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第二章 夏 ~それぞれの想い、廻り始めた歯車~
その121 嘘
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「さて、と……」
次の日。私は揺らぐ想いを胸に学校へと登校した。
一日経てばある程度は軽くはなっていたが、それでもこの胸の想いだけは収まることはなかった。
……一夜への罪悪感。太鼓を叩くことで得られる快感。この二つの想いは相変わらず揺らいだままだった。
あれだけのことがあったのに、それでもなお私は叩くことを諦めきれないなんて……おこがましいにもほどがあるってものだ。
……私はあの日決めたはずだ。自分のことよりもみんなのことを優先すべき、だと。独断で行動すれば、間違いなく大きな過ちを犯すことを理解したはずだ。
それなのに……
「紗琉ちゃん、本当に大丈夫? まだ本調子じゃなさそうだけど……?」
心配そうに一夜は顔を覗き込んできた。……そういう時、ホントにこの娘はすぐに異変に気付けるから少し迷惑だとも思う。
「心配性ね。ホントに大丈夫だから。ほら、この書類に印鑑よろしく」
「だったらいいけれど……」
と、一夜は書類を受け取ると生徒会の活動に戻った。
……この揺らぐ想いは別として、今は生徒会の活動に私も集中しないと。昨日休んだ分、今日の仕事は特に多いのだから。
今日の活動は一か月に支給させる部費についての書類だ。六月もすでに半ばにかかり、どの部活もこれからの活動に熱心になっているため、要求もなかなか多いものだ。
それに今年の夏はかなりの猛暑と予想されているためか、文化部からの冷房の要望も多い。……まぁ、活動中に熱中症で倒れられてはたまったものではないからね。
書類に目を通しつつ、私は一夜に言葉を投げかけた。
「ねぇ、一夜」
「何かしら」
互いに顔は書類に向けたまま。活動中の私たちは、こうして顔を合わせることもなく会話することがほとんどだ。
「……この前の助っ人の件、私に無断で蒼崎先生にお願いしたんでしょ」
そう。あの日の助っ人の件。
私からは特に蒼崎先生に助っ人として参戦するとは一言も言ってなかった。そもそも、あの部活がそこまで窮地になっていたことも知らなかったのだ。
しかし一夜は、それを知ったうえで自分ではなく、あえて私を助っ人として参戦させると、私の許可なしに蒼崎先生に話をつけていたのだ。……まぁ、単なる憶測にすぎないのだが。
「……えぇ」
「どうして……? 私はあの日以来、もう太鼓を叩くことはしないって貴方にも言ったわよね?」
そこで一夜は黙り込む。あの日以来、私は叩かないと誓っていた。それは一夜も知っている。……そもそも、一夜の目の前でそれを誓ったのだから。
それなのに一夜は……私を助っ人として、あの日ムリヤリ会場へと連れて行ったのだ。「二人で買い物に行く」なんてウソまで吐いて……。
「……そうだったわね。確かに紗琉ちゃんは、あの日以来叩かないって言ってたわね。私ったら、完全に忘れていたわ、ごめんなさい」
「…………」
と、一夜はごまかした。
しかし私は知っている。それは一夜の悪いクセだ。
いつも都合が悪くなると、一夜は決まってボケたかのように「忘れた」なんてウソを吐く。これまでも何度かこうしてウソを吐いてきたことがあったからだ。
一夜にも何か、私の知らない考えを持っている。それを暴きたい気持ちはあったが……。
「……そう。でも私は、もうあの部への助っ人は行かないから。例えまた、私の許可なしに蒼崎先生に頼みに行かないでよね」
……ムリだった。
そこで暴いてしまえば、きっと一夜との長かった友情すら壊れてしまうと思ったからだ。
だからこそ、本当に投げたかった言葉をそのまま飲み込んでしまっていた。たった一言、「それはウソだ」という言葉を。
……一夜とは、今のままで一生にいたい。だからこそ、この友情を壊すことはことだけは私はしたくなかった。
