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第13章 何も知らない子供に救いの手を

第348話【閑話】我らが殿下をお迎えに

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 だいぶ秋めいてきたある日、俺は『黒の使徒』の教皇から直々に呼び出しを受け教団本部を訪れた。
 俺も教団の幹部の末席に名を連ねているが直接お目にかかるのは初めてのことだった。

 指示通り拝謁の間と呼ばれる部屋に入ると教皇の側近という人が待ち構えており、間もなく教皇が来るので跪いて待つようにいわれた。
 教皇は数段高くなった壇上に設けられた玉座のような椅子に腰掛けるようだ。
 なんでも、拝謁の最中であっても顔を上げたらいけないらしい。
 まるで、皇帝に拝謁するかのような感じだ、いや、俺は皇帝に拝謁したことはないが・・・。

 しばらく待つと壇上に人の気配がし、声がかけられた。

「待たしたな。招集に応じてもらい大儀である。
 今日はそなたに特別重要な仕事を与えたいと思う。
 大変困難な任務であるが、そなたであれば無事にやり遂げてもらえるものと信じておる。」

 猊下はそう言って、俺に直々に仕事を与えて下さった。
 その仕事とは現在王国に留学中の第二皇子ザイヒト殿下をお迎えに上がり猊下の許までお連れすることである。
 今回の任務に当たって猊下は、三隻の船と百人余りの部下それに十万枚の金貨を割いて下さった。
 ザイヒト殿下を丁重にお迎えするための人員であり、金貨なのだそうだ。

 猊下は俺にそれだけ命じると謁見の間を出て行き、俺は出迎えてくれた側近から詳しい話を聞くことになった。

 ザイヒト殿下は現在オストマルク王国の王都にある王立学園の寮に入っており、これを内密に猊下の許までお連れしないとならないらしい。

 今回ザイヒト殿下をお迎えする目的は、現在の皇太子であるケントニス第一皇子を排除し、ザイヒト皇子を皇太子に据えるためだそうだ。

 現在、王国にはザイヒト殿下の他、『黒の使徒』と対立している皇后と第一皇女がおり、特に第一皇女は同じ学園に留学しているので、絶対に気取られてはいけないとの事だった。 
 しかも、王都にある帝国の大使館の者は全員が皇太子派らしい、要は敵地に侵入に内密にザイヒト殿下をお連れしろということだ。たしかに、難しい任務だ…。


     **********


 俺も末席とはいえ幹部の一人だ、皇太子の地位にまつわる経緯は聞いている。
 元々は皇后争いまで遡るらしい。
 我々『黒の使徒』は今の第二皇妃を皇后に推していた。
 第二皇妃は我々の息のかかった貴族の娘で尚且つ我々と同じ貴色をまとった姫である。
 黒髪・黒い瞳を尊ぶ我々としては当然この姫を皇后にと推した。

 しかし、我々と対立し、我々を排除しようとする一派が現在の皇后を押し込んできたのだ。
 悔しいことに我々と対立する一派は複数の侯爵家とその系列貴族からなり、貴族の派閥としては『黒の使徒』の息のかかった貴族の派閥よりもはるかに大きい。
 結局、皇后争いのときに闇に葬るのを失敗したために、皇后の座を大貴族共が推すヴィクトーリアに取られてしまったのだ。

 そもそも、家格からいってもヴィクトーリアは帝国の中でも大きな領地を有する侯爵家の娘。
 我々が推した第二皇妃は子爵家の娘であり、正攻法では勝ち目がなかったのだ。
 当然、『黒の使徒』流のやり方でヴィクトーリアには消えてもらう手筈であったが、警戒が厳しく排除に失敗したのだった。

 案の定、皇后の地位に就いたヴィクトーリアは、ことごとく我々と対立する政策を打ち出し我々にとっては目の上のタンコブになっていった。

 しかも、皇后は早々に皇帝との間に男児を授かった、第一皇子だ。
 帝国の法では、皇位継承権は皇后の子に優先順位があり皇后の第一皇子はそれ即ち継承権第一位、何事もなければ次期皇帝である。

 我々、『黒の使徒』は頭を抱えることになった。
 帝国成立以来、皇帝は我々の傀儡であり、我々の指示通りに皇后を向かえ、我々の都合の良い皇帝を生み出してきたのだ。

 それが今、我々の言うことを聞かない皇帝が生まれようとしているのだ。
 第一皇子が誕生した時点では、我々はそう焦りはしなかった。
 従来の我々のやり方で、成人するまでに闇に葬れば良いと思っていたから。
 そう思ってのんびり構えていたのが仇になった。

 皇后派の貴族によるガードが予想以上に強く、第一皇子の暗殺は難航したのだ。
 そうこうする間に、第一皇子は王国の学園に留学してしまった。
 我々はこの時自分達の犯した間違いに気付いた。
 我々に楯突く皇后派の貴族の勢力を削ぐため、皇后派の貴族の有力処を王国に置いた大使館に左遷していたのだ。
 第一皇子は自分の後ろ盾となる貴族に守られて王国で生活することになり、ますます暗殺が困難になってしまった。
 
 学園への留学期間は七年間、卒業したときには十五歳と慣例では立太子の儀を行う年齢になってしまう。
 ここに来てはじめて我々は焦りだすが、上手い暗殺計画はなかったのだ。

 そして、七年後、第一皇子は極めて優秀な成績で王立学園を卒業して帰ってきたのだ。
 大陸で一番高度な教育を行っていると有名な王立学園を学年トップの成績で卒業してきた。
 皇后派の貴族は優秀な成績を上げた第一皇子に期待し、立太子の儀を急ぐように皇帝に要求してきたのだ。
 その時、第一皇子は十五歳、慣例では立太子の儀を行う年齢になっている。

 我々『黒の使徒』は、帝国設立以来皇帝の位には貴色をまとうもの以外は就いた事がないと反対運動を展開した。
 しかし、法にはそんなことは記されていないと有力貴族に突っぱねられ、我々の息が掛かった貴族以外は全て温厚で優秀な第一皇子を推したため、第一皇子の立太子を拒むことが出来なかったのだ。

 しかし、我々は諦めなかった。我々には希望の星があったのだから。
 それは、当時五歳の第二皇子、ザイヒト殿下だ。
 我々『黒の使徒』が後ろ盾となっている第二皇妃の長男で、見事な黒髪、黒い瞳、濃い褐色の肌という伝承で知られる初代皇帝のような容姿をしている。
 まさに『黒の使徒』が御輿に担ぐのにうってつけの皇子である。
 しかも、我々がお世話係兼教育係として送り込んだ侍女によく懐いており、侍女の言うことを何でも鵜呑みにするのだ。
 我々が求める皇帝の資質を全て兼ね備えていると言って良い皇子だ。

 「黒の使徒」の方針は固まった。
 ザイヒト皇子が立太子出来る十五歳になるまで、皇太子の座は第一皇子に預けておくことにした。
 幸い皇帝はまだ若く、健康状態も良い。
 間違っても、それまでに第一皇子が皇帝の座に就くことはないだろう。
 成人したザイヒト皇子を確保したら第一皇子を消せば良いということになったのだ。


     ********** 


 そして、数年は何事もなく、我々は第一皇子を殺害する機会をのんびりと待っていた。
 ところが、数年前にいきなり現われた二人の小娘によって事態は急変することになったのだ。


     

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