ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

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第十五章 ウサギに乗った女王様

第440話 冒険者管理局で目にしたのは…

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 ヴァイオレットお姉さんの仕事を決めるため、最初に連れて来たのは冒険者管理局。
 管理局長をしている父ちゃんを紹介し、父ちゃんにここへ来た目的を告げると。

「辺境の開拓に行ったのに、大人達が全然働かなかったのか。
 そりゃ、災難だったな。
 この仕事で良ければ、俺は歓迎するよ。
 納得するまで、自由に見学して行ってくれ。」

 ヴァイオレットお姉さんの事情を聞いて父ちゃんは、そんな声を掛けていたよ。
 と言う訳で、父ちゃんから冒険者管理局の仕事のあらましを聞いた後、管理局を色々と見て回る事になったの。

 先ずは、冒険者登録の受付をしている一階のロビーを見学に行ったよ。

「おい、冒険者を名乗るには登録が必要だと聞いたんだが。
 ここでするんだろう、とっととその登録ってもんをしてもらうじゃねえか。
 ったくよ、冒険者ってのは勝手に名乗ってりゃ良いもんじゃねえのか。
 面倒くせえったらありゃしないぜ。」

 どうやら、おのぼりさんらしきガラの悪いニイチャンが、カウンターで受付のお姉さんに凄んでいたよ。
 脅せば、細かい事は言わずにすぐ登録してくれると思っているのかね。

 そんなニイチャンに、受付のお姉さんは。

「冒険者登録のお申込みですね。
 それでは、こちらの書面を良くお読みの上、申請書の所定の欄を記入してご提出いただけますか。
 なお、今、お申込みいただくと、明日からの冒険者研修の履修が可能です。
 冒険者研修は一週間のカリキュラムとなっております。
 研修の全過程を修了することで、冒険者登録が可能となります。」

 ニイチャンの横柄な態度など気にする様子もなく、笑顔を浮かべたまま冒険者登録の申請用紙を差し出していたよ。

「何だと! 一週間の研修だと?
 そんな、煩わしいことをやってられるか!
 つべこべ抜かさずに、さっさと冒険者登録をしやがれ!」

「冒険者登録には法の定めに従い研修が必須となっております。
 研修を履修してない方を登録することは出来ません。」

 ニイチャンの無茶な要求にも、お姉さんは笑顔を絶やさずに応答していたよ。
 すると…。

「このアマぁ、大人しく聞いていれば調子に乗りやがって!
 何が法の定めだ!
 一々、法に従ってたら冒険者稼業が成り立たねえだろが!
 冒険者ってのは、オメエみてえにうるさい事言う奴を力でねじ伏せるもんなんだよ。
 痛い目に遭いたくなければ、サッサと登録しやがれ。」

 激昂したニイチャンはお姉さんの胸倉を掴むと、こぶしを振り上げて恫喝したんだ。
 そして、次の瞬間。

「痛ててぇ、こら放せ、放しやがれ!」

 お姉さんは胸倉を掴まれた手を捻り上げると。
 そのまま力任せに、ニイチャンをカウンターに押さえ込んだよ。

「あなたのしたことは、れっきとした公務執行妨害です。
 あなたがヘッポコで良かったですね。
 もし私を殴っていたら、暴行罪も加わって数年の強制労働刑でしたよ。
 冒険者管理局への公務執行妨害は、特例で一月の矯正措置となっております。
 一月の間、十分反省して、真人間になってくださいね。」

 お姉さんは、ニイチャンをカウンターに押さえ付けたまま、宣告したの。
 この間、お姉さんは終始笑顔を絶やすことは無かったよ。

「凄い…。
 あの方、あんな無法者の恫喝に全く怯みませんでした。
 しかも、自分より体格の良い殿方を難無く制圧してしまって…。」

 受付のお姉さんの対応を見て、しきりに感心しているヴァイオレットお姉さん。

「凄いでしょう。
 冒険者管理局は、無法者が常に訪ねて来るからね。
 あの程度の護身術はみんな嗜んでいるんだよ。
 バイオレットお姉さんもここに就職したらあのくらいできるようになるよ。」

「えっ…。」

 冒険者管理局の仕事にはあのくらいは必須だと言うと、ヴァイオレットお姉さんは絶句したよ。
 就職を決めるまでは、『生命の欠片』でレベルを底上げすることは教えないからね。
 絶句するのも無理はないかも。

「お姉さん、ならず者の対応お疲れさま。
 丁度、冒険者研修施設を見学に行くから、おいら達が預かってくよ。」

「あっ、陛下、いらっしゃいませ。
 よろしいのですか?
 陛下にお願いするのは気が引けるのですが…。」

 おいらはお姉さんを労うと同時に、ならず者を預かると申し出たの。
 そんなのよくある事なんだけど。
 面識のないヴァイオレットお姉さんの目を気にしたのか、お姉さんは遠慮してたんだ。

