もう何時間経ったのだろう。
 実際には最初の給水から2時間半しか経っていないのだが、永遠とも思える時間を、あかりは暗闇の中でただ尿意に悶えることだけを許され悶えていた。

「ぁ……あぁ……っ…!」

 あかりの口から、時折声が漏れる。
 必死で太ももを擦り合わせ、股に手を当てて眉間に皺を寄せ、襲いくる尿意に耐えているものの、段々堪えきれなくなっているようだ。

(おしっこしたい……!もう、歩いたら出ちゃう…!!)
 じっとしているのも辛くて、でも動けば漏らしてしまいそうで、もはや動くことすら叶わない。
 膀胱が時々痛みを訴え、早くこの中身をぶちまけろと頭は警鐘を鳴らしっぱなしだ。

(とにかく我慢しなきゃ、漏らさないように頑張らなきゃ…!)

 それしかもう考えられないあかりは、自分の右手のことすら分からなくなっていた。

「あかり」

 静かな奏の声色に、あかりがビクッと震える。
 この声は、お仕置きの時のものだ。何もしていないはずなのになんで……

「右手、何してるんだ?」
「えっ……え、あ…あぁぁ……っ!!」

 奏の指摘で初めて気づく。
 あかりが尿意を我慢するために必死で抑えているつもりだった右手は……ずっと、クリトリスをクニクニと弄り続けている。

「あ、これはっ……なんで、いやっごめんなさい!!ごめんなさいっ、なんで止められないのおぉ……」

 すぐに手を離さなきゃ。
 自慰は禁止されていたから、お仕置きされる。
 分かっているのに…あかりの指は言う事を聞かず、ひたすら自らを慰め続けている。

(ダメ、お願いっ、離れてええっ!んぅっ、きもちいい…やめたいのに、やめられない……!!)

 どうしよう、叱られる。お仕置きされる。
 尿意でバカになった頭は、まともに物を考えられない。
 あかりはただお仕置きの恐怖に震えるだけの、哀れな奴隷と化していた。

 ごめんなさい、ごめんなさい!と泣きながらも自慰をやめないあかりに「あれ、もうあかりちゃんの意思じゃ止められないんじゃ」と幸尚が囁く。
「だろうな」と頷く奏の股間はすっかりいきり立っていて、無様な姿を晒す可愛い奴隷にすっかり昂っている事を表していた。

 ここはもう一段、仕置きで追い込もうと奏と幸尚はあかりの両側に陣取り、耳元でそっと囁く。

「尿意を紛らわすためにオナニーするだなんてな、あかりはホントに変態だな?」
「ううっ、ごめんなさい……命令に従えなくてごめんなさい…!」
「……うん、あかりちゃん。……どうされたい?」
「ヒィッ!!」

(ああ、幸尚様……っ!ここで、ここで聞かないで…!!)

 これは幸尚からの仕置きがくる。
 そしてそれはあかりの口から…望まなければならない。
 約束しているのだ、嘘も隠し事もしないと。
 信頼されているのだ、あかりはそんなことはしないと。

 だから、自分を追い込む仕置きを思いついても、それを素直に伝える以外の選択肢はあかりには、ない。

「…っ、手を」
「うん」
「手を、拘束して下さいっ!!はしたないあかりが勝手におまんこ弄らないようにしてぇぇっ!!」
「うん、あかりちゃんはいい子だね。教えてくれてありがとう」
「ううっ……」
「あかり、俺からの仕置きだ。基本姿勢を維持しろ」
「ひぐっ……はい…お仕置きを与えて下さり、ありがとうございます……!」

 ガクガクと震えながら、いつもの姿勢を取る。
「手は背中に」と幸尚に促され、後ろに回せば手際よく手枷をつけられた。
 ガシャン、というロック音がやけに大きく聞こえて…ああ、処刑されるみたいだなんて感じて。

 身体の震えが止まらない。
 はぁっはぁっと必死で息を吐くが、その振動すら膀胱に響いてあかりを苦しめる。
 ぽたり、と身体を伝う脂汗が、半開きの口から垂れた涎が…そしてこんな状況なのに大洪水の蜜壺からの愛液が床に滴っている。

 だが、そんな事を気遣う余裕すら、もはやあかりには残されていない。

 ぱかりと股を開いた状態では、太ももを擦り合わせて凌ぐこともできない。
 前屈みになればすぐに奏から「姿勢を保て」と咎められる。
 必死で尿道を閉めないとすぐにでも決壊してしまいそうだ。

 手足が冷たい。
 頭の中はずっと、その場ですぐに漏らせと警鐘を鳴らし続けていて、何も思考がまとまらない。

(だしたい、だしたいだしたいだしたいっ!!おしっこ、もうダメもう出ちゃうこれ以上むりっだしたい…)

「ぁ…おしっこしたい……」

 それは、勝手に口から漏れた言葉だった。
 そして一度漏れれば、もう、止められない。

「もうダメっ、漏れちゃう!!出させてっおしっこおおっ!!」
「…あかり、それがご主人様に物を頼む態度か?」
「ひぎぃっ!!いやあああっ!!」

 奏があかりのぽっこりと膨れた下腹部をすっと撫でる。
 途端に上がる悲鳴に「ん?ご主人様に触られて嫌だっていうのか?」と奏が畳み掛けると、あかりは慌てて「ごめんなさいっ!!」と涙声で叫んだ。

