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残された猶予は残り少ない、早々に私達は動き出す。
もしかするとガディウスは野盗を手引きなどしておらず、無実の可能性も残されてはいる。
しかし、杞憂だとするにはあまりにも状況がひっ迫している……指をくわえて待っているつもりはない。
正騎士団へは王都に集まりつつある野盗団が王宮を狙っている可能性があるために準備せよと伝えられる。
ガディウスについては余計な混乱を防ぐために伏せられている。
私とユリウスは策を進めるために再び王宮へと忍び込む。
ガディウスといえど常に王宮にいる訳ではない、今の彼は野盗団が先走らないように監視する必要もあるはず。
狙い通りに遠征と称して王宮より彼が出た事を確認できた。
しかし、ガディウスがここまで手薄できるのは状況が整っている証拠でもある。仮にアルフレッドが王命で正規軍を招集しても、その前に片を付ける自信があるのだろう。
しかし、その余裕こそが今の私達には貴重な時間だ。
◇◇◇
「こちらです。ユリウス」
「了解、道案内を頼むよリルレット」
王宮内を見つからぬように進む、見張りである王宮騎士団は少ない。
彼らもあずかり知らない所で準備を着々と進めているのだと分かる。
向かう先はセレン妃の寝室であり、着いて早々に扉をノックして中に入っている。
「失礼しますセレン妃、再びこのような無作法な来訪となってしまい申し訳ありません」
入室して早々に頭を下げた私達を見てセレン妃も何かを察したのだろう。
「構いません」と告げて私達の説明を待った。
察しの良い対応に感謝しつつ、事情を説明する。
ガディウスが考えていると思われる事、王宮へ戦火が広がる可能性を伝える。
「それで……私に会いに来てどうなさるつもりなのですか?」
「セレン妃には王宮から離れて頂きます、ここは危険ですので」
「逃げる場所はないのでは? 正騎士団の勝敗によって私達王国貴族の生末も決まりましょう?」
「セレン妃……お耳をお貸しください。貴方にもして頂きたい事があるのです」
そっと耳を傾けてくれたセレン妃に耳打ちする。
私の計画を明かすと彼女は目を見開き、信じられないといった様子で視線を向ける。
「それは正気で言っているのですか?」
「はい、セレン妃にしか頼めない事です……お願いいたします」
セレン妃は動揺しながら考え込み、しばらくの沈黙の後、幼きイエルク様の肖像画を見て頷いた。
「確かに、これしか方法がないのでしょう。元より貴方に真実を打ち明けた時から覚悟は決めておりました、できる限りやってみましょう」
「ありがとうございます……では、セレン妃をお願いしますユリウス」
「任された。本当にカラミナ妃とは一人で会うのかい?」
「はい、彼女は私を信用してくれている。ユリウスと行けば余計な警戒をされてしまう可能性がありますので」
「分かった、セレン妃は必ず王宮から連れ出そう。君も頼んだよ」
「はい!」
ユリウスはセレン妃を連れて正騎士団本部へと向かい、私は踵を返してカラミナ妃の寝室へと向かう。
王宮内に壁掛けされている燭台をわざと消していく、廊下を真っ黒に染めていくのは逃げる際に有効であり、王宮騎士が通れば燭台に再び火がともるため、どのルートに王宮騎士がいるのか分かる。
ユリウスに新たに教えられた忍び込む方法、これではすっかり私が野盗だな。
自嘲気味に考え、目的地へとたどり着く。
「カラミナ妃、失礼します」
「ひ!! だれ……って、リール?」
いつものようにアロマが灯る部屋の中でくつろいでいたカラミナ妃は一驚しつつも、私を見て読んでいた本を閉じる。
「ど、どうしたのよ、今日は護衛に来たのではないのでしょう? ま、まさか逢瀬を?」
読んでいた本の影響だろうか、頬を赤くしているカラミナ妃に苦笑を漏らしつつも私は胸当てを外す。
「隠していて申し訳ありません。僕はリールでなく……貴方と同じ妃候補であったリルレットです」
「は? ……え?」
あまりにも突然の告白に愕然としてしまうカラミナ妃であったが、素性を隠したまま巻き込む事は避けたいために私は包み隠さず明かす事にした。
「男性と偽って騎士団に入り、素性を隠して貴方の護衛をしていた事をお詫びします」
「じゃ……じゃあずっと騙していたの?」
