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第十五章 ウサギに乗った女王様
第441話 悪党には容赦ないんです
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ヴァイオレットお姉さんに冒険者管理局の仕事を見学させるため訪れた冒険者研修施設。
ヴァイオレットお姉さんはそこに建ち並ぶ研修受講者用の宿舎として建ち並ぶ建物の多さに驚いていたの。
その建物の説明をするついでに、冒険者研修で挫折してしまう者がそこそこいると話したら。
「冒険者研修って、そんなに挫折する方が多いのですか?
どんな研修をしているのでしょうか。
相当厳しいのでしょうね。」
ヴァイオレットお姉さんはそんなことを問い掛けて来たよ。
「そんなに厳しい内容じゃないよ。
現に、研修を受講した女性で挫折した人は、おいらが知る限り一人もいないもの。
毎朝、早起きをして王都の清掃、それからお昼まで武器の扱い方の鍛錬をして。
午後は実習だね、最初はウサギ狩りで、慣れたらトレント狩りね。
それと、合間合間に簡単な法知識を教えてるの。やったらいけないことをね。」
「えっ、ウサギ狩りに、トレント狩りですか?
それって、魔物狩りってことですよね。
女性でも出来るのですか?」
女性が魔物狩りをすると聞き、ヴァイオレットお姉さんは耳を疑った様子だよ。
無理も無いね、女性が魔物を狩るなんて、この国では誰もしなかったことだから。
「大丈夫だよ。
魔物狩りの講師も父ちゃん以外は全員女の人だもの。
女性講師が、実際に魔物狩りのお手本を示しながら、指導しているの。
さっき、赤子の手をひねるように、受付のお姉さんがならず者を倒していたでしょう。
管理局のお姉さん達は、みんな、ウサギでも、トレントでも楽勝だよ。
それに研修では、魔物狩りと言っても一人で倒せと要求する訳じゃないんだ。
上手く連携してグループで魔物を倒すコツを教えているの。」
女性は男性に比して非力なので、講師の指導に従いグループで連携して効率的な狩りをしようとするんだ。
一方で、冒険者になろうって男は、なまじ腕に覚えがあるから講師の助言に耳を貸さない奴が多いの。
しかも、協調性の無い『俺様』連中が多いから、うまく連携が取れないんだ。
その結果、痛い目に遭うの。ウサギを舐めてかかって、血塗れになった愚か者が何人いたことか。
田舎では喧嘩に負けたことが無いような連中が、毎日のように魔物に打ちのめされて。
その横では、見下していた女の人が効率的に魔物を狩っているのだもん。
研修が終わる頃には、根拠のない自信も、薄っぺらいプライドもズタボロになっちゃうの。
田舎ではサル山のボスを気取ってたけど、王都では雑魚に過ぎないと思い知らされるんだ。
そして、挫折して田舎へ帰ることになるの。
おいらの説明を聞いて、ヴァイオレットお姉さんは合点がいった様子で。
「なるほど、世の中、上には上がいると知って自信を無くすのですか。
ですが、それで自分の器を自覚して、真っ当に生きようと考えてくるなら。
ここで研修をしている甲斐もありますね。」
「まあね。でも、挫折しても、堅気になろうと改心するとは限らなくてね。
冒険者を諦めて、博打で生きて行くとか、泡姫さんのヒモになるとか。
そんな、ロクでもない事を言っている者も多いの。」
「あっ、それで、辺境の街道整備事業ですか!
ここで、冒険者の登録に挫折した人を勧誘するんですね。
そんなのを王都に野放しにすると、ロクな事がないでしょうし。」
さっき、管理局の本部事務所でした話に思い至ったみたいだね。
「そうだよ、今は研修が終了する時間に、騎士が何人か待ち構えていて。
冒険者研修を合格できなかった人を、勧誘しているんだ。
騎士が取り囲んで『誠心誠意』説得してる甲斐があって、勧誘成功率百%だよ。」
「ええっと、それは…。」
騎士が説得している様子を思い浮かべたのか、ヴァイオレットお姉さんはリアクションに困ってる様子だった。
そこへ。
「あっ、陛下、お久しぶりです。
トレントの本体の回収ですか?