「奏様っ、あかりに触れてくれてありがとうございますううっ!!ひぃっ、おしっこ、おしっこ出させて下さい、もう我慢むりですうっ!!」
「…んー、どうしよっかな。あかり、さっきから勝手にオナニーはするし、俺に対等な口を聞くし、全然いい子じゃねえじゃん」
「あああっ、申し訳ございませんっ!お願いします、おしっこ出させて下さい、おしっこ…!!」

『かなり来てるな』
『限界近いね』

 あかりを言葉で責めつつ、腹をさすり、時折トントンと指で刺激して悲鳴を上げさせつつ、奏はスマホで幸尚と会話する。

『どう思う?後何分いけっかな』
『30分、それが限界だと思うよ』
『マジ?俺15分で無理だと思う』
『じゃあ15分、まだ行けそうなら目隠し取って決壊の準備しつつ15分排泄許可を叫ばせるのはどう?』
『30分やる気満々だな、まあいいや』

 珍しく幸尚の方が厳しいな、と奏は思いつつ、あかりに「だめだ」と静かに告げる。
 その声は掠れていて、奏がこの状況に興奮している事があかりにも伝わってきた。

「命令も守れない奴隷は、きっちり躾けないとな?」
「ひぃっ、ごめんなさいっ!!もうしません!ごめんなさい!お願いします、おしっこ出させて下さい…!!」
「本当に反省してる?」
「はいっ、奴隷の分際で生意気な口を聞いて申し訳ございませんでした!二度と命令には逆らいません、だから」
「…あかり、反省してるからお願いを聞いてくれって口で言うだけじゃ、子供の言い訳と同じだぞ?ちゃんと行動で示してもらわないと」
「こっ、行動!?」

 口を開けて、と命じられおずおずと開ければ、そこにぐっと差し込まれるのは使い慣れたペニスギャグ。

(え、そんなっ!)

「んごおおおおっ!!」

 きっちりと後頭部で固定された口枷は、ずいぶん慣れてきたとは言え気を抜けばえずいてしまう。
 ふーっ、ふーっと鼻で息を整えながら、必死で喉を開き、声にならない呻き声を上げることしかできない。

「これでおねだりもできないだろ?しばらくこのまま反省な」
「んぉおおおお……!!」

(そんな、もう限界ですっ奏様、おねがい……ゆきなおさま、たすけて……!)

 つらい、くるしい、だしたい。
 全身が叫び続けている。
 そして、それを伝えることすら封じられた絶望に涙が止まらない。

 もはや吸いきれなくなったアイマスクから、ダラダラと涙がこぼれ落ちる。
 そんなあかりの耳に「はぁ……」と熱い吐息がかかった。

「…いいぜ、サイッコーだよあかり……もっと俺たちに翻弄されて、苦しんで、無様な姿を見せろ……お前も、それがいいんだろう?」
「おぁ……!!」

(………否定、できない)

 辛くて、辛くて堪らないはずなのに。
 あかりの心の奥底で、ドロドロとした欲望が、昏い悦楽が渦巻いているのを今のあかりははっきりと感じることができた。

(もっと……追い込んで)

 苦しさは、二人と深く繋がっている実感をもたらしてくれる。
 奏はあかりのどんな醜態も受け止めて喜んでくれるし、幸尚は理解できない性癖に歩み寄ってくれる。

 そしてきっと、ギリギリまで追い込まれた後の開放感はそれはそれは甘美なのだろう。

 猛烈な尿意で呻き声をあげ続けるしかないほど追い込まれているのに、あかりはしかし確かにどこかで幸せを感じていた。


 ………


「んぉおおっ!!おごおおっ!んおっおっ……あおぉ…!!」

 あかりのくぐもった叫び声が、部屋に満ちる。
 しゃがんだつま先は必死で床を掴んで震えていて、奏が気まぐれに膨らんだ腹を突くたびに濁った叫び声と共に全身を硬くしている。

『15分、限界じゃね?』
『ん、じゃあ準備しながらおねだりさせよっか』
『お前限界まで引っ張る気だな?俺より鬼畜だぞ今日の尚は』
『だって二人とも楽しそうだし』

 珍しく幸尚が楽しそうだと、奏は泣き叫ぶあかりの頭をよしよしなでながら「まだいけるよ」「頑張ろう、ね?」と優しく囁き続ける幸尚を眺めつつ、用意してあったパッドを床に敷く。

(あかりが最大限楽しめるように追い込むのに慣れてきたのかな…)

 最近はあかりの助けを借りつつも命令することが増えてきたし、奏とは違う穏やかな口調でその実えぐい追い込みをする、しかもそれを善意からやってしまう幸尚の素質に奏は薄々気付いていて。

 きっと幸尚も、いいご主人様になれる。
 そうすりゃあかりは楽しいし、俺も楽しい。

 あかりに声をかけ口枷とアイマスクを外す姿を眺めながら、奏はこれからの3人の関係に想いを馳せていた。


「……っ………だし、たい……」

 口枷を外されて、思わず出たのは懇願だった。

「あかりちゃん?」
「っ、ごめんなさいっ!!幸尚様おしっこさせて下さいっ!!」
「うん、準備するからちょっと待っててね」
「ひぃっ、はいぃ……」

(やっと、やっと出せる……もう辛い、はやくっ…!)
 排泄の期待に身体が震える。
 むしろもうすぐ出せると思ったら、ますます尿意は高まって、頭の後ろがじんわり痺れて白くなってきている気がする。

(だめ、これ、気を抜いたら出る……っ)

