え?聖女って、女性がなるものだよね? ~期間限定異世界救済プロジェクト~

月夜野レオン

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第一部  離宮編

9.水場建築

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さて、今日からは作業を城と町で同時進行しなければならない。 

兵士達には更に頑張ってもらわないといけないが、水も食事もたっぷり摂れるようになって、皆のやる気はマックス。 

まず城の畑は、朝に種を撒いて一気に育成を加速。 

そのまま収穫出来るものは除いて、更に熟成を加速して最後は乾燥まで行って、なんちゃって干し肉や作物の種が回収出来るところまで進めた。 

これらを備蓄用に回収を頼む。 

リルの木も2本を乾燥までして、横に新しい木を育てる。 

備蓄食料の回収とリルの木の薪作りと石鹸作りに兵士20人を配置して、陣頭指揮をライド王子に任せた。 

医師のテッセルとリネルには、教会に水と食材、石鹸の配給に行く兵士に同行してもらって、病人の数と状態を把握してきてもらうことにした。 

俺はザウスと残りの兵士達とで建築材料を持って街の広場へ繰り出す。 

昨日の夕方から、俺は城の水場に一切近づかないで、当直の兵士に水の降水状態を監視してもらっていた。 

その結果、俺がすっかり降雨の事を忘れて爆睡している夜の間も、雨の勢いは変わらなかった。 

一度雨雲を作って降雨量を固定すれば、俺が意識していなくてもそのまま降り続けるらしい。 

不思議だけど、今は有り難い。 

 

