上 下
17 / 88

017 むけちゃった……

しおりを挟む
 
 種から発芽するのは他の植物と同じだけれども、上へとのびるだけでなく地中にて横にもグングンのびるのが竹だ。
 地下茎の節にある芽子から新しいタケノコを生やし、これが育つうちにヤワだった体もカチンコチンと硬くなっては、自然と皮がむけていき、やがて太くてたくましい青竹へと至る。
 これがおおまかな竹の成長過程。
 通常の竹であれば二か月ほどで20メートルぐらいにまで育つ。
 だから私もてっきりそんな流れかと思い込んでいた。
 でもちがった。

「タケノコが緋色の石を吸収して育ったら、でっかいお化けタケノコになっちゃったよ!」

 さすがは異世界である。
 こちらの予想の斜め上をギュギュンと突き抜けていく。
 よもやの展開に私も脱帽だ。
 どうすんだよコレ? どうなっちゃうのよコレ?

「いや、ちょっと待てよ。悲観するのはまだはやい。たしかに想像していたのとはちがうけど、きっと方向性は間違っていないはず」

 事実、これまで遅々としていたタケノコの成長がいっきに進んだ。
 もはや飛躍といってもいいだろう。

「……ひょっとして石が足りてない? 脱皮するにはもっとたくさん、もしくは質のいい良石が必要なのかもしれない」

 そうとなれば、もっと獲物を狩って石を集めなければ……
 というわけで、私は麾下の者たちに「じゃんじゃん狩ろうぜ!」と発破をかけた。

  〇

 成長に必要な緋色の石を集めるために、せっせと狩りに精を出すかたわらで。
 私は狩った獲物を食べる前にさばいては、解剖するをくり返している。
 じつは農学部でも授業で解剖をやるんだよねえ。
 ほら、自然界において動物と植物って密接に関わっているから。
 おかげで私は血も内臓もへっちゃら、解剖終わりにホルモン焼きでも牛丼でもドンとこい!
 ちなみに解剖の目的は『緋色の石が体内のどこにあるのか』を確かめるため。

「ほうほう、これもやはり心臓のところか……」

 じっくり何体も検分した結果、種族によって多少の差はあれども、だいたい胸の辺りにあることがわかった。
 ただし一部の例外もある。
 それは蟲タイプだ。
 たまさか大きなカマキリみたいなのと、さらに大きなムカデみたいなのを狩る機会があったのだけれども、ご存知の通り昆虫に心臓はない。
 その代わりに背脈管という器官を持っており、これによって体液を循環させている。
 場所はそのまんま背中にて、細い管状の形をしており、長さはだいたい体の半分ほど。でもって血管はなくて気管を通じて体液のやりとりをしている。
 この背脈管の膨らんだところに例の石はあった。
 色はやはり禍々まがまがしい緋色である。

 種族の垣根を越えて似たような色や形をしている。
 ということは、同じ目的で存在しているモノと推察される。
 この石があるから魔法みたいな特殊能力を使えるのか、はたまた特殊能力が使えるがゆえに発生するのかは、現時点では調べようがない。
 おいおい動物実験でもして検証してみようと思う。
 たったいま回収した石を私はひょいパクっ、吸収しモグモグ。

「検証方法は……そうだな。地面に掘った穴に捕まえた獲物を放り込んで、気を失わせているうちに緋色の石の除去手術を行い、まずはどうなるかの経過観察かな」

 これで石による特殊能力の発動の有無がわかるはず。
 あとは……ん? んん? んんん?
 その時は何ら前触れもなく唐突に訪れた。
 かつてスモールからビックなタケノコになる前に感じたのと似たような動悸、息切れ、めまいに襲われる。

 ギュルギュルギュルルルルルル――

 自分の中にある見えない歯車が、異様な高速回転をしているかのよう。
 私という存在を構成するすべての細胞が、カチャカチャと素早く移動しては、パズルもしくはブロックのように組み替えられていく。
 体内で急速に増え続けている、あるいは大きくなったり、形を変えたり、変容していくそれらが離合集散をしては、体を作り変えて最適な解を導かんとしている。

「ぐぬぬぬぬ……」

 成長痛? ちがう、そんな生易しいものじゃない。
 これは進化だ。
 私はいま、これまでとはちがう何かに成ろうとしている!

「ガァアァァァァァァーッ」

 熱い! 熱い! 熱い!

 体だけではなくて、魂そのものが焼けているかのようだ。
 とてもではないがこらえられない。
 たまらず私は絶叫した。
 麾下の竹人形たちが心配してオロオロしているけれども、彼らに言葉をかける余裕もない。

 五分か? 十分か? それともじつはほんの数秒程度のことなのか?

