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第二章 夏 ~それぞれの想い、廻り始めた歯車~
その123 鎖の問題
しおりを挟む「よし、じゃあ少し休憩にするか」
路世先輩の合図で練習が一旦止められる。
予選も勝ち進み、次はいよいよ本戦だということもあってか、みんなのやる気は人一倍に跳ね上がっているように見える。
本戦は予選よりも強い強豪校が集まるみたいで、先輩たちもより一層気合いが入っているみたいだ。
そんな中、僕は本戦へのやる気とは別のことが脳裏によぎっていた。
『私はもう二度とああやって太鼓を叩くことはないから。……無論、もう助っ人にも来ることはないわ。』
紗琉の言葉。確かに紗琉はそう言っていた。『もう叩かない』。『もう助っ人にも来ない』。
けれど……助っ人として参戦してくれた時の紗琉の表情は、やりたくないというよりは……。
「紗琉。……楽しそうだったのにな」
あの時は、とても楽しそうにやってたのに……。僕の中で一番楽しそうな表情だったというのに……。
「先輩? どうかしたんですか? そんなに難しそうな顔をして……」
そんなことを思っていると、心配そうにちぃが声をかけてくる。……僕、そんなに難しい顔をしていただろうか?
「まー、次からは本戦だし、次の対戦校は強豪の『UDY学園』だし、そりゃ難しい顔もするだろうな。なんたって前回優勝した学校だしな」
「そうなんですか…。そんな学校と本戦一回戦で当たるなんて……」
「でもでも! そこで勝てれば優勝したも同然だと思うよ! だって前回優勝校なんでしょ? それ以上に強い学校はいないってことになるし、初戦からハードだとは思うけど……そこで勝てればかなりの郵政だと思うな」
と、三人で次の対戦校の話で盛り上がっている中、僕はその話に加わろうなんて考えなかった。試合よりも……やっぱりどうしても紗琉のことが引っ掛かっていたからだ。
確かに、紗琉は太鼓部とはまったく関係ないし、大会とは別にもう一つの敵なんて言われてもおかしくないとは思う。けど……それでも、一度は僕らと同じ仲間として戦った仲だ。
それに、試合中の表情とあの話をしてくれた時の表情が格段に違いすぎる。……本当はもっと太鼓を、太鼓の鉄人をやりたいんじゃないんだろうか?
本人は「やりたくない」なんて言っているけど、あの出来事さえなければ紗琉はきっと、続けていたんじゃないだろうか?
自分勝手のせいでなんて言っていたけど、自分の本心を抑えることもかなりキツイと思うのだが……。
紗琉を苦しめているのは過去の出来事。それさえ解決できれば、もう一度……いや、これからずっと、助っ人の時みたいにバチを握ってくれるのだろうか?
そしてあわよくば……僕らとともに『どん・だー』への出場をしてくれるのだろうか?
「…………ン…。……ケン!!」
「あっ、はい!」
どうやら考え事をしていて意識が別のところに飛んで行っていたようだ。路世先輩が声をかけるまで気づかなかった。
「もう休憩は終わったぞ。キミもそろそろ練習に取り掛かったらどうだ? 確かに次の試合は、キミやちぃみたいなつい最近始めたばっかりにはかなりのプレッシャーかもしれないが、それでも練習くらいはちゃんとやってくれないか?」
「す、すみません……」
路世先輩に注意されながら、僕は練習に取り掛かる。
……紗琉を縛るあの出来事。それを断ち切るためのアイテムは一体なんなんだろうか……?
そんなことを考えながら、僕は次の本戦へ向けたハードな練習をこなしていくのだった。
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