「……どう受け取って頂いても構いません。しかしカラミナ妃にはどうしても協力して頂きたい事があるのです」
「な、何を言っているの?」
セレン妃同様に全てを明かす、王宮に戦火が迫る可能性がある事。
そして……彼女にとって辛い事かもしれないが、アルフレッドがそれに関して一切の助力をしない事も告げる。
全てを沈黙して聞き、セレン妃は涙を目に浮かべて声を震わせる。
「信じない、私はそんな事を信じるつもりはないわ」
「カラミナ妃……」
「私はラビエンス伯爵家から期待されて妃候補になったのよ、殿下に愛されるために努力だっていっぱいした。いきなり迫られて怖かったけど、最近は心の準備だって済んでいたのよ? 私の努力も決意も無駄だっていうの?」
「そうは言っていません。しかし……今は王宮より離れるためについて来てください。辛い気持ちは理解しております」
「分からないわよ!! 愛されようと必死で……ようやく実を結び初めていたのに」
「分かりますよ、カラミナ妃……私もそうでしたから」
彼女を見つめ、そっと手を握る。
今のカラミナ妃は私と同じだ、理想に思っていた事が崩れていく感覚……辛くて、胸が締め付けられるような苦しい気持ち。
努力が全て無駄だったと告げられているような虚無感。
痛いほどにその気持ちがよく分かる。
「カラミナ妃……今は苦しいと思います。しかし、必ずその努力が報われる日は来ます。新たな恋もきっとある」
「……」
「王宮から一時的に抜け出すだけです、カラミナ妃が望むのであればまたアルフレッドの妃候補として戻ってこれます。だから私達に協力して欲しい。必ず悪いようにはしません」
「……分かったわ、でも約束しなさいよ。この件のせいで私が妃候補から降りる事になれば……正騎士団からいい人を紹介するって……できればカッコイイ人」
ラビエンス伯爵家は商家から貴族になったと聞いていたが、なるほど、ただでは転ばない強い女性のようだ。
少なくとも私などよりも、とても精神力が強く。
心配は杞憂みたいだ。
「分かりました、約束します」
「じゃあ、行きましょう。協力と言ったけどなにをすればいいの?」
「貴方のラビエンス伯爵家へ荷運びを頼むだけです。詳細は王宮を出てからお伝えします」
カラミナ妃の手を取り、王宮から抜け出す。
あまりに素直に付き添う彼女を見て、本当は妃候補を辞める理由を探していたのかもしれないと私は考えた。
こうして、その夜に王宮より妃候補が忽然と消えた。
同時に正騎士団より多数の使者を各地の正騎士団へ増援を求めて送り出していく、実際には増援を期待してのものではなく、カラミナ妃やセレン妃を安全に送り出すための偽装部隊が多い。
当然ガディウスは私達が動き出したのを察したのだろう、野盗団が急速に王都へと集まり軍隊のように集まっているという報告が正騎士団本部へ伝わる。
いよいよ、彼らは王都へと攻め込むつもりだ。
実際には野盗団を率いて統率するには準備が必要で数日を要するはず。
長いようで……少ない日数はあっという間に過ぎていき、正騎士団では僅かでも軍備増強を行うためにも王都近郊の正騎士団へ招集をかけたが想定の半数しか集まらない、それには事情があった。
◇◇◇
「リール……いや、リルレット!!」
正騎士団本部、副団長室に向かう廊下で後ろから声をかけられ振り返ると、マルクが手を振っていた。
最近はお互いに忙しいのと、気まずい最後であったために彼から声をかけてくれた事に内心はほっとする。
「マルク、久しぶりです」
「久しぶりだな……リルレットは準備できてるのか?」
「はい、覚悟は出来てます。マルクも団長の補佐官なのですから、準備できていますか?」
「なぁ……正騎士団のこれ以上の軍備増強は難しいと聞いているだろう? 近郊から招集されていた正騎士団が野盗団に襲われて半分も集まってない」
「そうですね……」
歯がゆい思いであった、ガディウスの監視の目は予想以上に広いため戦力の差は埋められていない。
それどころか徐々に数を減らされており、このままではジリ貧だ。
「しかし私達はやるべき事をするだけです。王都を、民を守るために騎士になったのだから」
「なぁ、お前は怖くないのか? 野盗団や王宮騎士団が相手であれば……勝ち目はないだろ? このままじゃ無駄死にだ」
「マルク……正騎士になったその時から、私達が逃げるという選択はないでしょう?」