 必死で尿道を閉めるあかりに「あかりちゃん、アイマスクも外すからちょっと眩しいよ」と幸尚がぐっしょり濡れたアイマスクを顔から外した。
 途端に光の洪水で頭がくらっとしたせいか、よろめいてしまう。

「っと、大丈夫?」
「ぐぅっ……ああああああっ!!!」

 幸尚ががしっとあかりを受け止めた、その衝撃がモロに膀胱を直撃し思わず大声で叫んでしまう。
「っごめんなさい、はぁっ…ごめんなさい……」と繰り返すあかりに「大丈夫だよ」と声をかけた幸尚は、そのままゆっくり目を開けるよう促した。

「あ、汗滲みちゃうかな…はい、これでどう?」
「ありがとう、ございます……っ!?」

 タオルで拭かれた目を恐る恐る開け、ぼんやりと辺りを眺め……そしてあかりは凍りついた。

(これ、まさか……っ)

 股を開いてしゃがむあかりの足元には、吸水性のパッドが敷かれていた。
 ペットシーツだろうか、かなり大判だ。

 いやいや、失敗した時の保険だろうと必死で思い込むも、その期待は淡く崩れる。

「ん、これでよし。あかり、俺たちがおしっこの許可を出せるようしっかりおねだりしろよ」
「二人が許可したら、すぐにそのまま出していいからね。あ、これ吸水力すごいから溢れる心配はないよ?」
「そ……そんな…っ」

 あかりの股の下に敷かれているのは、介護用の給水パッドだ。
 出所はもちろん、奏の両親のクリニックからである。
 事前に実際の給水力も(もちろん水でだが)確認済みだ。たとえ2リットル漏らそうが床に染みることがないように重ねて敷いてある。

(うそ、これじゃ……ご主人様に、おしっこしているところも、おしっこも丸見え……!!)

 トイレでの排泄は許されないにしても、たとえばオムツやおまるなどを使わせてもらえると思っていたあかりは呆然とする。

 色々考えたんだけどさ、と奏がショックで涙をハラハラと流すあかりを見ながらニヤリと口の端を上げた。

「どうせなら、絶対やりたくないシチュで排泄許可すりゃ、さらに追い込めるかなって」
「奏、様……」
「おむつとかバケツとかも考えたんだけどさ。やっぱり一番はこれでしょ、犬みたいで唆るし」
「ちゃんと、おしっこするところ見て下さいってお願いするんだよ?上手におねだりできたら、すぐに出させてあげるからね」
「ひっ…ひぐっ……いやぁ…こんなの、見られるのいやああぁ……!」
「……あかり?」
「っ、ごっごめんなさい!!ごめんなさいっ!!もう言いません、だからおしっこ出させて下さい!!」

 すがるような表情で必死に許可を求めるあかりに、奏は冷たく「なら、ちゃんと言わなきゃな?」と返す。

「ちゃん、と……んうっ……ふーっ、ああっ…」
「あかりは俺たちに見られながらおしっこを垂れ流したいんだよな?ならそれをはっきり、具体的に言わないと」
「あ……ぁ…………」

(そんな…こんなとこで出す………奏様と、幸尚様に全部見られながら…)

 身体はもう限界をとっくに超えている。
 だが、あかりの心に残った羞恥心だけがそれを必死で押し留めていた。

(言わなきゃ、おしっこできない……でも、そんな恥ずかしいこと…)

 躊躇うあかりに「んーまだ余裕ありそうだね」と幸尚が零す。
 その言葉にあかりはビクッと震えた。

「あ、あ、幸尚様……」
「奏、あかりちゃんを手伝ってあげてもいい?」
「んー、まあこのまま言えなくて失敗ってのもなんだし、いいんじゃね?でも何すんだよ、何も決めてねーだろ」
「大丈夫、僕少し調べてきたんだ」

 そう言うと、幸尚は部屋のスピーカーにスマホを接続し、何かを操作し始めた。
 しばらくしてスピーカーから流れてきたのは

「…川の音?」
「っ、いやっこれダメえええっ、出ちゃう、おしっこ出ちゃうとめてえええっ!!」

 奏が呟くのと、あかりが必死の形相で叫ぶのはほぼ同時だった。

「そ、川のせせらぎ音。水の流れる音は尿意を誘発するんだ。今のあかりちゃんには相当キツイはずだよ」
「お願いっ、ちゃんとおねだりするからっこれとめてっ!!」
「…あかり、敬語」
「うああああっ、申し訳ございませんっお願いします、ちゃんと命令ききますっ、だからだめええっもれちゃうううっ!!」
「うん、これちなみに2時間の動画だからね。流石に終わるまでにはおねだりできるよね?」
「ううっ、そんな……っ…」

 ああ、どうやっても逃げられないのだとあかりは悟る。
 恥も外聞も捨てて、排尿を見てくれと二人に懇願すればすぐにでも許可をもらえるだろう。
 そうすればこの地獄からも解放される。

 …分かっているのに。
 心の中では何度も「おしっこ出すところ見て下さい」と叫んでいるのに。

(いやっ……そんなの、見られたくない…でもっ、もう無理…ううっ……おしっこ、ださせて…やだ、やだっ、恥ずかしい…)

