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第二章 夏 ~それぞれの想い、廻り始めた歯車~
その122 疑問への回答
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次の日。紗琉はちゃんと学校に登校していた。
昨日は体調が悪いとのことで学校を休んでいたが、こうしてちゃんと登校していた。
休み時間。教室で一人、ぽつんと読書をしている紗琉に、僕は声をかける。
「なぁ、紗琉。一つ聞きたいことがあるんだけど……」
「何?」
読みかけの本にしおりを挟み、紗琉はこちらに顔を向けた。
……あの動画が本当ならば、紗琉はかつて太鼓を叩いていたこととなる。だが、今では太鼓を叩くこと、『太鼓の鉄人』をプレイすることを嫌っている。
つまりは何かしら原因があるということだ。それを踏まえた上で、どうしてあの日、助っ人として参戦してくれたのか……?
「……紗琉ってさ、昔……『太鼓の鉄人』をやってた?」
「…………」
僕の問いに返事はない。目線を逸らしながら、紗琉は困惑したかのような表情を見せた。
続けざまに僕は言葉を続ける。
「その……、動画サイトで中学の部のどん・だーの試合がアップロードさせていたんだ。その中に、紗琉らしい人がいてさ……。ふと、気になってたんだ……」
まだ紗琉とは断定できなかったからこそ、僕はあえて「らしき人物」だったと言い張る。
……本当はこれで「違う」なんて言ってくれれば、そこですべては解決してくれる。
この前の腕前がどうとかそんなのは関係なしに、それが紗琉でなければ「太鼓を叩くことが嫌い」であることに深い意味はないことが判明する。
しかし、紗琉は少しの静寂をはさみ、ようやく声を発した。
「……場所を変えましょう」
***
紗琉に言われるがまま、僕は生徒会室まで連れて来られた。昼休みはまだ猶予があるため、少しばかりならば長話も大丈夫だった。
紗琉は僕の後に生徒会室に入るのを確認し、部屋の鍵を閉めた。
「紗琉……?」
「……この話はあまり人前ではしたくなかったのだけれど、ここまで知ってしまった貴方にはちゃんと話しておかないとね。これから話すことは他言無用でお願いね」
「う、うん……」
「……まず、問いへの回答だけれど……私は、貴方の言う通り、中学生の頃に『どん・だー』に出場していたわ」
「…………」
と、紗琉はそこで断言した。やはり、紗琉はかつて『どん・だー』に出場していた。
一夜とともに『どん・だー』に参加し、予選を勝ち抜いていたのだ……。
「貴方がどの動画を見ていたのかは知らないけれど、私は一夜とともに『どん・だー』優勝を目指して……『b's』というチームを結成して、参加していたわ」
「『b's』……」
それは紛れもない、僕らと同じチーム名。僕らのチーム名は望子先輩が校内にて募集箱を設置し、その中に入っていた一枚の紙で決まったのだ。
「まぁ、なんで貴方たちのチームと同じなのかは知らないけど……でも、私たちも貴方たち以上に練習し、予選を勝ち抜くために奮闘していたわ」
紗琉は窓側に寄り、外を見上げながら話を続けた。
「けどね、予選決勝戦である事件が起きたの……。試合中に一夜がケガを負った。前日に無茶な練習もしてたし、一夜のバチも劣化していたのが見事に被っていたからかもしれないわね。予選は突破出来たけれど、本戦はすぐ目の前。一夜のケガの完治よりも本戦の方が早かったわ。他にメンバーもいないし、『どん・だー』の規約に『チーム戦の場合、必ず二人以上のメンバーの出場がいないといけない』ってのもあったわ。そりゃ、人は探せばいくらでもいるわ。でも、本戦を勝ち抜くなんてどれだけみっちり練習を積んでも不可能に近かった。だから私は、本戦を辞退したわ……」
「…………」
「……自分勝手かもしれないけど、でも、これは私が起こしてしまったことだわ。優勝にしか目がなかった私は、メンバーである一夜を見てすらいなかったのだから。……すべてが私が自分のことしか考えてなかったから、引き起こしてしまった。だから私は、もう『太鼓を叩かない』と決めたの。また太鼓を叩けば……太鼓の鉄人をやってしまえば、自分のことしか考えられず、他のメンバーに迷惑をかけるから……」
「紗琉……」
そんな理由で……だから紗琉は、太鼓を叩きたくないって……。
じゃ……じゃあ!