しばらくお見えにならなかったので、大分貯まってますよ。」
この施設で、冒険者研修の講師をしてもらってるお姉さんが声を掛けてくれたの。
後ろには三十人ほどの男女を引き連れてたよ。みんな、十五、六歳くらいに見えた。
「今日は、こっちのお姉さんに管理局の施設を案内しているの。
管理局にお勤めしてもらうかも知れないので、見学してもらってるんだ。
そちらは、研修の受講者かな?」
「はい、今日から研修を始める人達です。
これから、ウサギ狩りの実習に出かけるところなんです。」
これは、良い時に来たみたいだね。
「そう、じゃあ、ここでの仕事を知ってもらう良い機会だから。
ウサギ狩り研修を見せてもらって良いかな。」
「是非、見学して行ってください。
女王陛下がご覧になっているとなれば、研修者も張り切るでしょうから。」
そんな訳で、ヴァイオレットお姉さんにウサギ狩り実習を見てもらう事になったの。
**********
冒険者研修施設を出て、ほんの少し歩いた草原の中。
「それじゃ、私がウサギを狩って見せるのでよく見ていてくださいね。」
そう告げて、ウサギの巣穴に石を投げ込む講師のお姉さん。
怒りで目を血走らせたウサギが、巣穴から飛び出して、襲い掛かって来たよ。
それを慣れた動作で軽く躱すと、お姉さんは一撃でウサギを仕留めてた。
「凄い…。
あんな華奢な女性が、ウサギを一撃で葬るなんて信じられません。」
その様子を見て、ヴァイオレットお姉さんがとっても感心していたよ。
もちろん、研修の受講者達もみんな驚いてた。
それから、カリキュラムに従い、受講者にウサギ狩りをしてもらったのだけど…。
「やったー! ウサギのお肉、ゲット!
凄いです、本当に私達だけでウサギを倒せました。」
最初に実習に挑んだ五人組のお姉さん達から歓声が上がってたよ。
「なるほど。
ああやって、ウサギを引き付ける役と攻撃する役を分担するのですか。
そんな役割分担ができるように、うまく誘導するのが講師の役割なのですか。」
実習の様子をジッと観察していたヴァイオレットお姉さんが、そんな感想を漏らしてた。
とは言え、皆が皆、上手く狩れる訳でもなく…。
「うわっ! こっちに来るな!
やめろ、噛むんじゃねえ、痛てぇって言ってるだろう!」
ある班の順番の時、お姉さんが石を投げ込むのをボッと見ていた男がいたの。
そいつボッとしてたんで、巣穴から飛び出来たウサギを躱せなかったんだ。
いきなり、腕に噛みつかれて、スプラッタになったの。
で、グループの他のメンバーはと言うと。
「だっせー、あいつ、ウサギに腕を食い千切られてやんの。」
「アハハ! バカだー!」
腕に噛み付かれた男を指差して笑ってやんの。助けに行こうともしないんだよ。
「ほら、そこ! 五人で連携してウサギを狩るように言ってるでしょう。
何で、同じ班の人がウサギに噛みつかれているのに、呑気に見ているの。
早く、救助して。
それと、ウサギがあの人に集中しているんだから。
後ろから近寄れば簡単に倒せるでしょう。
ぼさっとしてないで、早く動いた!」
講師のお姉さんから、叱責されると…。
「へい、へい、分りましたよ。
チッ、煩せぇな。
せっかく面白いところなのに…。
急造の班のメンバーなんて、助けてやる義理もねえじゃねえか。」
そんなやる気の無さそうな言葉を呟きながら、男が一人、ウサギに向かったの。
残りの三人もニヤつきながら、それに続いたよ。
そして、目の前までウサギが迫った時のこと。
「ほれ、お前も俺達を笑わせてくれや!」
後ろを歩いていた三人が一斉に、ウサギに向けて先頭を歩く男の背中を蹴とばしたんだ。
蹴とばされた男は、その勢いで剣を持ったままウサギに向かって突っ込んで行ったよ。
不意打ち的に背中を蹴られた男は、ウサギに斬り付けることも出来ずに追突したの。
すると、ウサギはターゲットを倒れ込んできた男に変えて…。
「ウギャーーー!」
その男の剣を持つ腕に噛みついたよ。
男は剣を取り落として、何の抵抗も出来なくなっちゃった。
「アハハ! 見ろよ!
