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第一部 離宮編
7.貯水と配給
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貯水部屋に戻ってみると、防水の皮貼り作業はほぼ終わっていた。
おおぅ、みんな仕事が早いわ~。
今は皮を筒状に張り合わせてホース作りの最中だった。
「お……これは使えそうだな~」
柔らかな材質の皮は、まるで消防隊が使うホースのように折り畳める。
「ライド王子、この皮ってどこから入手してるんだ?」
「それはわが国では育たない動物の皮なので、隣国から来ている行商から買っています」
定期的に来ているので来月にはまた来るという。
「たくさん買えるかな?」
「………何分、ここには特産物がないので、物々交換が出来ません。国費も回してもらえないので……」
恥じ入るように俯く王子に、俺は慌てて首を振った。
「いやいや、それはこの現状を見れば分かるし。そうか、何か手を考えないとな……」
倉庫にまだ使わずに積まれている分があるというので、とりあえず全部出してもらって、ホースを何本も作ってもらうように指示する。
これには、女性陣が私達が作りますと名乗り出てくれた。
助かるわ~。
「んじゃ、やってみようかね」
何回もやっていると、雲を作るのも早くなってきた。
まずはドドッと降らせて、腰の高さくらいまで一気に貯める。
「ライド王子、触ってみてくれ」
「……おおっ、冷たい!」
水に手を入れた王子がビックリしている。
よしよし、今回はめっちゃ冷たいイメージで降らせてみたんだ。
もう、雹になる寸前くらいのイメージな。
樽に詰めて運んだ先で、少しでも冷たさが残っていた方が熱中症には効果が期待出来るからな。
「まずは教会に配給しないとな」
窓の横に用意したホースを全部水の中に浸して端をヒモで縛っていると、兵士のひとりが柄杓みたいなものを持ってきた。
「ん?何これ……」
「え、あの……筒に水を掬い入れる為のものですが…」
おおっと、ここは理科のお時間か。
「ああ、いらないよ。これはね……」
窓の下にいる兵士に声をかけてから、下に用意してある荷車の樽に向けてホースを投げ下す。
「端を樽に入れたら、ヒモを解いてくれ」
「はっ」
ヒモが解けると、勢い良く水が出てくる。
「おおっ、これは魔法ですか!?」
「なぜ何もしていないのに筒の中を水が落ちていくのだ?」
どよめく兵士達に原理を説明しようとして、イマイチ自分も理解していないことに気づいてしまった。
「あ~、これは自然の法則を利用してるだけなんだよ」
理科で習ったけど、案外覚えていないもんだなぁ。
「何て言ったっけ?……サイフォンの原理だっけか?」
う~む、説明出来んわ。
まあとにかく手早く水を補充出来るから、良しとしよう。
「アキラ様は博識ですね。素晴らしい知識をお持ちだ」
うわ、ライド王子のキラキラの視線が痛い。
やめてくれ、そんな大したもんじゃないし説明すら出来ないしな?
回りの兵士たちまで、同じ視線になってる。
「し、下に行こう」
荷車を確認しに行こうと言って、俺は慌ててそこを逃げ出した。
樽に水をどんどん入れている脇で、馬とラクダのあいのこみたいな動物がヤクーという名前だと聞きながら水をやっていると、医師のテッセルが籠を抱えてやってきた。
「おお、アキラ様。こちらにいらしたか」
抱えている籠には葉っぱがどっさり入っている。
「これは何の葉っぱ?」
「リルの葉ですよ」
あ、石鹸の原料のか。
「こんなに瑞々しい葉を入手出来たのは久しぶりです。これを水樽に何枚か入れて下さい」
「へ?樽に?石鹸になっちまわないの?」
俺は籠から葉っぱを摘み上げてしげしげと眺めた。
楓とか紅葉のでっかい版って感じだけれど、葉の表面に朝露の細かいのみたいな玉がびっしりとついてる。
不思議な葉っぱだな~。
「ほっほ、石鹸にするには乾燥させて砕いて混ぜ物をしないと出来ませんよ。これはそのまま食べても美味しい植物です」
どうぞ食べてみて下さいと言われて、おそるおそるかじってみた。
「………お?なんか……表面のプチプチが塩味だ」
「はい、これは塩分を含んでいる水泡なので樽に入れると溶けて少し塩水になります。また葉には殺菌作用もあるので水質劣化を遅らせます」
「おお~、それはいいな。熱中症には塩分も取る必要があるし、一石二鳥だ」
そのまま食べて良し、水に入れても良し、殺菌もできるし石鹸にもなる。
リルの葉、万能じゃん。
早速樽に入れるように指示していたら、持ってた葉っぱの残りをヤクーにパクリと食べられてしまった。
「おわ!びっくりした~。そっか、お前も塩分欲しいよな」
美味そうにムシャムシャ食べてるのを見て、前にテレビでトナカイが岩塩を齧りに来るという話を思い出した。
「生き物には塩分は必要だよな」
もう一枚葉っぱを齧ると、俺の世界にも似たような植物があったな~とぼんやり思い出した。
アイスプラントとか言ったっけ?