「じゃあ! この前助っ人に来たのは!? あれは紗琉自身の本心じゃなかったっていうの!?」
「あれは一夜よ。何の目的があってなのかは知らないけれど、一夜が私の許可なしに蒼崎先生に話をつけに行ってたの」
「…………」
「さ、こで貴方の疑問は晴れたかしら? 私はもう二度とああやって太鼓を叩くことはないから。……無論、もう助っ人にも来ることはないわ。これで話は以上よ。さ、次の授業が始まるわ、貴方も早く教室に戻りなさい」
と、鍵を開け、紗琉は生徒会室に出るよう促した。
……確かに疑問は晴れたが、それでも何かモヤモヤした気分の中、僕は生徒会室を後にした。
昨日は体調が悪いとのことで学校を休んでいたが、こうしてちゃんと登校していた。
休み時間。教室で一人、ぽつんと読書をしている紗琉に、僕は声をかける。
「なぁ、紗琉。一つ聞きたいことがあるんだけど……」
「何?」
読みかけの本にしおりを挟み、紗琉はこちらに顔を向けた。
……あの動画が本当ならば、紗琉はかつて太鼓を叩いていたこととなる。だが、今では太鼓を叩くこと、『太鼓の鉄人』をプレイすることを嫌っている。
つまりは何かしら原因があるということだ。それを踏まえた上で、どうしてあの日、助っ人として参戦してくれたのか……?
「……紗琉ってさ、昔……『太鼓の鉄人』をやってた?」
「…………」
僕の問いに返事はない。目線を逸らしながら、紗琉は困惑したかのような表情を見せた。
続けざまに僕は言葉を続ける。
「その……、動画サイトで中学の部のどん・だーの試合がアップロードさせていたんだ。その中に、紗琉らしい人がいてさ……。ふと、気になってたんだ……」
まだ紗琉とは断定できなかったからこそ、僕はあえて「らしき人物」だったと言い張る。
……本当はこれで「違う」なんて言ってくれれば、そこですべては解決してくれる。
この前の腕前がどうとかそんなのは関係なしに、それが紗琉でなければ「太鼓を叩くことが嫌い」であることに深い意味はないことが判明する。
しかし、紗琉は少しの静寂をはさみ、ようやく声を発した。
「……場所を変えましょう」
***
紗琉に言われるがまま、僕は生徒会室まで連れて来られた。昼休みはまだ猶予があるため、少しばかりならば長話も大丈夫だった。
紗琉は僕の後に生徒会室に入るのを確認し、部屋の鍵を閉めた。
「紗琉……?」
「……この話はあまり人前ではしたくなかったのだけれど、ここまで知ってしまった貴方にはちゃんと話しておかないとね。これから話すことは他言無用でお願いね」
「う、うん……」
「……まず、問いへの回答だけれど……私は、貴方の言う通り、中学生の頃に『どん・だー』に出場していたわ」
「…………」
と、紗琉はそこで断言した。やはり、紗琉はかつて『どん・だー』に出場していた。
一夜とともに『どん・だー』に参加し、予選を勝ち抜いていたのだ……。
「貴方がどの動画を見ていたのかは知らないけれど、私は一夜とともに『どん・だー』優勝を目指して……『b's』というチームを結成して、参加していたわ」
「『b's』……」
それは紛れもない、僕らと同じチーム名。僕らのチーム名は望子先輩が校内にて募集箱を設置し、その中に入っていた一枚の紙で決まったのだ。
「まぁ、なんで貴方たちのチームと同じなのかは知らないけど……でも、私たちも貴方たち以上に練習し、予選を勝ち抜くために奮闘していたわ」
紗琉は窓側に寄り、外を見上げながら話を続けた。
「けどね、予選決勝戦である事件が起きたの……。試合中に一夜がケガを負った。前日に無茶な練習もしてたし、一夜のバチも劣化していたのが見事に被っていたからかもしれないわね。予選は突破出来たけれど、本戦はすぐ目の前。一夜のケガの完治よりも本戦の方が早かったわ。他にメンバーもいないし、『どん・だー』の規約に『チーム戦の場合、必ず二人以上のメンバーの出場がいないといけない』ってのもあったわ。そりゃ、人は探せばいくらでもいるわ。でも、本戦を勝ち抜くなんてどれだけみっちり練習を積んでも不可能に近かった。だから私は、本戦を辞退したわ……」
「…………」
「……自分勝手かもしれないけど、でも、これは私が起こしてしまったことだわ。優勝にしか目がなかった私は、メンバーである一夜を見てすらいなかったのだから。……すべてが私が自分のことしか考えてなかったから、引き起こしてしまった。だから私は、もう『太鼓を叩かない』と決めたの。また太鼓を叩けば……太鼓の鉄人をやってしまえば、自分のことしか考えられず、他のメンバーに迷惑をかけるから……」
「紗琉……」
そんな理由で……だから紗琉は、太鼓を叩きたくないって……。
じゃ……じゃあ!
「じゃあ! この前助っ人に来たのは!? あれは紗琉自身の本心じゃなかったっていうの!?」
「あれは一夜よ。何の目的があってなのかは知らないけれど、一夜が私の許可なしに蒼崎先生に話をつけに行ってたの」
「…………」
「さ、こで貴方の疑問は晴れたかしら? 私はもう二度とああやって太鼓を叩くことはないから。……無論、もう助っ人にも来ることはないわ。これで話は以上よ。さ、次の授業が始まるわ、貴方も早く教室に戻りなさい」
と、鍵を開け、紗琉は生徒会室に出るよう促した。
……確かに疑問は晴れたが、それでも何かモヤモヤした気分の中、僕は生徒会室を後にした。
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