 すると。 

「なら、俺が預かっていくよ。
 管理局にはいつも世話になっているからな。
 そのくらいは、幾らでも協力するぜ。」

「あら、タロウ君も居たのね。
 それじゃ、お願いしちゃおうかな。
 そうだ、お礼にタロウ君にサービスしてあげる。
 今晩、泊まりに行くからシフォンお姉さまによろしくと伝えといて。」

 お姉さんと面識のあるタロウが代わりに与ると告げると、今度は遠慮しなかったよ。
 お姉さんは嬉しそうに、今晩お礼に行くと言ってたの。

「おい、そう言うのは要らないから。
 マジ、やめてくれ!」

「遠慮しなくても良いって。
 シフォンお姉さまと一緒に、朝までタップリご奉仕してあげるから楽しみにしておいてね。
 タロウ君、一月も留守しているから、順番待ちが大変な事になってるわよ。
 明日から覚悟しておいた方が良いと思う。
 私は、今晩、抜け駆けさせてもらうね。」

 お礼の順番待ち? タロウ、何かみんなに感謝されることでもしたのかな?
 でも、タロウはあんまり嬉しそうじゃないよ。
 それに、会話を聞いていたヴァイオレットお姉さんは、タロウを冷ややかな目で見てた。
 まるで汚らわしいものを目にしたような感じで少し引いてたし。

 何でそんな目で見ているのか、おいらには分からなかったけど…。

「流石に、これを見れば百年の恋も冷めるのじゃ。
 タロウの爛れた私生活を窺わせるには、十分な会話じゃったからな。」

 オランはその理由が分かっているようで、然も有りなんと頷いていたよ。

       **********

 次においら達は、冒険者管理局で狼藉を働いた男を連れて冒険者研修施設へ向かったの。
 
「ここが、冒険者研修施設ですか?
 大きな建物がたくさん並んでいますが…。」

「ああ、これね。
 殆どが、研修期間中の寄宿舎なんだ。」

 ヴァイオレットお姉さんが驚くのも無理ないよ。
 この施設、建て増し、建て増しで最初に比べて建物が大分増えているの。

 元々は、一時に男女五十人ずつ受け入れる計画で男子棟と女子棟を一棟ずつと食堂棟を造ったんだけど。
 冒険者研修を受ける人が想定以上に増えたもんだから。
 結局、男女二棟ずつ建て増して、今では各百五十人ずつ受け入れられるようになってるの。

 加えて、軽犯罪者の矯正もここですることになったものだから、軽犯罪者向けの寄宿舎も建てたんだけど。
 これも、騎士や冒険管理局による取り締まりを強めた結果、すぐにいっぱいになっちゃって。
 大部屋雑魚寝の牢獄みたいな建物が五つも建っているよ。最大千人収容できるんだって。
 それを聞いた時、おいら、思ったよ。どんだけ、無法者が多いんだって。

 収容人数の拡大に併せて、食堂も男女別にしたよ。
 冒険者研修を受けに来た女性に食堂でちょっかいを掛けるけしからん輩が増えたので分けることにしたの。
 元々、冒険者志望の女性に不埒な真似をする男共が居ると拙いから宿舎を分けたのだけど。
 夜がダメだとなると、食事時に女性に絡むしょうもない奴らが現れたの。

 その代わりと言ったら何だけど。
 男性用の食堂は思いっ切り広くして、矯正を命じられた軽犯罪者と一緒に使うことにしたよ。
 一緒にしておけば話をする機会もあるだろうし、どんな罪を犯せばここに送られるかが分かるでしょう。
 冒険者研修を受けに来た男共に、何をしたらヤバいのか分からせる良い機会になるんじゃないかと思ってね。

 冒険者になろうと田舎から出て来た連中って、小さな村でお山の大将になってた輩が多いんだ。
 なまじ腕っ節に自信があるものだから、町で弱い者を強請って楽して生きようなんて甘い考えで出て来るの。
 そんな連中に限って根性無しで、冒険者研修を耐えられずに挫折する者が多いのだけど。
 軽犯罪を犯して送られてきた者からの話で、無許可での帯剣や強請り集りも厳しく取り締まられると分かると。
 そんな連中も、王都に残ってならず者になるのを諦めるようになったよ。
 心を入れ替えて大人しく里に帰るか、『誠心誠意』説得されて辺境の街道整備に加わるかになったんだ。

 男の研修受講者と矯正措置を受けている犯罪者を食堂で一緒にした効果は出ているみたいだよ。
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