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第一部  離宮編

8.石鹸作り

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テッセルと一緒に畑にとって返すと、兵士達がガンガン稲刈りしていた。 

すげぇパワー。 

ま、これが美味いパンになると思えば気合も入るってもんだよな。 

俺も美味い飯が食いたいから、頑張ってくれい。 

女性陣は、籠に果物や葉物をキャッキャッと笑いながら摘んでいた。 

いいねぇ、そこだけ何かキラキラの加工がされてるわ。 

「……アキラ様?」 

ウットリ眺めていたら、ライド王子に怪訝そうな顔で声をかけられてましまった。 

いかんいかん、リルの木だった。 

今、畑の端の三本は青々とした葉をワッサリと繁らせている。 

兵士が梯子をかけて上の方の葉を回収していた。 

「ええっと、石鹸にするには葉っぱを乾燥させて、それから煮溶かすんだっけか」 

「はい、葉を乾燥させると表面の水泡が剥がれ落ちるので、それから砕いてゼゼの実と一緒に煮詰めるのです」 

煮詰めるのに、けっこうリルの薪を使いますと聞いて驚いた。 

リルの木は薪にもなるのかよ。 

マジでリルの木、捨てるとこねぇな~。 

んん?ってことは、リルの木を丸々乾燥させれば手っ取り早くね? 

「閃いたっ!」 

俺は城から大きな布を何枚かと、煮詰める用の大きな鍋を持って来るように言ってから、元気なリルの枝を4本切り落としてもらう。 

まずは端の木の回りに布を敷き詰めて、皆には下がってもらう。 

水分が蒸発して、葉や幹が乾燥して干からびていくイメージだな。 

「……乾燥を加速」 

木からボワッと水蒸気が上がって、葉っぱがみるみる茶色くなっていく。 

枝や幹もピキピキと音を立てて水分が抜けていき、ひょろっとしてくる。 

刈り取りの最中の兵士達も手を止めて見ていて、あちこちからほおお~っとどよめきが上がる。 

ここいらで十分かな?ってところで加速を止めて、ザウスを呼ぶ。 

「お~い、ザウス。手伝ってくれよ」 

「何でしょう?」 

「葉を一気に振り落としたいから、揺するぞ」 

筋肉隆々の上半身に汗を光らせてやってきたゼウスと一緒に乾燥させた木の元に行き、両側に立つ。 

「俺が押したら、反対側から押し返してくれ。いくぞ~」 

幹に両手を突っ張って、ぐんっと力を入れて押す。 

思ったよりも軽い感触で、ユッサユッサと大きく揺れた。 

「どわあっっ」 

葉っぱが一気に降ってくるのは予想していたけど、その前に葉の表面の水分が蒸発して残った塩が粉のようにドザザーッと降り注いでくるのは想定外だった。 

葉が全部敷いたシートに落ちる頃には、俺とザウスは全身真っ白な塩まみれだった。 

「ア……アキラ様、大丈夫で……ブフッ」 

さすがのライド王子も我慢出来ずに吹き出している。 

後ろの兵士達は遠慮なく大爆笑の渦。 

くそ~、考えが甘かったわ。 

笑われてムッとしたけど、ザウスとお互いの姿を見た途端、俺達も爆笑してしまった。 

こりゃおかしいわ。 

もう汚れついでだと、もう一本の木も乾燥させて葉と塩を振り落とす。 

俺とザウスが溜めておいた桶から水を被って塩抜きしている間に、兵士達に回りに敷いておいた布を回収して塩とリルの葉を分けてもらう。 

塩も大量に手に入ったと料理長はホクホクだった。 

枯れたリルの木もさくっと切り倒して速攻薪に早変わりした。 

しっかり乾燥しているので、割るのも簡単だ。 

畑で栽培したマスカットに似た感じのトトの実とリルの葉を、大きな鍋で煮る。 

その間に、先ほど切っておいた4本のリルの枝を地面に刺して、再び大きく育てる。 

枝から育てられる木で良かったわ~。 

もう昼を過ぎていたので、料理長が持って来た大きな鉄板でもぎたての野菜を焼いて昼飯はバーベキューと洒落こんだ。 

腹一杯食べた兵士達は力が漲り、午後は更にペースアップした。 

それでも一面の畑の収穫と、リルの木の解体と石鹸作りを終えた頃には、陽がだいぶ傾いていた。 

急遽大量に用意した石鹸用の木型に流し込んだ液体を加速で乾燥させ、一日でかなりの量の石鹸も作れた。 

体力には自信がある俺でも、さすがに疲れた。 

兵士達もへばってはいたが、顔は終始笑顔だった。 

希望のある労働は、やりがいがあるもんな。 

さて、お楽しみの夕食の前に、汗だくの野郎共と再び水浴びタイム。 

今日は畑の横で浴びて、その水はそのまま畑に流すようにした。 

リルの石鹸は自然のものだから、むしろ畑の栄養になるのだ。 

まじ、リルの木リスペクト。 

 

「おお~!パンとスープの朝食からは信じられない内容だ」 

食堂のテーブルには色とりどりの野菜や果物が乗り、スープも具沢山。 

あれだけ働いたんだから、これくらいのご褒美がないとな。 

「いただきますっ」 

皆で一斉にかぶりついて、至福の時を味わう。 

「う~ん、うまっ」 

「うんまい~」 

かなり大きな野菜だから味はどうかと思ったけれど、濃厚でどれも美味い。 

「美味いな~、特にこの肉は絶品だぜ。これって何の肉?」 

牛肉のステーキのような味わいで、スパイスの効いたものを頬張りながら隣のリネルに聞くと、 

「それは畑でとれたマルルという野菜ですよ。この世界では、動物は食べないのです」 

「ええ?これが野菜?……スゲェ…」 

異世界カルチャーショックが来た。 

じゃあ、このかぶりつくと染み出る赤いヤツは血じゃなくて果汁か。 

そうか、動物の肉は食べないんだ。 

砂漠だから元々動物が少ないのもあるのかな。 

でも味や噛み応えは肉そのものだ。 

「ヘルシーだし、満足感も十分だし、殺生しないで畑で全部作れるんならそれが一番だな」 

「栄養価も良いので、とても重宝します」 

乾燥させて保存食にも出来るらしい。 

野菜だけど味は干し肉ってか。 

じゃあ明日は備蓄用の食材を作るから、乾燥まで加速させてやれば手間も省けるな。 

種も沢山作らないとだしな。 

女性陣用のシャワーも出し終えてベッドに寝転がったら、秒で寝落ちた。 
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