さっき、最初にやられた奴を笑いモンにした癖に。
自分だって、他人のことを笑えねえじゃないか。」
ホント、冒険者になろうなんて言って、田舎から出て来る連中って質が悪いな…。
他人を餌にして魔物を狩る最低な奴って、何処にでもいるんだね。
ひとしきり、ウサギになぶられている男を笑い者にしていた三人だけど。
周りの受講者から白い目で見られている事に気付いた様子で。
男を甚振ってるウサギに後ろから近付くと、三人で滅多突きにしたウサギを倒していたよ。
「へっ、へっ、へっ。
ほれ、ウサギ、倒したぜ。
これで文句ねえだろうがよ。
ちゃんと、役割分担して狩りをしたぜ。」
三人組の一人が悪びれる様子もなく、講師のお姉さんに言ったんだよ。
すると、お姉さんは、ニコニコと笑みを浮かべてその男に近付くと…。
「ええ、見せてもらいました。
仮初めとは言え、仲間を魔物の餌にするとは見上げた根性ですね。
では、あなた方の班には、もう一匹ウサギ狩りをしてもらいましょうか。
役割分担交替です。」
そう言って、男をポンと放り投げたの、近くにあった別の巣穴に向けて。
自分よりもガタイの良い男を軽々と放り投げるお姉さんに、みんな驚愕していたよ。
ウサギって人間よりはるかに大きいからね。
放り投げられた男は、ウサギの巣穴にスッポリと落ちて行ったの。
「ギャーーー! やめろ! 噛むんじゃねえ!
おい! 誰か! 誰か助けてくれー!」
巣穴の中から聞こえてくる男の悲鳴…。
「どうですか、自分が餌の立場になった気分は。
もうこんな外道な事はしないと誓いなさい。
そうしたら、助けてあげても良いですよ。」
「分かった、もうしねえ。
もうしねえから、助けてくれ!
早く助けてくれねえと、俺、こいつに食い殺されちまうよ。」
男の誓いを聞き届けたお姉さんは、小石を幾つも巣穴の中に放り込んでたよ。
すると、口の周りを血で真っ赤に染めたウサギが飛び出して来た。
ウサギって単純だから、石をぶつけられて意識がこっちに向いたみたい。
飛び出して来たウサギを、お姉さんは一閃のもとに斬り捨てたよ。
お姉さんの指示で、他の班員二人が巣穴から男を救い出して来ると…。
「うわーん! まま!
くらいのこわいよ、せまいのこわいよ!
うさぎさんが、かみついてくるよ!
もういやだー! おうち、かえる!」
すっかり幼児退行しちゃってたよ。
「あら、壊れちゃったわね…。
ねえ、あなた達二人もこうなってみる?」
変わり果てた男を見て、お姉さんは残りの二人を脅したんだ。
二人は、必死になって首を横に振ってたよ。
「そう、じゃあ、あなた達、この男の世話は頼むわよ。
あなた達が責任を持って治るまで面倒見るのよ。
こんな生ゴミを王都に捨てたら、絶対に赦さないからね。
草の根を分けてでも探し出して、同じ目に遭わせてあげるわ。」
お姉さん、冒険者登録の申請書で二人の素性は分かってるから。
目の前の廃人を不法投棄したら、国中でお尋ね者にすると脅してたよ。
二人は震え上がって、お姉さんに従ってた。
「凄いですね。
冒険者管理局の方って、悪党には容赦なしですね…。
確かにこれなら、更生の見込みがあるなら更生するし。
そうでない者は挫折しちゃうでしょうね。」
ヴァイオレットお姉さん、講師のお姉さんの容赦ない仕打ちに少し引いてたよ。
冒険者管理局は、ヴァイオレットお姉さんのお気に召さなかったかな。
自分にはとても真似できないって顔をしているもの…。
ヴァイオレットお姉さんはそこに建ち並ぶ研修受講者用の宿舎として建ち並ぶ建物の多さに驚いていたの。
その建物の説明をするついでに、冒険者研修で挫折してしまう者がそこそこいると話したら。
「冒険者研修って、そんなに挫折する方が多いのですか?