それ以降、私たちはただ静かに生徒会の仕事も黙々と、この静寂な生徒会室でこなしていくだけだった。
次の日。私は揺らぐ想いを胸に学校へと登校した。
一日経てばある程度は軽くはなっていたが、それでもこの胸の想いだけは収まることはなかった。
……一夜への罪悪感。太鼓を叩くことで得られる快感。この二つの想いは相変わらず揺らいだままだった。
あれだけのことがあったのに、それでもなお私は叩くことを諦めきれないなんて……おこがましいにもほどがあるってものだ。
……私はあの日決めたはずだ。自分のことよりもみんなのことを優先すべき、だと。独断で行動すれば、間違いなく大きな過ちを犯すことを理解したはずだ。
それなのに……
「紗琉ちゃん、本当に大丈夫? まだ本調子じゃなさそうだけど……?」
心配そうに一夜は顔を覗き込んできた。……そういう時、ホントにこの娘はすぐに異変に気付けるから少し迷惑だとも思う。
「心配性ね。ホントに大丈夫だから。ほら、この書類に印鑑よろしく」
「だったらいいけれど……」
と、一夜は書類を受け取ると生徒会の活動に戻った。
……この揺らぐ想いは別として、今は生徒会の活動に私も集中しないと。昨日休んだ分、今日の仕事は特に多いのだから。
今日の活動は一か月に支給させる部費についての書類だ。六月もすでに半ばにかかり、どの部活もこれからの活動に熱心になっているため、要求もなかなか多いものだ。
それに今年の夏はかなりの猛暑と予想されているためか、文化部からの冷房の要望も多い。……まぁ、活動中に熱中症で倒れられてはたまったものではないからね。
書類に目を通しつつ、私は一夜に言葉を投げかけた。
「ねぇ、一夜」
「何かしら」
互いに顔は書類に向けたまま。活動中の私たちは、こうして顔を合わせることもなく会話することがほとんどだ。
「……この前の助っ人の件、私に無断で蒼崎先生にお願いしたんでしょ」
そう。あの日の助っ人の件。
私からは特に蒼崎先生に助っ人として参戦するとは一言も言ってなかった。そもそも、あの部活がそこまで窮地になっていたことも知らなかったのだ。
しかし一夜は、それを知ったうえで自分ではなく、あえて私を助っ人として参戦させると、私の許可なしに蒼崎先生に話をつけていたのだ。……まぁ、単なる憶測にすぎないのだが。
「……えぇ」
「どうして……? 私はあの日以来、もう太鼓を叩くことはしないって貴方にも言ったわよね?」
そこで一夜は黙り込む。あの日以来、私は叩かないと誓っていた。それは一夜も知っている。……そもそも、一夜の目の前でそれを誓ったのだから。
それなのに一夜は……私を助っ人として、あの日ムリヤリ会場へと連れて行ったのだ。「二人で買い物に行く」なんてウソまで吐いて……。
「……そうだったわね。確かに紗琉ちゃんは、あの日以来叩かないって言ってたわね。私ったら、完全に忘れていたわ、ごめんなさい」
「…………」
と、一夜はごまかした。
しかし私は知っている。それは一夜の悪いクセだ。
いつも都合が悪くなると、一夜は決まってボケたかのように「忘れた」なんてウソを吐く。これまでも何度かこうしてウソを吐いてきたことがあったからだ。
一夜にも何か、私の知らない考えを持っている。それを暴きたい気持ちはあったが……。
「……そう。でも私は、もうあの部への助っ人は行かないから。例えまた、私の許可なしに蒼崎先生に頼みに行かないでよね」
……ムリだった。
そこで暴いてしまえば、きっと一夜との長かった友情すら壊れてしまうと思ったからだ。
だからこそ、本当に投げたかった言葉をそのまま飲み込んでしまっていた。たった一言、「それはウソだ」という言葉を。
……一夜とは、今のままで一生にいたい。だからこそ、この友情を壊すことはことだけは私はしたくなかった。
それ以降、私たちはただ静かに生徒会の仕事も黙々と、この静寂な生徒会室でこなしていくだけだった。
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