「アキラ様、リルの葉の加工で相談が……」
おっと、ぼんやりしている時間は無かった。
俺は葉っぱを齧りつつ、畑にとって返した。
やる事が山積みだ~。
おおぅ、みんな仕事が早いわ~。
今は皮を筒状に張り合わせてホース作りの最中だった。
「お……これは使えそうだな~」
柔らかな材質の皮は、まるで消防隊が使うホースのように折り畳める。
「ライド王子、この皮ってどこから入手してるんだ?」
「それはわが国では育たない動物の皮なので、隣国から来ている行商から買っています」
定期的に来ているので来月にはまた来るという。
「たくさん買えるかな?」
「………何分、ここには特産物がないので、物々交換が出来ません。国費も回してもらえないので……」
恥じ入るように俯く王子に、俺は慌てて首を振った。
「いやいや、それはこの現状を見れば分かるし。そうか、何か手を考えないとな……」
倉庫にまだ使わずに積まれている分があるというので、とりあえず全部出してもらって、ホースを何本も作ってもらうように指示する。
これには、女性陣が私達が作りますと名乗り出てくれた。
助かるわ~。
「んじゃ、やってみようかね」
何回もやっていると、雲を作るのも早くなってきた。
まずはドドッと降らせて、腰の高さくらいまで一気に貯める。
「ライド王子、触ってみてくれ」
「……おおっ、冷たい!」
水に手を入れた王子がビックリしている。
よしよし、今回はめっちゃ冷たいイメージで降らせてみたんだ。
もう、雹になる寸前くらいのイメージな。
樽に詰めて運んだ先で、少しでも冷たさが残っていた方が熱中症には効果が期待出来るからな。
「まずは教会に配給しないとな」
窓の横に用意したホースを全部水の中に浸して端をヒモで縛っていると、兵士のひとりが柄杓みたいなものを持ってきた。
「ん?何これ……」
「え、あの……筒に水を掬い入れる為のものですが…」
おおっと、ここは理科のお時間か。
「ああ、いらないよ。これはね……」
窓の下にいる兵士に声をかけてから、下に用意してある荷車の樽に向けてホースを投げ下す。
「端を樽に入れたら、ヒモを解いてくれ」
「はっ」
ヒモが解けると、勢い良く水が出てくる。
「おおっ、これは魔法ですか!?」
「なぜ何もしていないのに筒の中を水が落ちていくのだ?」
どよめく兵士達に原理を説明しようとして、イマイチ自分も理解していないことに気づいてしまった。
「あ~、これは自然の法則を利用してるだけなんだよ」
理科で習ったけど、案外覚えていないもんだなぁ。
「何て言ったっけ?……サイフォンの原理だっけか?」
う~む、説明出来んわ。
まあとにかく手早く水を補充出来るから、良しとしよう。
「アキラ様は博識ですね。素晴らしい知識をお持ちだ」
うわ、ライド王子のキラキラの視線が痛い。
やめてくれ、そんな大したもんじゃないし説明すら出来ないしな?
回りの兵士たちまで、同じ視線になってる。
「し、下に行こう」
荷車を確認しに行こうと言って、俺は慌ててそこを逃げ出した。
樽に水をどんどん入れている脇で、馬とラクダのあいのこみたいな動物がヤクーという名前だと聞きながら水をやっていると、医師のテッセルが籠を抱えてやってきた。
「おお、アキラ様。こちらにいらしたか」
抱えている籠には葉っぱがどっさり入っている。
「これは何の葉っぱ?」
「リルの葉ですよ」
あ、石鹸の原料のか。
「こんなに瑞々しい葉を入手出来たのは久しぶりです。これを水樽に何枚か入れて下さい」
「へ?樽に?石鹸になっちまわないの?」
俺は籠から葉っぱを摘み上げてしげしげと眺めた。
楓とか紅葉のでっかい版って感じだけれど、葉の表面に朝露の細かいのみたいな玉がびっしりとついてる。
不思議な葉っぱだな~。
「ほっほ、石鹸にするには乾燥させて砕いて混ぜ物をしないと出来ませんよ。これはそのまま食べても美味しい植物です」
どうぞ食べてみて下さいと言われて、おそるおそるかじってみた。
「………お?なんか……表面のプチプチが塩味だ」
「はい、これは塩分を含んでいる水泡なので樽に入れると溶けて少し塩水になります。また葉には殺菌作用もあるので水質劣化を遅らせます」
「おお~、それはいいな。熱中症には塩分も取る必要があるし、一石二鳥だ」
そのまま食べて良し、水に入れても良し、殺菌もできるし石鹸にもなる。
リルの葉、万能じゃん。
早速樽に入れるように指示していたら、持ってた葉っぱの残りをヤクーにパクリと食べられてしまった。
「おわ!びっくりした~。そっか、お前も塩分欲しいよな」
美味そうにムシャムシャ食べてるのを見て、前にテレビでトナカイが岩塩を齧りに来るという話を思い出した。
「生き物には塩分は必要だよな」
もう一枚葉っぱを齧ると、俺の世界にも似たような植物があったな~とぼんやり思い出した。
アイスプラントとか言ったっけ?
「アキラ様、リルの葉の加工で相談が……」
おっと、ぼんやりしている時間は無かった。
俺は葉っぱを齧りつつ、畑にとって返した。
やる事が山積みだ~。
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