どん・だー ~私立海老津学園太鼓部活動録~

とらまる

文字の大きさ
上 下
123 / 142
第二章 夏 ~それぞれの想い、廻り始めた歯車~

その123 鎖の問題

しおりを挟む

「よし、じゃあ少し休憩にするか」

 路世先輩の合図で練習が一旦止められる。
 予選も勝ち進み、次はいよいよ本戦だということもあってか、みんなのやる気は人一倍に跳ね上がっているように見える。
 本戦は予選よりも強い強豪校が集まるみたいで、先輩たちもより一層気合いが入っているみたいだ。
 そんな中、僕は本戦へのやる気とは別のことが脳裏によぎっていた。

『私はもう二度とああやって太鼓を叩くことはないから。……無論、もう助っ人にも来ることはないわ。』

 紗琉の言葉。確かに紗琉はそう言っていた。『もう叩かない』。『もう助っ人にも来ない』。
 けれど……助っ人として参戦してくれた時の紗琉の表情は、やりたくないというよりは……。

「紗琉。……楽しそうだったのにな」

 あの時は、とても楽しそうにやってたのに……。僕の中で一番楽しそうな表情だったというのに……。

「先輩? どうかしたんですか? そんなに難しそうな顔をして……」

 そんなことを思っていると、心配そうにちぃが声をかけてくる。……僕、そんなに難しい顔をしていただろうか?

「まー、次からは本戦だし、次の対戦校は強豪の『UDY学園』だし、そりゃ難しい顔もするだろうな。なんたって前回優勝した学校だしな」
「そうなんですか…。そんな学校と本戦一回戦で当たるなんて……」
「でもでも! そこで勝てれば優勝したも同然だと思うよ! だって前回優勝校なんでしょ? それ以上に強い学校はいないってことになるし、初戦からハードだとは思うけど……そこで勝てればかなりの郵政だと思うな」

 と、三人で次の対戦校の話で盛り上がっている中、僕はその話に加わろうなんて考えなかった。試合よりも……やっぱりどうしても紗琉のことが引っ掛かっていたからだ。
 確かに、紗琉は太鼓部とはまったく関係ないし、大会とは別にもう一つの敵なんて言われてもおかしくないとは思う。けど……それでも、一度は僕らと同じ仲間として戦った仲だ。
 それに、試合中の表情とあの話をしてくれた時の表情が格段に違いすぎる。……本当はもっと太鼓を、太鼓の鉄人をやりたいんじゃないんだろうか?
 本人は「やりたくない」なんて言っているけど、あの出来事さえなければ紗琉はきっと、続けていたんじゃないだろうか?
 自分勝手のせいでなんて言っていたけど、自分の本心を抑えることもかなりキツイと思うのだが……。
 紗琉を苦しめているのは過去の出来事。それさえ解決できれば、もう一度……いや、これからずっと、助っ人の時みたいにバチを握ってくれるのだろうか?
 そしてあわよくば……僕らとともに『どん・だー』への出場をしてくれるのだろうか?

「…………ン…。……ケン!!」
「あっ、はい!」

 どうやら考え事をしていて意識が別のところに飛んで行っていたようだ。路世先輩が声をかけるまで気づかなかった。

「もう休憩は終わったぞ。キミもそろそろ練習に取り掛かったらどうだ? 確かに次の試合は、キミやちぃみたいなつい最近始めたばっかりにはかなりのプレッシャーかもしれないが、それでも練習くらいはちゃんとやってくれないか?」
「す、すみません……」

 路世先輩に注意されながら、僕は練習に取り掛かる。
 ……紗琉を縛るあの出来事。それを断ち切るためのアイテムは一体なんなんだろうか……?
 そんなことを考えながら、僕は次の本戦へ向けたハードな練習をこなしていくのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話 完全オリジナル

何者
ホラー
解けるかなこの謎ミステリーホラー

あの音になりたい! 北浜高校吹奏楽部へようこそ!

コウ
青春
またダメ金か、、。 中学で吹奏楽部に挫折した雨宮洸。 もうこれっきりにしようと進学した先は北浜高校。 [絶対に入らない]そう心に誓ったのに そんな時、屋上から音が聞こえてくる。 吹奏楽部で青春and恋愛ドタバタストーリー。

アルファポリスで規約違反しないために気を付けていることメモ

youmery
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスで小説を投稿させてもらう中で、気を付けていることや気付いたことをメモしていきます。 小説を投稿しようとお考えの皆さんの参考になれば。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

へたくそ

MO
青春
野球が大好きなのに“へたくそ”な主人公、児玉良太。 チームメイトで野球センス抜群なキャッチャー、松島健介。 後輩マネージャーで児玉に想いを寄せる、町村早苗。 3人の視点から物語は進行していきます。 チームメイトたちとの友情と衝突。 それぞれの想い。 主人公の高校入学から卒業までの陵成高校野球部の姿を描いた物語。 この作品は https://mo-magazines.com/(登場人物一覧も掲載しています) 小説家になろう/カクヨム/エブリスタ/NOVEL DAYS にも掲載しています。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編をはじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

バタフライエフェクト

ゆた
青春
ユニット、「炭酸水」は、「ソーダ」というファンがいる。 だが、アイドル業界は、崩壊の一途を辿っていた。

処理中です...