どんな研修をしているのでしょうか。
相当厳しいのでしょうね。」
ヴァイオレットお姉さんはそんなことを問い掛けて来たよ。
「そんなに厳しい内容じゃないよ。
現に、研修を受講した女性で挫折した人は、おいらが知る限り一人もいないもの。
毎朝、早起きをして王都の清掃、それからお昼まで武器の扱い方の鍛錬をして。
午後は実習だね、最初はウサギ狩りで、慣れたらトレント狩りね。
それと、合間合間に簡単な法知識を教えてるの。やったらいけないことをね。」
「えっ、ウサギ狩りに、トレント狩りですか?
それって、魔物狩りってことですよね。
女性でも出来るのですか?」
女性が魔物狩りをすると聞き、ヴァイオレットお姉さんは耳を疑った様子だよ。
無理も無いね、女性が魔物を狩るなんて、この国では誰もしなかったことだから。
「大丈夫だよ。
魔物狩りの講師も父ちゃん以外は全員女の人だもの。
女性講師が、実際に魔物狩りのお手本を示しながら、指導しているの。
さっき、赤子の手をひねるように、受付のお姉さんがならず者を倒していたでしょう。
管理局のお姉さん達は、みんな、ウサギでも、トレントでも楽勝だよ。
それに研修では、魔物狩りと言っても一人で倒せと要求する訳じゃないんだ。
上手く連携してグループで魔物を倒すコツを教えているの。」
女性は男性に比して非力なので、講師の指導に従いグループで連携して効率的な狩りをしようとするんだ。
一方で、冒険者になろうって男は、なまじ腕に覚えがあるから講師の助言に耳を貸さない奴が多いの。
しかも、協調性の無い『俺様』連中が多いから、うまく連携が取れないんだ。
その結果、痛い目に遭うの。ウサギを舐めてかかって、血塗れになった愚か者が何人いたことか。
田舎では喧嘩に負けたことが無いような連中が、毎日のように魔物に打ちのめされて。
その横では、見下していた女の人が効率的に魔物を狩っているのだもん。
研修が終わる頃には、根拠のない自信も、薄っぺらいプライドもズタボロになっちゃうの。
田舎ではサル山のボスを気取ってたけど、王都では雑魚に過ぎないと思い知らされるんだ。
そして、挫折して田舎へ帰ることになるの。
おいらの説明を聞いて、ヴァイオレットお姉さんは合点がいった様子で。
「なるほど、世の中、上には上がいると知って自信を無くすのですか。
ですが、それで自分の器を自覚して、真っ当に生きようと考えてくるなら。
ここで研修をしている甲斐もありますね。」
「まあね。でも、挫折しても、堅気になろうと改心するとは限らなくてね。
冒険者を諦めて、博打で生きて行くとか、泡姫さんのヒモになるとか。
そんな、ロクでもない事を言っている者も多いの。」
「あっ、それで、辺境の街道整備事業ですか!
ここで、冒険者の登録に挫折した人を勧誘するんですね。
そんなのを王都に野放しにすると、ロクな事がないでしょうし。」
さっき、管理局の本部事務所でした話に思い至ったみたいだね。
「そうだよ、今は研修が終了する時間に、騎士が何人か待ち構えていて。
冒険者研修を合格できなかった人を、勧誘しているんだ。
騎士が取り囲んで『誠心誠意』説得してる甲斐があって、勧誘成功率百%だよ。」
「ええっと、それは…。」
騎士が説得している様子を思い浮かべたのか、ヴァイオレットお姉さんはリアクションに困ってる様子だった。
そこへ。
「あっ、陛下、お久しぶりです。
トレントの本体の回収ですか?
