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017 むけちゃった……
しおりを挟む種から発芽するのは他の植物と同じだけれども、上へとのびるだけでなく地中にて横にもグングンのびるのが竹だ。
地下茎の節にある芽子から新しいタケノコを生やし、これが育つうちにヤワだった体もカチンコチンと硬くなっては、自然と皮がむけていき、やがて太くてたくましい青竹へと至る。
これがおおまかな竹の成長過程。
通常の竹であれば二か月ほどで20メートルぐらいにまで育つ。
だから私もてっきりそんな流れかと思い込んでいた。
でもちがった。
「タケノコが緋色の石を吸収して育ったら、でっかいお化けタケノコになっちゃったよ!」
さすがは異世界である。
こちらの予想の斜め上をギュギュンと突き抜けていく。
よもやの展開に私も脱帽だ。
どうすんだよコレ? どうなっちゃうのよコレ?
「いや、ちょっと待てよ。悲観するのはまだはやい。たしかに想像していたのとはちがうけど、きっと方向性は間違っていないはず」
事実、これまで遅々としていたタケノコの成長がいっきに進んだ。
もはや飛躍といってもいいだろう。
「……ひょっとして石が足りてない? 脱皮するにはもっとたくさん、もしくは質のいい良石が必要なのかもしれない」
そうとなれば、もっと獲物を狩って石を集めなければ……
というわけで、私は麾下の者たちに「じゃんじゃん狩ろうぜ!」と発破をかけた。
〇
成長に必要な緋色の石を集めるために、せっせと狩りに精を出すかたわらで。
私は狩った獲物を食べる前にさばいては、解剖するをくり返している。
じつは農学部でも授業で解剖をやるんだよねえ。
ほら、自然界において動物と植物って密接に関わっているから。
おかげで私は血も内臓もへっちゃら、解剖終わりにホルモン焼きでも牛丼でもドンとこい!
ちなみに解剖の目的は『緋色の石が体内のどこにあるのか』を確かめるため。
「ほうほう、これもやはり心臓のところか……」
じっくり何体も検分した結果、種族によって多少の差はあれども、だいたい胸の辺りにあることがわかった。
ただし一部の例外もある。
それは蟲タイプだ。
たまさか大きなカマキリみたいなのと、さらに大きなムカデみたいなのを狩る機会があったのだけれども、ご存知の通り昆虫に心臓はない。
その代わりに背脈管という器官を持っており、これによって体液を循環させている。
場所はそのまんま背中にて、細い管状の形をしており、長さはだいたい体の半分ほど。でもって血管はなくて気管を通じて体液のやりとりをしている。
この背脈管の膨らんだところに例の石はあった。
色はやはり禍々しい緋色である。
種族の垣根を越えて似たような色や形をしている。
ということは、同じ目的で存在しているモノと推察される。
この石があるから魔法みたいな特殊能力を使えるのか、はたまた特殊能力が使えるがゆえに発生するのかは、現時点では調べようがない。
おいおい動物実験でもして検証してみようと思う。
たったいま回収した石を私はひょいパクっ、吸収しモグモグ。
「検証方法は……そうだな。地面に掘った穴に捕まえた獲物を放り込んで、気を失わせているうちに緋色の石の除去手術を行い、まずはどうなるかの経過観察かな」
これで石による特殊能力の発動の有無がわかるはず。
あとは……ん? んん? んんん?
その時は何ら前触れもなく唐突に訪れた。
かつてスモールからビックなタケノコになる前に感じたのと似たような動悸、息切れ、めまいに襲われる。
ギュルギュルギュルルルルルル――
自分の中にある見えない歯車が、異様な高速回転をしているかのよう。
私という存在を構成するすべての細胞が、カチャカチャと素早く移動しては、パズルもしくはブロックのように組み替えられていく。
体内で急速に増え続けている、あるいは大きくなったり、形を変えたり、変容していくそれらが離合集散をしては、体を作り変えて最適な解を導かんとしている。
「ぐぬぬぬぬ……」
成長痛? ちがう、そんな生易しいものじゃない。
これは進化だ。
私はいま、これまでとはちがう何かに成ろうとしている!
「ガァアァァァァァァーッ」
熱い! 熱い! 熱い!
体だけではなくて、魂そのものが焼けているかのようだ。
とてもではないがこらえられない。
たまらず私は絶叫した。
麾下の竹人形たちが心配してオロオロしているけれども、彼らに言葉をかける余裕もない。
五分か? 十分か? それともじつはほんの数秒程度のことなのか?
時間の感覚が失せて、苦痛だけがありありと鮮明に。
拷問のような状況が続く。
それがフッと軽くなったところで――
ぺリリリリ。
タケノコを覆っている皮の一枚がめくれた。
それを皮切りにして。
はらり、はらり、はらはらり……
まるで花弁が散るかのようにして皮がむけていく。
そして中からあらわとなったのは……
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