「さて、準備にかかろう」 

広場に到着すると、早速目星をつけておいた中央に貯水場の建設を開始した。 

民達が何事かと集まってくるけれど、成功するまではパニックになるので内緒にしておく。 

「アキラ様、枠の高さですが、どの程度にしましょうか?」 

「そうだなぁ……」 

貯水槽自体は高さを3メートル、幅を5メートルの四角形にした。 

レンガに似たブロックを兵士達がどんどん積み上げていく。 

樹液から作る粘土みたいなもので隙間はピッタリと塞がる。 

その横に腰の高さくらいで5メートル角の枠を、更にその横に膝の高さの枠を作らせた。 

貯水槽の壁面に1ヶ所穴を開けて、そこから横の枠に水が流れるようにミニ滑り台を設置。 

腰の高さの上段からは、バケツで水を掬えるようにした。 

その横の中段は、動物達の水飲み場として、または洗い物なんかが出来るように横長に作った。 

最後の下段は、足とか汚れたものを洗う場にする。 

段々畑の要領だ。 

貯水槽の上には板で蓋をして敢えてブラックボックスにする。 

その中で雨雲を発生させて雨を降らせるので、見られないようにする為だ。 

聖女の奇跡を開けっ広げにする訳にはいかない。 

貴重な水源になるから、稼働後は兵士を常駐させないとだめかな。 

でも人手は猫の手を借りたいくらいだから、それは避けたい。 

「ザウス、相談があるんだけど」 

「はい、何でしょう?」 

横で作業の陣頭指揮をとっていたザウスに、タイミングをみてコッソリと声をかける。 

「水の供給源になる場所だから、監視というか管理者を置きたいんだけど、兵士は使いたくないんだ。何か良い案はないかな?」 

「ああ、そうですね。少ないとはいえ行商人や旅人も立ち寄る場所です。不法占拠や荒らしが出たらマズいし、治安悪化に繋がる恐れもありますね」 

ふうむ、と考え込む俺らに、兵士の1人が声を掛けてきた。 

「あのー、アキラ様。実は相談が……」 

「相談?」 

「俺の実家が水の販売を家業にしてまして、ここに給水場が出来ると商売が立ちいかなくなってしまうんですが……」 

「……それだっ!」 

「ひえっ」 

俺とザウスが同時に叫んだもんで、恐る恐る話してきたその兵士は仰天して尻餅をついてしまった。 

いや、申し訳ない。 

そうだよ、ここでは水は酒と同程度の有料物だった。 

ならばその商売をしている者達に、今度はここの管理をしてもらえばいい訳だ。 

「この町に何軒くらいあるんだ?その商売をしている家は」 

「えっと……5軒です」 

ちょうど良い数だ。 

聞けば水源に水を汲みに行って販売するその商売は結構過酷なので、みんな屈強な人が揃っているらしい。 

まさに最適な人員じゃん。 

砂漠を往復する荷馬車は夕方に出発して午前中に戻ってくるらしいので、夕方の出発前に城に集まってもらおう。 

数人の兵士に店を回ってもらって、荷馬車で城に来るように伝言を頼む。 

貯水プールは、夕方に何とか完成した。 

急いで俺だけを残して、広場を立ち入り禁止にする。 

「よし、やるか」 

粘土は乾くのに3日くらいかかるらしいが、そこはそれ、俺が加速をかければすぐに乾く。 

リルの木と同様にやればいいだけだが、うっかり人がいたりすると、即席ミイラが出来かねないから人払いをしたのだ。 

広場に干からびたミイラが点々とか、笑えない。 

範囲をよくよく意識して、乾燥を開始する。 

レンガの隙間からシューっと蒸気が上がって、樹液粘土の色が変わりだす。 

こいつは完全に乾燥すると黒くなるらしいので、分かりやすい。 

蒸気が消えて、レンガの隙間が黒くなったところで加速を止める。 

「これで完成だな」 

強度を兵士達と確認して、出来栄えを満足そうに眺めていたら、陽がだいぶ傾いていた。 

「いけねっ、城に戻らないと」 

水販売業者の荷馬車が来る前にと、ダッシュで帰って中庭で汗を流す。 

 

水を城で供給出来ると言われて半信半疑でやってきた業者達は、上から伸びてきているホースからドバドバと出る水に口をあんぐりと開いて固まった。 

「……水が………水が…」 

屈強な男共がみんなして口を開いて並んでいる光景は、ちょっと笑える。 

やっと我に返った男達に、ライド王子が口止めをしたうえで聖女様が降臨して水を与えて下さったのだと説明すると、男達は涙を流しながら、見えない聖女様に感謝を捧げていた。 

いや、路上でそのひれ伏しはやめよう。 

怪しい宗教みたいで怖い。 

俺は身バレするのは得策じゃないと思い、王子達と相談して一兵士に扮装することになったので、他の兵士達に紛れてそれを見ていた。 

でも、ちょっと胸に迫るものがあるな。 

あんな屈強な男達でも、毎日砂漠を往復して水を運ぶということが、どれだけ過酷だったかよく分かる。 

もう運ばなくてもいいんだと喜びにむせび泣く背中に、皆の命が重くのしかかっていたんだな。 

水なんてあって当たり前の世界がどれだけ恵まれていたのか、すごく身に染みた。 

早く、この世界の人達の生活を豊かにしてあげたい。 

王子の話では、彼らはこれから貯水場の管理を仕事にして、城から給料を貰う形になるらしい。 

国家公務員みたいな感じか。 

公共事業だもんな。俺の世界での水道局みたいな。 

明日は貯水場を始動する予定だ。 

俺は兵士達とボリュームも栄養も満点の夕食を食べてから、ワイワイと水浴びをした。 

驚いたことに、中庭に簡易シャワー施設が作られていた。 

畑の収穫を速攻で終わらせた兵士と女官達が作ったらしい。 

仕事はやっ。 

4本の柱を立てて穴を開けた皮を上に張り、ホースで上から水を回してきていた。 

「おおー、ナイスアイデアだな」 

多少大きめの水滴だけど、十分にシャワーの役割を果たしている。 

柱同士の間に布を張って目隠しも出来ており、石鹸置き場も完備。 

10人くらいで、交代で浴びられる。 

これならいつでも入りたい時にホースの口を縛ったヒモを解けばオーケーだ。 

女性陣も交代で入れるし。 

「これ……広場でもいけるんじゃね?」 

貯水場の横に公衆浴場。 

おおー、いいかも。 
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