「そうだけど、俺達新兵には荷が重いと思わないか? リルレット、今からでも遅くない逃げるべきだ」
「怖い気持ちは分かります。でも、私は逃げませんよ。例え一人になったとしても民のために剣を握ります。貴方はどうしたいの? マルク」
怯える気持ちは分かる。
状況だけを聞けば勝ち目はないに等しく、生死は絶望的だ。
しかし、諦める訳にはいかない……民の皆が最後に頼るのが正騎士団、危機を見過ごす事は出来ない。
マルクを見つめて問いかけた言葉、彼は赤髪を少しだけ弄って覚悟を決めたのか頷いた。
「俺が甘かった、覚悟を決めたよリルレット」
「無事で、マルク」
お互いに拳を合わせ、騎士として互いの無事と活躍を祈る。
いざこざがあったとはいえ、戦友として互いに信用して共に戦う仲間だ。
なのに……何故か感じる違和感が彼の言動の何かが気にかかるがその正体が分からない。
杞憂だ。
違和感に蓋をして、私と彼はお互いの準備を進めた。
◇◇◇
数日後、予想通りに野盗団が軍隊のように徒党を組み王都へと侵攻した伝令が伝えられる。
その数は八千と膨大、正騎士団の数は二千と戦力差は歴然だ……しかし正騎士団は一切の怯えもなく王都を発ち、野盗団を食い止めるための防衛線を敷く。
国を守るためとあれば士気は高く、ジェイソン団長が自ら指揮を取って戦が始まる。
王都の民は混乱しつつも正騎士団の勝利を信じ、暴動や逃げ出すような騒ぎにはならない。
流石に王宮騎士団が指揮する軍隊と知られれば騒ぎが大きくなり王都を納めるために人員を割く事になってしまうだろう。
情報を遮断したジェイソン様の判断は流石だ。
今のままであれば、まだ間に合う。
私とユリウスは戦場ではなく、未だ進む計画のために正騎士団本部に控えていた。
「リルレット、準備はいいかい?」
軽装の鎧を身につけ、腰に剣を差しながら私は頷く。
「もちろんです。いつでも行けます」
気を張る私の肩を彼は叩き、いつもと変わらない笑顔でそっと頬にキスを落としてくれる。
「気負わず、きっと大丈夫だ」
「は……はい」
「リルレット、全てが終わったら君に伝えたい事があるんだ」
「そういう事、先輩達から戦の前に言うべきでないと散々言われましたよ」
未来を見て発言すると、そういった者は早々に命を落とす。
そんなジンクスがあったために私が苦言を呈すと、彼はズイっと私へと顔を近づける。
「リルレットは僕よりも先輩を信用するのかい?」
「そ、そうは言ってないけど……」
「大丈夫だよ、僕は誰にも負けないからね」
「どこから来るのですか……その自信は」
「まぁ、僕は隠し事が多い男だからね」
不思議な言葉に首をかしげるが、いつものからかい口調と笑みを浮かべる姿に気負っていた心が晴れる。
気を紛らわすための冗談なのだろう、おかげでリラックスできた。
彼が伝えたい事があると言ったのなら、私も彼を信頼して口を開く。
「じゃあ、私も全て終わったらいっぱい貴方に甘えさせてくださいね」
からかって言ったつもりであったが、彼は予想外に目を見開く。
そして頬を赤く染め、視線を逸らしている姿……珍しく照れているのだと気付いた。
「楽しみにしているよ」と言われて私も引くに引けなくなる。
覚悟を決め、頷いて答える。
「では、背中をお願いします。ユリウス副団長」
「こちらこそ、任せたよリルレット補佐官」
騎士として無事を祈る挨拶、互いの籠手を当てて金属音を鳴らし私達は目的地へと進む。
向かう先は王宮、会う相手はアルフレッドだ。
もう怖くはない、隣にはユリウスがいる、それだけで無限の勇気が沸き起こる。
出来る限りの策は講じた……後は結果を残すだけだ。
もしかするとガディウスは野盗を手引きなどしておらず、無実の可能性も残されてはいる。
しかし、杞憂だとするにはあまりにも状況がひっ迫している……指をくわえて待っているつもりはない。
正騎士団へは王都に集まりつつある野盗団が王宮を狙っている可能性があるために準備せよと伝えられる。
ガディウスについては余計な混乱を防ぐために伏せられている。
私とユリウスは策を進めるために再び王宮へと忍び込む。
ガディウスといえど常に王宮にいる訳ではない、今の彼は野盗団が先走らないように監視する必要もあるはず。
狙い通りに遠征と称して王宮より彼が出た事を確認できた。
しかし、ガディウスがここまで手薄できるのは状況が整っている証拠でもある。仮にアルフレッドが王命で正規軍を招集しても、その前に片を付ける自信があるのだろう。