「恥ずかしい?」

 心の中を読んだかのように、幸尚があかりに囁く。

「大丈夫だよ、僕たちはあかりちゃんが漏らしたって嘲笑わない、蔑まない」
「っ……でも……」
「…恥ずかしいだけじゃねーのか、その様子だと」
「え………」

 奏の問いかけの意味もよく分からない。
 もう、おしっこしたくて、頭が回らない。

「ほら、さっさと言わないとマジで失敗するぞ?さっきからちょっとちびってるし」
「えっ、そっそんなっ!!」

 下を見れば、十円玉くらいの薄黄色のシミが2つ。
 それを見た途端あかりは「いやああああっ見ないでええっ!!」と泣き叫んだ。

「お願い見ないでっ!!だめえええっ!」
「あかりちゃん落ち着いて」
「だめなのっ、こんなのだめなのっ!!こんなの、『私』じゃないっ!!」
「「!!」」

 その言葉に、二人が固まる。
 そしてここまで頑なに排尿を拒む理由は単なる羞恥ではない事を確信した。

「…なるほどな、あかりが俺たちに見せてる『普通』が壊れるってか」
「あかりちゃん、僕たちにも演技しちゃうもんね……」

 あかりは奴隷としての顔を見せていても、それですらどこかで線引きをして理想の奴隷を演じている。
 SMはロールプレイでもあるから別に問題ではないと奏も幸尚も思っているが、思った以上にあかりが『普通』から外れることを怖がっているとなると、また話は変わってくる。

 きっとあかりにとって、どれだけ管理された奴隷であっても排泄を見せつけるのは普通ではないのだ。
 …いや、流石にそれは普通じゃない人が大多数だろう。それは二人とも良く分かっている。

 問題なのはそこではない。
 あかりを自由にするために始めた主従関係なのに、それですらあかりは『理想の自分』で自分を縛ろうとしている。

(それじゃ、意味がねーんだよ)
(本当のあかりちゃんを、また隠しちゃうの…?)

 あかりを、たとえあかりですら閉じ込めることは、許さない。

 顔を見合わせ頷いた二人は、あかりの前にしゃがんで陣取る。

「なあ、あかり。おしっこするところを見られても、あかりはあかりのままだ」
「ひぐっ…ひぐっ……」
「あかりちゃんが決めた『奴隷』のあかりちゃん像なんて、僕たちは望んでない」
「俺たちは、そのままのあかりがいい。どんなに無様だろうが、惨めだろうが、淫乱だろうが……あかりが嫌いなあかりだろうが、俺たちはそれがいい」
「ひぐっ…奏様……」

「あかりちゃん、もういいんだ。普通じゃなくたっていいんだよ」

 極限を迎えた頭に、奏の、幸尚の言葉が染み込む。

(普通じゃなくて、いい……)

(私の嫌いな、私を出しても、いい……?)


 私が嫌いな私を出しても
 奏様と幸尚様は、受け止めてくれるー


 そう気づいた時、あかりの中で何かが弾けた。

「ひぐっ……わたし、こんなの、やなの」
「うん」
「おしっこ見せつけるなんて、ダメな私なの」
「おう」
「……でも、ダメでもいい?」

「「当たり前だ」」

(ああ、いいんだ)

「……奏様、幸尚様………あかりが犬みたいにおしっこ漏らすところ、見て下さい…」
「おう、もっとはっきりおねだりしろ」
「っ、奏様っ!幸尚様っ!!あかりがリビングでおしっこ垂れ流すところを全部見て下さいっ!」
「もう一回」

 何度も、何度もおねだりを繰り返させられる。
 最後の方はもう悲鳴混じりだった。

 ちらりと幸尚が時計を見て、奏に合図する。

(15分、タイムリミットだな)

「よし、いいぞあかり、いっぱいおしっこ出せよ!」
「あかりちゃん、全部見てるからね。いいよ、出して」
「っ、ぁ……」

 そうして、その時は訪れる。

 チョロリ、とあかりの足元に、薄黄色の飛沫が溢れる。
 ずっと我慢を強いられていた尿道は最初こそチョロチョロと躊躇うように中身を溢していたが、すぐにその水流は太くなって。

 シャアアアア………ショロロロロ…

「あ……あひ………でて、る…」

 いつの間にか動画は止められていて、部屋にはあかりの排泄音だけが響いている。
 みるみるうちに黄色い紋がパッド全体に広がり、白い湯気とツンとしたアンモニアの匂いが漂ってきた。

「いやぁ……止まらない……おしっこ、臭い…」
「気にすんな、俺らは気にしない。ほら、全部出せ」
「あかりちゃん……おしっこに集中しようか。ね、いっぱいでて……気持ちいいね?」
「ぁぁ……きもち、いい……」

 臭いが気になるものの、すぐあかりの頭は一気に軽くなる膀胱とその開放感に酔いしれる。
 ふわふわと、真っ白で…きもち、よくて……

「ぁ……おしっこ、きもちいぃ………」

 あかりはいつしか快楽に蕩け、その潤んだ瞳で虚空を眺めながら、ジョロジョロとその中に溜め込んだものを全て吐き出すのだった。


 ………


「おー、1091g。比重は水とほぼ変わらないから大体1.1リットルだな」
「あかりちゃん、凄いねえ。これは辛かったよねえ…」
「ひぐっ、ひぐっ、うわあああぁん……」
「うんうん、よく頑張ったなあかり」

 やっと排尿が止まり、放心した頭で「終わった…」と安堵した次の瞬間、奏と幸尚がずっしり尿を含んだパッドを計測し始める。
 あまりの恥ずかしさに、しかしもう叫ぶ気力も残ってない。

 その足元には新しいパッドが敷かれ、時折りチョロリと新しい染みを作っていた。

「ひぐっ…おしっこ、止まらない……」
「あー、それだけ我慢してたからしばらく締まりが悪いのかも」
「水分も2リットル入ってるしね、まだまだ出ると思うからそのまま垂れ流していていいよ」
「うう、垂れ流す……」
「あかり、まだ調教は終わってねーぞ?」
「っ、おっ、おしっこ垂れ流させてくれてありがとうございますぅ……」