しばらくお見えにならなかったので、大分貯まってますよ。」
この施設で、冒険者研修の講師をしてもらってるお姉さんが声を掛けてくれたの。
後ろには三十人ほどの男女を引き連れてたよ。みんな、十五、六歳くらいに見えた。
「今日は、こっちのお姉さんに管理局の施設を案内しているの。
管理局にお勤めしてもらうかも知れないので、見学してもらってるんだ。
そちらは、研修の受講者かな?」
「はい、今日から研修を始める人達です。
これから、ウサギ狩りの実習に出かけるところなんです。」
これは、良い時に来たみたいだね。
「そう、じゃあ、ここでの仕事を知ってもらう良い機会だから。
ウサギ狩り研修を見せてもらって良いかな。」
「是非、見学して行ってください。
女王陛下がご覧になっているとなれば、研修者も張り切るでしょうから。」
そんな訳で、ヴァイオレットお姉さんにウサギ狩り実習を見てもらう事になったの。
**********
冒険者研修施設を出て、ほんの少し歩いた草原の中。
「それじゃ、私がウサギを狩って見せるのでよく見ていてくださいね。」
そう告げて、ウサギの巣穴に石を投げ込む講師のお姉さん。
怒りで目を血走らせたウサギが、巣穴から飛び出して、襲い掛かって来たよ。
それを慣れた動作で軽く躱すと、お姉さんは一撃でウサギを仕留めてた。
「凄い…。
あんな華奢な女性が、ウサギを一撃で葬るなんて信じられません。」
その様子を見て、ヴァイオレットお姉さんがとっても感心していたよ。
もちろん、研修の受講者達もみんな驚いてた。
それから、カリキュラムに従い、受講者にウサギ狩りをしてもらったのだけど…。
「やったー! ウサギのお肉、ゲット!
凄いです、本当に私達だけでウサギを倒せました。」
最初に実習に挑んだ五人組のお姉さん達から歓声が上がってたよ。
「なるほど。
ああやって、ウサギを引き付ける役と攻撃する役を分担するのですか。
そんな役割分担ができるように、うまく誘導するのが講師の役割なのですか。」
実習の様子をジッと観察していたヴァイオレットお姉さんが、そんな感想を漏らしてた。
とは言え、皆が皆、上手く狩れる訳でもなく…。
「うわっ! こっちに来るな!
やめろ、噛むんじゃねえ、痛てぇって言ってるだろう!」
ある班の順番の時、お姉さんが石を投げ込むのをボッと見ていた男がいたの。
そいつボッとしてたんで、巣穴から飛び出来たウサギを躱せなかったんだ。
いきなり、腕に噛みつかれて、スプラッタになったの。
で、グループの他のメンバーはと言うと。
「だっせー、あいつ、ウサギに腕を食い千切られてやんの。」
「アハハ! バカだー!」
腕に噛み付かれた男を指差して笑ってやんの。助けに行こうともしないんだよ。
「ほら、そこ! 五人で連携してウサギを狩るように言ってるでしょう。
何で、同じ班の人がウサギに噛みつかれているのに、呑気に見ているの。
早く、救助して。
それと、ウサギがあの人に集中しているんだから。
後ろから近寄れば簡単に倒せるでしょう。
ぼさっとしてないで、早く動いた!」
講師のお姉さんから、叱責されると…。
「へい、へい、分りましたよ。
チッ、煩せぇな。
せっかく面白いところなのに…。
急造の班のメンバーなんて、助けてやる義理もねえじゃねえか。」
そんなやる気の無さそうな言葉を呟きながら、男が一人、ウサギに向かったの。
残りの三人もニヤつきながら、それに続いたよ。
そして、目の前までウサギが迫った時のこと。
「ほれ、お前も俺達を笑わせてくれや!」
後ろを歩いていた三人が一斉に、ウサギに向けて先頭を歩く男の背中を蹴とばしたんだ。
蹴とばされた男は、その勢いで剣を持ったままウサギに向かって突っ込んで行ったよ。
不意打ち的に背中を蹴られた男は、ウサギに斬り付けることも出来ずに追突したの。
すると、ウサギはターゲットを倒れ込んできた男に変えて…。
「ウギャーーー!」
その男の剣を持つ腕に噛みついたよ。
男は剣を取り落として、何の抵抗も出来なくなっちゃった。
「アハハ! 見ろよ!