しかし、その余裕こそが今の私達には貴重な時間だ。
◇◇◇
「こちらです。ユリウス」
「了解、道案内を頼むよリルレット」
王宮内を見つからぬように進む、見張りである王宮騎士団は少ない。
彼らもあずかり知らない所で準備を着々と進めているのだと分かる。
向かう先はセレン妃の寝室であり、着いて早々に扉をノックして中に入っている。
「失礼しますセレン妃、再びこのような無作法な来訪となってしまい申し訳ありません」
入室して早々に頭を下げた私達を見てセレン妃も何かを察したのだろう。
「構いません」と告げて私達の説明を待った。
察しの良い対応に感謝しつつ、事情を説明する。
ガディウスが考えていると思われる事、王宮へ戦火が広がる可能性を伝える。
「それで……私に会いに来てどうなさるつもりなのですか?」
「セレン妃には王宮から離れて頂きます、ここは危険ですので」
「逃げる場所はないのでは? 正騎士団の勝敗によって私達王国貴族の生末も決まりましょう?」
「セレン妃……お耳をお貸しください。貴方にもして頂きたい事があるのです」
そっと耳を傾けてくれたセレン妃に耳打ちする。
私の計画を明かすと彼女は目を見開き、信じられないといった様子で視線を向ける。
「それは正気で言っているのですか?」
「はい、セレン妃にしか頼めない事です……お願いいたします」
セレン妃は動揺しながら考え込み、しばらくの沈黙の後、幼きイエルク様の肖像画を見て頷いた。
「確かに、これしか方法がないのでしょう。元より貴方に真実を打ち明けた時から覚悟は決めておりました、できる限りやってみましょう」
「ありがとうございます……では、セレン妃をお願いしますユリウス」
「任された。本当にカラミナ妃とは一人で会うのかい?」
「はい、彼女は私を信用してくれている。ユリウスと行けば余計な警戒をされてしまう可能性がありますので」
「分かった、セレン妃は必ず王宮から連れ出そう。君も頼んだよ」
「はい!」
ユリウスはセレン妃を連れて正騎士団本部へと向かい、私は踵を返してカラミナ妃の寝室へと向かう。
王宮内に壁掛けされている燭台をわざと消していく、廊下を真っ黒に染めていくのは逃げる際に有効であり、王宮騎士が通れば燭台に再び火がともるため、どのルートに王宮騎士がいるのか分かる。
ユリウスに新たに教えられた忍び込む方法、これではすっかり私が野盗だな。
自嘲気味に考え、目的地へとたどり着く。
「カラミナ妃、失礼します」
「ひ!! だれ……って、リール?」
いつものようにアロマが灯る部屋の中でくつろいでいたカラミナ妃は一驚しつつも、私を見て読んでいた本を閉じる。
「ど、どうしたのよ、今日は護衛に来たのではないのでしょう? ま、まさか逢瀬を?」
読んでいた本の影響だろうか、頬を赤くしているカラミナ妃に苦笑を漏らしつつも私は胸当てを外す。
「隠していて申し訳ありません。僕はリールでなく……貴方と同じ妃候補であったリルレットです」
「は? ……え?」
あまりにも突然の告白に愕然としてしまうカラミナ妃であったが、素性を隠したまま巻き込む事は避けたいために私は包み隠さず明かす事にした。
「男性と偽って騎士団に入り、素性を隠して貴方の護衛をしていた事をお詫びします」
「じゃ……じゃあずっと騙していたの?」
「……どう受け取って頂いても構いません。しかしカラミナ妃にはどうしても協力して頂きたい事があるのです」
「な、何を言っているの?」
セレン妃同様に全てを明かす、王宮に戦火が迫る可能性がある事。
そして……彼女にとって辛い事かもしれないが、アルフレッドがそれに関して一切の助力をしない事も告げる。
全てを沈黙して聞き、セレン妃は涙を目に浮かべて声を震わせる。
「信じない、私はそんな事を信じるつもりはないわ」
「カラミナ妃……」
「私はラビエンス伯爵家から期待されて妃候補になったのよ、殿下に愛されるために努力だっていっぱいした。いきなり迫られて怖かったけど、最近は心の準備だって済んでいたのよ? 私の努力も決意も無駄だっていうの?」
「そうは言っていません。しかし……今は王宮より離れるためについて来てください。辛い気持ちは理解しております」
「分からないわよ!! 愛されようと必死で……ようやく実を結び初めていたのに」
「分かりますよ、カラミナ妃……私もそうでしたから」