 奏と幸尚は、後片付けに忙しい。
 だがあかりの拘束は解かれることがなく、どうやらトイレで残りを出させてくれる気は無いようだと悟ったあかりは涙目になりながら締まりの悪い尿道からチョロチョロと小水を漏らし続けていた。

 けれど、あの決壊前ほどの恐怖はない。
 見られることはやっぱり嫌だと思うけど、それでも…やったからって、私は何も変わらない。
 いや、奴隷らしくは変わるだろうけど…ちゃんと「北森あかり」のままなのだ。

「まだ出てるな」と片付けを終えた奏があかりからチョロリと漏れる雫を目にする。

「まだ暫くは無理じゃないかな、僕も終わった後おしっこ近かったし、なんとなく締まり悪かったよ」
「そうなんだ、俺どうだったっけ……ってわかるわけねえな!あれだけおまけが付けば!!」
「そ、それは忘れて…あかりちゃん、おしっこ漏らさずにいられそうになったら教えて。そしたら終わりにしよう」
「はい、あの、まさか…」
「おう、せっかくだからあかりが漏らすところをじっくり観察させてもらう」
「う…ありがとうございますぅ……うぅ…」

 涙目になりながらもしおらしく漏らす姿を見せるあかりに「一つ壁を越えたかな」と二人はソファでいちゃつきながら話す。
 奏はさっき片付けがてらスッキリしてきたはずなのに、全く収まる気配がない。
 そんな奏に触発されてさわさわと奏に触れる幸尚は、しかし流石にあかりが気になるのだろう、それ以上のことはしてこない。

「結構頑張ったよねぇ…追い詰めすぎたかと思ったけど、結果的には良かったかな」
「だな、今のうちに壁を破っておかないと、後々拗れそうだし」
「……壁?」
「ああ、あかりはまだ自覚ねーな」

 SMがコミニュケーションだってのは分かっているな?と奏が確認する。
 はい、と頷くあかりに奏は「今のあかりはまだコミニュケーションになってないんだ」と指摘した。

「コミニュケーションになってない…」
「んー全部じゃないけどね。でも、ある一点以上は入らせない、そんな壁があるんだよ」
「ちっちゃい頃からずっとからだけどさ。でもまさか、プレイでもそうなるとは思わなかった」

 その性質上、この関係は全てを取っ払い、お互いの欲望を引き摺り出す。
 そして常識では嫌悪して当たり前の行為ですら相手のためなら歩み寄り、与え、受け取ることが出来なければ成立しない。
 ただ自分の好きなことだけをするなら、相手を使ったオナニーと変わりがないのだ。

「今日の尚、キレッキレだろ?今までない躾け方だったし、しっかりご主人様してた」
「はい。凄く…ゾクゾクしました」
「な、これってさ、尚の歩み寄りだぜ?…ピアスの話が出た頃の尚なら、絶対にできなかった」

 知っている。
 幸尚はあかりや奏にとって守るべき存在だけど、その幸尚自身はあかりや奏が傷つくのを何より嫌がるのだ。
 今だってそれは変わっていない。

 そんな幸尚にとって、二人のプレイはできることなら止めたいものばかりだ。
 それでも、性癖を満たされて喜ぶ二人を知っているから…二人が笑っているのが嬉しいから、幸尚は少しでも『ご主人様』として振る舞えるよう歩み寄り続けてきた。

 その結果が、今日の幸尚だ。

「そもそも俺らみたいな性癖持ちじゃない尚が、ここまで歩み寄ってくれているんだ。なのに、最初にこの関係を望んだあかりが自分の普通を守り続けている」
「それは……」
「なああかり、俺らは3人だ。一般的な主従関係より、当然歩み寄る機会は増える。…これから先今回のようなことを俺たちが望んだ時、あかりは自分の普通を守ることと、俺たちに歩み寄るのと、どっちを選ぶんだ?」
「っ……」

 今日の調教を受けたから分かる。
 知らない間に、またいつものように『普通』を演じていた事を。

 油断すれば自分で作った檻の中に閉じこもって、少し苦しいけど安全な領域で安穏としてしまう自分を。

 踏み出すのは怖い事を。

 けれど……踏み出しても、私が無くなるわけじゃない事を。

「……奏様、幸尚様」

 あかりが顔を上げ、二人をまっすぐ見つめる。

「…多分、私はまた……逃げちゃいます」
「うん」
「普通じゃなくなるのは、怖いから……独りよがりになって、二人を置いてきぼりにするかもしれない」
「…おう」
「…でも、私は二人とずっといたい。3人の関係のままでいたいです」

 すっとあかりはその場に正座し、頭を下げる。

「どうか、私がまた…閉じこもったら、引き摺り出して下さい」
「あかりちゃん」
「頑張る、けど……でも、失敗しちゃうかも、だから」
「おう、そん時はきっついお仕置きを与えてやるよ」
「奏様…」
「だからさ、失敗してもいーじゃん。俺たちだって先走ったり、無茶やったりしながら手探りなんだし」
「…うん、僕だって……まだ、あかりちゃんが言ってくれないと命令するのは難しいし…」