さっき、最初にやられた奴を笑いモンにした癖に。
自分だって、他人のことを笑えねえじゃないか。」
ホント、冒険者になろうなんて言って、田舎から出て来る連中って質が悪いな…。
他人を餌にして魔物を狩る最低な奴って、何処にでもいるんだね。
ひとしきり、ウサギになぶられている男を笑い者にしていた三人だけど。
周りの受講者から白い目で見られている事に気付いた様子で。
男を甚振ってるウサギに後ろから近付くと、三人で滅多突きにしたウサギを倒していたよ。
「へっ、へっ、へっ。
ほれ、ウサギ、倒したぜ。
これで文句ねえだろうがよ。
ちゃんと、役割分担して狩りをしたぜ。」
三人組の一人が悪びれる様子もなく、講師のお姉さんに言ったんだよ。
すると、お姉さんは、ニコニコと笑みを浮かべてその男に近付くと…。
「ええ、見せてもらいました。
仮初めとは言え、仲間を魔物の餌にするとは見上げた根性ですね。
では、あなた方の班には、もう一匹ウサギ狩りをしてもらいましょうか。
役割分担交替です。」
そう言って、男をポンと放り投げたの、近くにあった別の巣穴に向けて。
自分よりもガタイの良い男を軽々と放り投げるお姉さんに、みんな驚愕していたよ。
ウサギって人間よりはるかに大きいからね。
放り投げられた男は、ウサギの巣穴にスッポリと落ちて行ったの。
「ギャーーー! やめろ! 噛むんじゃねえ!
おい! 誰か! 誰か助けてくれー!」
巣穴の中から聞こえてくる男の悲鳴…。
「どうですか、自分が餌の立場になった気分は。
もうこんな外道な事はしないと誓いなさい。
そうしたら、助けてあげても良いですよ。」
「分かった、もうしねえ。
もうしねえから、助けてくれ!
早く助けてくれねえと、俺、こいつに食い殺されちまうよ。」
男の誓いを聞き届けたお姉さんは、小石を幾つも巣穴の中に放り込んでたよ。
すると、口の周りを血で真っ赤に染めたウサギが飛び出して来た。
ウサギって単純だから、石をぶつけられて意識がこっちに向いたみたい。
飛び出して来たウサギを、お姉さんは一閃のもとに斬り捨てたよ。
お姉さんの指示で、他の班員二人が巣穴から男を救い出して来ると…。
「うわーん! まま!
くらいのこわいよ、せまいのこわいよ!
うさぎさんが、かみついてくるよ!
もういやだー! おうち、かえる!」
すっかり幼児退行しちゃってたよ。
「あら、壊れちゃったわね…。
ねえ、あなた達二人もこうなってみる?」
変わり果てた男を見て、お姉さんは残りの二人を脅したんだ。
二人は、必死になって首を横に振ってたよ。
「そう、じゃあ、あなた達、この男の世話は頼むわよ。
あなた達が責任を持って治るまで面倒見るのよ。
こんな生ゴミを王都に捨てたら、絶対に赦さないからね。
草の根を分けてでも探し出して、同じ目に遭わせてあげるわ。」
お姉さん、冒険者登録の申請書で二人の素性は分かってるから。
目の前の廃人を不法投棄したら、国中でお尋ね者にすると脅してたよ。
二人は震え上がって、お姉さんに従ってた。
「凄いですね。
冒険者管理局の方って、悪党には容赦なしですね…。
確かにこれなら、更生の見込みがあるなら更生するし。
そうでない者は挫折しちゃうでしょうね。」
ヴァイオレットお姉さん、講師のお姉さんの容赦ない仕打ちに少し引いてたよ。
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自分にはとても真似できないって顔をしているもの…。
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