彼女を見つめ、そっと手を握る。
今のカラミナ妃は私と同じだ、理想に思っていた事が崩れていく感覚……辛くて、胸が締め付けられるような苦しい気持ち。
努力が全て無駄だったと告げられているような虚無感。
痛いほどにその気持ちがよく分かる。
「カラミナ妃……今は苦しいと思います。しかし、必ずその努力が報われる日は来ます。新たな恋もきっとある」
「……」
「王宮から一時的に抜け出すだけです、カラミナ妃が望むのであればまたアルフレッドの妃候補として戻ってこれます。だから私達に協力して欲しい。必ず悪いようにはしません」
「……分かったわ、でも約束しなさいよ。この件のせいで私が妃候補から降りる事になれば……正騎士団からいい人を紹介するって……できればカッコイイ人」
ラビエンス伯爵家は商家から貴族になったと聞いていたが、なるほど、ただでは転ばない強い女性のようだ。
少なくとも私などよりも、とても精神力が強く。
心配は杞憂みたいだ。
「分かりました、約束します」
「じゃあ、行きましょう。協力と言ったけどなにをすればいいの?」
「貴方のラビエンス伯爵家へ荷運びを頼むだけです。詳細は王宮を出てからお伝えします」
カラミナ妃の手を取り、王宮から抜け出す。
あまりに素直に付き添う彼女を見て、本当は妃候補を辞める理由を探していたのかもしれないと私は考えた。
こうして、その夜に王宮より妃候補が忽然と消えた。
同時に正騎士団より多数の使者を各地の正騎士団へ増援を求めて送り出していく、実際には増援を期待してのものではなく、カラミナ妃やセレン妃を安全に送り出すための偽装部隊が多い。
当然ガディウスは私達が動き出したのを察したのだろう、野盗団が急速に王都へと集まり軍隊のように集まっているという報告が正騎士団本部へ伝わる。
いよいよ、彼らは王都へと攻め込むつもりだ。
実際には野盗団を率いて統率するには準備が必要で数日を要するはず。
長いようで……少ない日数はあっという間に過ぎていき、正騎士団では僅かでも軍備増強を行うためにも王都近郊の正騎士団へ招集をかけたが想定の半数しか集まらない、それには事情があった。
◇◇◇
「リール……いや、リルレット!!」
正騎士団本部、副団長室に向かう廊下で後ろから声をかけられ振り返ると、マルクが手を振っていた。
最近はお互いに忙しいのと、気まずい最後であったために彼から声をかけてくれた事に内心はほっとする。
「マルク、久しぶりです」
「久しぶりだな……リルレットは準備できてるのか?」
「はい、覚悟は出来てます。マルクも団長の補佐官なのですから、準備できていますか?」
「なぁ……正騎士団のこれ以上の軍備増強は難しいと聞いているだろう? 近郊から招集されていた正騎士団が野盗団に襲われて半分も集まってない」
「そうですね……」
歯がゆい思いであった、ガディウスの監視の目は予想以上に広いため戦力の差は埋められていない。
それどころか徐々に数を減らされており、このままではジリ貧だ。
「しかし私達はやるべき事をするだけです。王都を、民を守るために騎士になったのだから」
「なぁ、お前は怖くないのか? 野盗団や王宮騎士団が相手であれば……勝ち目はないだろ? このままじゃ無駄死にだ」
「マルク……正騎士になったその時から、私達が逃げるという選択はないでしょう?」
「そうだけど、俺達新兵には荷が重いと思わないか? リルレット、今からでも遅くない逃げるべきだ」
「怖い気持ちは分かります。でも、私は逃げませんよ。例え一人になったとしても民のために剣を握ります。貴方はどうしたいの? マルク」
怯える気持ちは分かる。
状況だけを聞けば勝ち目はないに等しく、生死は絶望的だ。
しかし、諦める訳にはいかない……民の皆が最後に頼るのが正騎士団、危機を見過ごす事は出来ない。
マルクを見つめて問いかけた言葉、彼は赤髪を少しだけ弄って覚悟を決めたのか頷いた。
「俺が甘かった、覚悟を決めたよリルレット」
「無事で、マルク」
お互いに拳を合わせ、騎士として互いの無事と活躍を祈る。
いざこざがあったとはいえ、戦友として互いに信用して共に戦う仲間だ。
なのに……何故か感じる違和感が彼の言動の何かが気にかかるがその正体が分からない。
杞憂だ。
違和感に蓋をして、私と彼はお互いの準備を進めた。