 時間の感覚が失せて、苦痛だけがありありと鮮明に。
 拷問のような状況が続く。
 それがフッと軽くなったところで――

 ぺリリリリ。

 タケノコを覆っている皮の一枚がめくれた。
 それを皮切りにして。

 はらり、はらり、はらはらり……

 まるで花弁が散るかのようにして皮がむけていく。
 そして中からあらわとなったのは……


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝
ファンタジー
「てめぇらに、最低のファンタジーをお見舞いしてやるから、覚悟しな」 異世界ノットガルドを魔王の脅威から救うためにと送り込まれた若者たち。 その数八十名。 のはずが、フタを開けてみれば三千人ってどういうこと? 女神からの恩恵であるギフトと、世界の壁を越えた際に発現するスキル。 二つの異能を武器に全員が勇者として戦うことに。 しかし実際に行ってみたら、なにやら雲行きが……。 混迷する異世界の地に、諸事情につき一番最後に降り立った天野凛音。 残り物のギフトとしょぼいスキルが合わさる時、最凶ヒロインが爆誕する! うっかりヤバい女を迎え入れてしまったノットガルドに、明日はあるのか。 「とりあえず殺る。そして漁る。だってモノに罪はないもの」 それが天野凛音のポリシー。 ないない尽くしの渇いた大地。 わりとヘビーな戦いの荒野をザクザク突き進む。 ハチャメチャ、むちゃくちゃ、ヒロイックファンタジー。 ここに開幕。

とりあえず逃げる、たまに頑張る、そんな少女のファンタジー。

月芝
ファンタジー
光る魔法陣、異世界召喚、勇者よ来たれ。だが断る! わりと不幸な少女が、己が境遇をものともせずに、面倒事から逃げて、逃げて、たまに巻き込まれては、ちょっぴり頑張って、やっぱり逃げる。「ヤバイときには、とりあえず逃げろ」との亡き母の教えを胸に、長いものに巻かれ、権力者には適度にへつらい、逃げ専としてヌクヌクと生きていくファンタジー。

柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治

月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。 なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。 そんな長屋の差配の孫娘お七。 なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。 徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、 「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。 ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。 ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。

御者のお仕事。

月芝
ファンタジー
大陸中を巻き込んだ戦争がようやく終わった。 十三あった国のうち四つが地図より消えた。 大地のいたるところに戦争の傷跡が深く刻まれ、人心は荒廃し、文明もずいぶんと退化する。 狂った環境に乱れた生態系。戦時中にバラ撒かれた生体兵器「慮骸」の脅威がそこいらに充ち、 問題山積につき夢にまでみた平和とはほど遠いのが実情。 それでも人々はたくましく、復興へと向けて歩き出す。 これはそんな歪んだ世界で人流と物流の担い手として奮闘する御者の男の物語である。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

神造小娘ヨーコがゆく!

月芝
ファンタジー
ぽっくり逝った親不孝娘に、神さまは告げた。 地獄に落ちて鬼の金棒でグリグリされるのと 実験に協力してハッピーライフを送るのと どっちにする? そんなの、もちろん協力するに決まってる。 さっそく書面にてきっちり契約を交わしたよ。 思った以上の好条件にてホクホクしていたら、いきなり始まる怪しい手術! さぁ、楽しい時間の始まりだ。 ぎらりと光るメス、唸るドリル、ガンガン金槌。 乙女の絶叫が手術室に木霊する。 ヒロインの魂の叫びから始まる異世界ファンタジー。 迫る巨大モンスター、蠢く怪人、暗躍する組織。 人間を辞めて神造小娘となったヒロインが、大暴れする痛快活劇、ここに開幕。 幼女無敵! 居候万歳! 変身もするよ。    

青のスーラ

月芝
ファンタジー
気がついたらそこにいた。 月が紅く、ドラゴンが空を飛び、モンスターが闊歩する、剣と魔法のファンタジー世界。 挙句に体がえらいことに! わけも分からないまま、懸命に生き抜こうとするおっさん。 森での過酷なサバイバル生活から始まり、金髪幼女の愛玩動物に成り下がり、 頑張っても頑張っても越えられない壁にへこたれながら、しぶとく立ち上がる。 挙句の果てには、なんだかんだで世界の謎にまで迫ることになっちゃうかも。 前世の記憶や経験がほとんど役に立たない状況下で、とりあえず頑張ります。

【完結】側妃になってそれからのこと

まるねこ
恋愛
私の名前はカーナ。一応アルナ国の第二側妃。執務後に第一側妃のマイア様とお茶をするのが日課なの。 正妃が働かない分、側妃に執務が回ってくるのは致し方ない。そして今日もマイア様とお茶をしている時にそれは起きた。 第二側妃の私の話。 ※正妃や側妃の話です。純愛話では無いので人によっては不快に感じるかも知れません。Uターンをお願いします。 なろう小説、カクヨムにも投稿中。 直接的な物は避けていますがR15指定です。 Copyright©︎2021-まるねこ

処理中です...