 最初から完璧なんて存在しない。
 だから、3人で試行錯誤していこう。

 そう語る二人の笑顔に涙が溢れて。

「ありがとう……ございます…っ!」

 あかりは床に額をこすりつけながら、何度も感謝の言葉を二人に伝えるのだった。


 ………


「どうだ、少しは落ち着いたか?」
「うん。まだずっとトイレに行きたい感じだけど…」
「お水しっかり飲んで出そうね。暖かい方がいいかな」
「ありがとう、尚くん」

 プレイを終えた途端その場にへたり込んだあかりを、二人は慌てて清めてパジャマを着せ、ベッドに寝かせる。
 トイレに行くにも足が立たないあかりを奏は介助し、幸尚はレトルトのお粥を温めていた。

「疲れただろ、ゆっくり寝てろ」
「奏なんて普通に限界まで溜めて出しただけでグッタリだったもんね」
「開放感で力が抜けちゃうんだよな。あかりなんて長時間だったからそりゃ立てなくもなるって」
「ありがとう…ふふ、でも……凄かった…」

 あの開放感は病みつきになるね、とどこかうっとりした顔で、幸尚に差し出されたお粥を食べつつあかりは呟く。
 その布団の下で、モゾモゾと手が動いている。

「何だか、心まですっきりしちゃった…またやりたいなぁ…」
「そだな、でもあかりの体力を考えるとあんまり頻繁にやるのはまずい気がする」
「あかりちゃん、結構体力あるのにこれだしね…2ヶ月に1回くらい?奏だってそんなに頻繁に備品を拝借するの、まずいでしょ?」
「う、それは……姉貴にどやされるな…」
「ふふ……んっ………」

 悩ましい声を上げるあかりに「お前なあ」と奏は呆れた声を出す。

「流石に安静にしてろよ、第一自慰は禁止だろ?メシ食いながら自慰とか、どんだけ淫乱なんだよ」
「へっ?」
「へっ、じゃなくて、その手」
「え……ええええ!?」
「…気づいてなかったんだね……」

 またやっちゃった…としょげるあかりの言葉が引っかかる。
 また、ってなんだ、また、って。
 それは幸尚も同じだったようで。

「あかりちゃん、前にもこんな事があったの?」
「う、その……」
「んー?あかり、隠し事は良くないなぁ?」
「ご、ごめんなさい…」

 二人から詰め寄られたあかりは顔を真っ赤にしながらポツポツと話し始めた。

 それは、10月の定期試験が終わった頃かららしい。
 特別ムラムラしているわけでは…まあ、ずっと緩く発情した状態ではあるけれど、それでも学校で気になることは無くなったはずなのに、気がついたら股間に手が伸びている。

 それは無意識で、授業中だったり、休み時間のトイレだったり。
 自宅にいる時は流石に稽古中こそやらないものの、自室やトイレ、お風呂では触っていない方が珍しいほどだった。
 ひどい時は絶頂しかけるまで、自分を慰めていることに気づけない。
 もはや歯を磨くように、自慰が日常の動作の一部と化しているようだ。

「……ということで…」
「お前なあ、そういうことは早く相談しろよ!どうすんだよ、バレたら洒落になんねーぞ」
「それもそうだし、ずっと触ってるんじゃ授業も集中できないんじゃ…」
「…時々、ノート取り忘れてたりする……」
「だめじゃん」

 しょんぼりするあかりに「マジで貞操帯いるなこれ」と奏が呟けば「それ逆じゃないの!?」と幸尚が慌てて止める。

「いや、むしろ物理的に触れない方が諦めがつくし、定期的にリセットをかけて発散させればそれを目標に頑張れるだろ。何より……」
「何より?」
「あかりの管理されたい欲と、俺の管理したい欲が満たされる」
「そう来たか」

 既に奏は、貞操帯の製品自体は決めているらしい。
 ただ制作に時間がかかることと、何より金銭的な問題がある。

「セミオーダーメイドになるから…10万くらいするんだよな…」
「10万…たっかい……」
「その分質はいいし、長期装用もできる。メンテナンスも受けられるしな」
「そっか、でも…お小遣い20ヶ月分…」
「俺のバイト代貯金で2万はある」
「じゃ、残りを3人で出し合って…でもキツイねえ」
「あ、あかりは出さなくていいぞ?」
「なんで?」

 こう言うのはご主人様が用意するもんなの!と奏は即答する。
 そして幸尚にバイトしないか?と誘うのだ。

「冬休み、親が許せばだけど…俺、初詣のバイトするんだよ」
「初詣?…巫女さん?」
「お前な、俺の顔を見てから言ってくれ。女装の趣味はない。受付とか売り子とか」
「ああ、なるほど……女装する奏も見たかったけどな…」
「それは絶対やだかんな!!ったく……でさ、1日入れば1万円くらい貰えるんだ、二人でなら2日間バイトして、お年玉を足せば」
「それ、いいね!やる、母さんたちには伝えておく」
「いや許可は、ってまあ尚のとこは親二人とも優しいもんなあ」
「奏と一緒って言えば問題ないよ」

 ワイワイと盛り上がる二人とは対照的に、あかりは浮かない顔だ。
 おおかた、自分が身につけるものなのに二人にバイトまでさせていいのかなと悩んでいるのだろう。
 二人のためなら率先して動くくせに、自分のこととなると一歩引いてしまうのはあかりの悪い癖である。

「あかりはこう言うのにも慣れないとな。お前は奴隷なんだから、奴隷らしく身体張ってりゃそれで十分」
「それはそれで言い方…でもほんと、今回だって一番大変だったのはあかりちゃんだよね?」
「う、うん。でも二人だって」
「僕たちは体験したから分かるけど、僕たちの何倍もあかりちゃんは頑張ってる。だから本当に気にしなくていいんだよ」
「……ありがとう」