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その数は八千と膨大、正騎士団の数は二千と戦力差は歴然だ……しかし正騎士団は一切の怯えもなく王都を発ち、野盗団を食い止めるための防衛線を敷く。
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王都の民は混乱しつつも正騎士団の勝利を信じ、暴動や逃げ出すような騒ぎにはならない。
流石に王宮騎士団が指揮する軍隊と知られれば騒ぎが大きくなり王都を納めるために人員を割く事になってしまうだろう。
情報を遮断したジェイソン様の判断は流石だ。
今のままであれば、まだ間に合う。
私とユリウスは戦場ではなく、未だ進む計画のために正騎士団本部に控えていた。
「リルレット、準備はいいかい?」
軽装の鎧を身につけ、腰に剣を差しながら私は頷く。
「もちろんです。いつでも行けます」
気を張る私の肩を彼は叩き、いつもと変わらない笑顔でそっと頬にキスを落としてくれる。
「気負わず、きっと大丈夫だ」
「は……はい」
「リルレット、全てが終わったら君に伝えたい事があるんだ」
「そういう事、先輩達から戦の前に言うべきでないと散々言われましたよ」
未来を見て発言すると、そういった者は早々に命を落とす。
そんなジンクスがあったために私が苦言を呈すと、彼はズイっと私へと顔を近づける。
「リルレットは僕よりも先輩を信用するのかい?」
「そ、そうは言ってないけど……」
「大丈夫だよ、僕は誰にも負けないからね」
「どこから来るのですか……その自信は」
「まぁ、僕は隠し事が多い男だからね」
不思議な言葉に首をかしげるが、いつものからかい口調と笑みを浮かべる姿に気負っていた心が晴れる。
気を紛らわすための冗談なのだろう、おかげでリラックスできた。
彼が伝えたい事があると言ったのなら、私も彼を信頼して口を開く。
「じゃあ、私も全て終わったらいっぱい貴方に甘えさせてくださいね」
からかって言ったつもりであったが、彼は予想外に目を見開く。
そして頬を赤く染め、視線を逸らしている姿……珍しく照れているのだと気付いた。
「楽しみにしているよ」と言われて私も引くに引けなくなる。
覚悟を決め、頷いて答える。
「では、背中をお願いします。ユリウス副団長」
「こちらこそ、任せたよリルレット補佐官」
騎士として無事を祈る挨拶、互いの籠手を当てて金属音を鳴らし私達は目的地へと進む。
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もう怖くはない、隣にはユリウスがいる、それだけで無限の勇気が沸き起こる。
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「運命の番に出会ったからローズ、君との婚約は解消する」
ローズ・ファラント公爵令嬢は婚約者のエドモンド・ザックランド公爵令息にそう言われて婚約を解消されてしまう。
ローズの居るマトアニア王国は獣人国シュガルトと隣接しているため、数は少ないがそういった可能性はあった。
だが、今回の婚約は幼い頃から決められた政略結婚である。
当然契約違反をしたエドモンド側が違約金を支払うと思われたが――。
「違約金? 何のことだい? お互いのうちどちらかがもし『運命の番』に出会ったら円満に解消すること、って書いてあるじゃないか」
確かにエドモンドの言葉通りその文面はあったが、タイミングが良すぎた。
ここ数年、ザックランド公爵家の領地では不作が続き、ファラント公爵家が援助をしていたのである。
その領地が持ち直したところでこの『運命の番』騒動である。
だが、一応理には適っているため、ローズは婚約解消に応じることとなる。
そして――。
とあることを切っ掛けに、ローズはファラント公爵領の中でもまだ発展途上の領地の領地代理として忙しく日々を送っていた。
そして半年が過ぎようとしていた頃。
拙いところはあるが、少しずつ治める側としての知識や社交術を身に付けつつあったローズの前に一人の獣人が現れた。
その獣人はいきなりローズのことを『お前が運命の番だ』と言ってきて。
※『運命の番』に関する独自解釈がありますm(__)m
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