 さ、冷めないうちに食べちゃおう?と幸尚がすくってくれるお粥は、ただのレトルトなのに心に染み入る優しい味だった。


 ………


「奏、あかりちゃん今日学校お休みだから、帰りにプリント持って行ってあげなさい」
「へっ?何、なんでお袋がそんなこと知ってんの」
「あかりちゃんのお母さんから診察予約があったのよ、あかりちゃん熱出したって」
「え」

 朝の支度をしていた所に母が台所から伝える内容に、奏は内心ぎくりとしつつも「またなんでうち?」と母に尋ねる。

「うち、婦人科と泌尿器科じゃん。熱なら内科じゃねーの?」
「女の子は色々あるのよ!ほら、さっさと支度しなさい」
「へいへい」

(あかりが熱だすとか、天変地異が起こる…じゃなくて、まさか調教がまずかった…!?)

 健康優良児のあかりが熱を出したと登校しながら幸尚に伝えれば「うっそでしょ」と幸尚も心なしか青い顔をする。

「…前にあかりちゃんが熱出したのって、いつだっけ……」
「小学校の時だな、4年だっけ…大雪の日に薄着で走り回って風邪ひいた」
「そうだった。あかりちゃん風邪すらひかないもんね」
「あいつバカじゃねーのにほんと風邪引かねえもんな…いや、一周回ってバカな時はあるけど……」

 軽口を叩くも、どこか重い雰囲気が漂う。
 しばらく沈黙が続いた後意を結したのか、幸尚が「それってさ」と口を開いた。

「……土曜日の、せいかな」
「…分かんねえ。日曜日も一日中ベッドだったし…でも帰る時にはもう大丈夫って言ってたよな」
「あかりちゃんの大丈夫は…」
「うん、半分くらいは大丈夫じゃねーな。マジでどうしよう…」
「奏んちで診てもらうんだから大丈夫だよ!うん、大丈夫…」

 そう言い聞かせながら学校で全く身の入らない1日を過ごし、奏と幸尚は預かったプリントを持ってあかりの家に突撃した。
 そろそろ小学生の稽古時間なのだろう、道場からは賑やかな声が聞こえてくる。

「いらっしゃい、奏君、幸尚君。ああプリントね、ありがとう」
「師範、あかり大丈夫?」
「ああ心配かけてごめんね。お薬ももらってきたから大丈夫、1週間は学校お休みするから」
「えええそんなに悪いんですか!?」
「軽い腎盂炎だって奏君のお母さんは言ってたわ、入院まではいらないって」
「「………!!」」


 日曜の夜、家に帰ってからもなんとなく元気がなかったあかりは、夜中に40度近い熱を出したらしい。
 さらに何度もトイレに通うあかりに、これはおかしいと奏の母に連絡をとったところ、朝イチで診察を受ける事になったのだ。

 奏の母…泌尿器科医である芽衣子は一通り診察と検査を終えると『腎盂炎だね』と診断を下した。

『膀胱炎を起こすばい菌が、腎臓の方まで上がって行っちゃったみたい』
『じんう、えん…』
『あわわわ芽衣子さん、それって大丈夫なんですか!?』
『落ち着いて紫乃ちゃん。腎盂炎と言っても軽症だから、お家でお薬飲んでゆっくりしていれば治るわよ。あ、しっかり水分は取っておしっこ出してね。ばい菌を洗い流さないといけないから』
『良かったぁぁぁぁ……あかり、滅多に熱なんて出さないから悪い病気かと』
『気持ちはわかるわ、あかりちゃんだもんね』

 ずいぶん失礼なことを言われているようだが、熱でぼんやりしているあかりにツッコむ元気はない。

『女の子はちょっとしたことで膀胱炎になりやすいの。ここ数日冷えてたし…あかりちゃん、最近おしっこを我慢することがなかった』
『!!あ、えと、その……が、学校でトイレ行けなくて…』

 とっさについた嘘だが、芽衣子は『それね』とあっさり信じたようだ。

『ただ、普通は膀胱炎止まりなのよ。腎盂炎までなるってことは…あかりちゃん、ちょっとお疲れなのかもね』
『疲れ、ですか』
『ストレスが大きかったり、疲れが溜まっていると腎盂炎になりやすくなるの。だから、とにかくゆっくりお家で休んで。熱が下がっても2週間は稽古しちゃダメよ』
『はい……』


 あかりの母…紫乃の説明をしたり顔で聞く二人だが、内心は冷や汗をかいていた。
 もう間違いない、自分たちの調教が原因だと確信する。

「お薬飲んでゆっくり寝ていれば大丈夫だそうよ。特にうつるものでもないから、顔見ていく?長い時間はダメよ」
「は、はいっ」


 ………


「「申し訳ありませんでしたあああっ!!」」
「…え、ええっ?」

 あかりの部屋に入るなり土下座する二人に、一瞬何が起きたのか分からなかった。

「あの、尚くん、奏ちゃん……?」
「ごめんあかりちゃん、僕たち調子に乗ってやりすぎた…!」
「あかりすまん、そんなになるほど頑張ってたなんて俺気づかなくて…」
「えと、うん?」

 しんどいよね?と涙目の幸尚に、熱でぼんやりしたあかりはようやくこの二人が責任を感じている事に気づく。

「…しんどい、ね……ずっと腰痛くて…おしっこいきたくて」
「僕が我慢させすぎちゃったせいで…ぐすっ…」
「いや、それもだけど……ピアス開けてからあかりは一気に変わったから…なのに俺ら、あかりだから大丈夫だって調教をガンガンやってたろ?」
「…でも、それは…私もしたかったから…」
「それでも、あかりの体調をもっとよく見てなきゃいけなかったんだ、俺らは『ご主人様』なんだから」

 本当にごめん、と頭を下げる二人に「…だいじょぶ」とあかりは弱々しく微笑む。

「失敗しながら、作っていくって……奏ちゃんも言ってた」
「あかり…」
「だから…いっしょ。怒ってないから、ね?」

 大丈夫だよ、すぐに元気になるからと赤い顔でなんとか笑顔を作るあかりの姿に、胸がつきりと痛む。
 ずっとそばで看病したい気持ちを抑えつつ、二人は「明日も来るから」「ゆっくり寝てね」と早々にあかりの家を後にした。

「…やらかしたよな……嬉しすぎて、調子に乗って…あかりがどれだけ望んだからって、それを理由に無茶させるのは…ご主人様失格だ……」
「うん……あかりちゃんが一番大変だって…分かってたのに…」
「それに、普通はあそこまで酷くならないって師範は言ってた。…きっと、ピアスを開けてからずっと発情してて、触れる状態なのに触ることを許されないのもストレスだったんだ」
「……限界超えちゃって、だからもう自分じゃ触るのを止められない…」
「そういう事だな」

 いつもの幸尚の家なのに、あかりがいないだけでなんだか少し寒くて寂しい感じがする。
 大きな身体を丸めてポロポロと涙をこぼす幸尚を「失敗はしゃーねえよ」と奏は抱きしめ口付けた。

「んっ……奏は何でそう元気なの…」
「いや、めちゃくちゃ落ち込んでる。でも、落ち込んでたってあかりは元気にならねえ。むしろ余計に心配させる」
「う、うん……」
「今俺たちがやることは、やらかしを反省して次に活かすこと、じゃね?」
「…うん、そだね」

 その日は二人で朝まで、これからの調教をどうするか延々と話し合う。
 あかりが満足できるように、けれどあかりの負担を少しでも減らすように…

 この半年で、あかりは変わった。
 精神的にはそれでもあまり変わらないが、その肉体は常に発情することを強いられ、快楽に貪欲に、そして弱くなっている。
 無意識に自らを慰めなければならないほど昂り、それに振り回され続ける…あかりが望んだ形とは言え、まだ学生の身体にはあまりにも酷な変化だった。

 だからと言って、もう後戻りはできない。
 恐らくピアスを外しても、一度敏感になった身体はそう簡単に元には戻らない。
 何より…あかりの脳は、被虐の悦びを、管理される幸福を刻み込まれてしまった。

『SMの快楽ってね、麻薬みたいなものよ。一度味わえば脳がそれを記憶する。例え離れても、きっかけさえあればすぐにこの世界に引き戻される。
 あんた、自分がたった1冊のSM雑誌で性癖歪められてそのまま普通に戻れなかったんでしょ?なら、ちゃんと主従関係で調教すればどうなるか…分かるわよね』

 奴隷を見つけたと初めて話した時の、塚野の言葉が奏の頭をよぎる。
 そう、あの時点で…いや、それよりずっと前に退路なんて絶たれていたのだ。

 例えあかりがこれから誰かと恋をしても…きっとあかりは、普通のセックスじゃ、もう満足できない。

「なあ、尚」

 覚悟を決めた顔で、奏は幸尚を見つめる。
 それは、幸尚も同じ気持ちだった。

「……もう迷わねえ。あかりに貞操帯を着けて、俺たちが責任持ってあかりの性欲を管理するぞ」
「…うん」
「あかりには一切性器に触れさせない。その代わり俺たちがちゃんと洗って、慰めなきゃいけない。……こないだ、あかりのおっぱい触っただろ?ああいうことも、する」
「……セックスも、する?」
「いや、それはしない、この間言ったとおりだ。少なくともあかりが望まない限りはしない。あと、尚が受け入れられないうちは絶対にしない」

 それは、幼馴染だから、恋人ではないからと守ってきた一線。
 貞操帯を着けると決めてはいたものの、完全に管理するかどうかは…正直ずっと躊躇いがあった。
 最初の段階で貞操帯の話が出ていながらここまで先延ばしにしてきたのは、もちろん費用などの現実的な話もあったけれども、奏の覚悟が決まってなかったのが一番だった。

 けれど、それは結局あかりを苦しめることになった。
 むしろ性感を上げてしまうピアスより先に、貞操帯をつけて管理するべきだったのだと今では思う。

「あかりが元気になったらすぐに3人で相談しよう。なるべく早い方がいい」
「うん。……結局それが、あかりちゃんを大切にする事に繋がるから…僕も、頑張る」
「おう。あかりは俺たち二人の奴隷だ。……二度とこんな失敗は…欲望に任せてあかりを疎かにはしねぇ」

 貞操帯装着と管理のプランを二人で練りつつ、ふと窓の外を見上げる。
 雲間から覗く朧げな月明かりに、思いを馳せる。

(……あかりちゃんがいないだけで、こんなにも暗い)
(あかりは…本当に俺たちの灯りだよな……)

 ただの幼馴染ではもういられない。
 そして欲望のまま突っ走る子供では、もう守れない。
 大人になるときなのだ、自分たちも、あかりも。

 今夜は風が強い。
 本格的な冬が、すぐそこまで迫っていた。
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