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018 竹姫さま(小)
しおりを挟むタケノコの皮がむけたら何があらわれるかって?
ふふん、そんなの決まってるじゃない。
タケノコだよ!
だってそういうモノだもの!
ひと皮むけた私は「ですよねえ~」と自分にツッコんだ。
ツルンとむきたてのタケノコはほんのりヒヨコ色、艶々しておりお肌ピッチピチ。
でもね、キレイなのはいまのうちだけだから。
時間の経過と成長とともにくすんでは薄汚れて、どんどん黒ずんでいく。
それは人のナニも竹も変わらないのだ。
おっと、下品で失礼。
なんぞと考えていたら「ありゃりゃ?」
苦痛から解放されてスッキリ爽快、サウナで整ったかのような状態なのに、まだお尻の辺りにムズムズが残っている。
「おや、まだむけてない皮があるのかしらん」
私は新生お化けタケノコの身をググっとよじっては、たしかめようとした。
するとその時のことである。
ピシリ――異音がしたもので私は「あっ」
何かが裂けるような音にて、私はそのまま固まってしまう。
だって下手に動いたらヤバそうだったもので。
しかしそんな私の焦りなんぞはおかまいなしに、ピキピキ、パキリと不穏な音は続く。
「えっ、ちょ、ちょっと待ってよ。冗談でしょう? タ、タンマ! いったんとめて~!」
との私の願いも虚しく、トドメとばかりにひときわ大きな破裂音がビリっとね。
お化けタケノコはパッカーン、縦に割れてしまった。
それはもうキレイに真っ二つ。
私は「ぎゃーっ、死ぬ~」と大絶叫にて、頭を抱えてしゃがみ込む。
だがしかし――
「……って、あれ? 地面が近い。本当にしゃがんでいる。なんで? どうして?」
不肖タケノコの我が身、手足はなくその場から一歩も動けず、文字通り手も足も出ず。
朝から晩まで、日々をぼんやり立ちっぱなしにて悶々と過ごすばかり。
なのに、いつのまにやらにょきっと手足が生えていた。
ただし、しっかり竹製だけれどもね。
おそるおそる立ち上がり、両手を眺めながらグーパーと動かしてみる。
「おぉ! ヌルヌルといい感じ。ふむ、ちゃんと思い通りに動くみたいだね」
しなやかな三本指は竹ヘビをもっと細くしたような造りにて、関節の数が人体のモノよりも倍ほども多いのはご愛敬として。
優秀なロボットアームのような動作だ。肘とか肩もぐりんぐりん回せちゃう。なんという稼働域の広さ、滑らかな動きは関節の多さゆえか。
より精巧だが、ベースは竹人形と同じ構造っぽい。
「竹から生まれたカグヤ姫ならぬ、タケノコから産まれたカグヤ姫か。とりあえず自分の姿を確認してみるかな。ねえ、ちょっと誰かこっちにきてちょうだい」
呼びかけると控えていた竹人形たちのうちから、世話役の竹女官がスススと歩み寄ってきたところで、私は彼女と同期する。こうすることで彼女の目を通して、自分の姿を見ることができるのだ。おかげで鏡いらずにて。
で、びっくらポンや!
そこにいたのは竹人形の小さな女童であった。
「あら、かわいらしい……じゃなくって! タケノコから竹の女の子? 意味がわかんない!」
こんなのは私の知っている竹じゃない。
でもしょうがないじゃない、だって異世界なんだもの。
というわけで、私はあっさり現状を受け入れた。
とにもかくにも自分の足で動けるようになったのはありがたい。
けど不満がひとつある。
それは……
「どうしてそろいもそろって、みんな手抜きのモブ顔なのよ」
麾下の竹人形たち、体つきや機能は多岐に渡っているが顔だけはみんないっしょ。
竹を割って作ったお面に棒線で顔がシュッシュと簡素に刻まれている。
目も鼻も口も棒一本で表現されている。
もっともそうなっているのは私のせいだ。
じつはお面って、彫るのにもの凄~く時間と根気と技術がいるんだよねえ。能面師や神楽面職人とか、一人前になるまでにとてつもない時間がかかるのだ。
さしもの私も門外漢にて、素人がすぐにどうこうできる分野じゃない。
竹工作兵たちもがんばってくれてはいるけれど、まだ細かいところにまでは手が回っていないのが実情だ。それに私たち竹にとって顔なんてモノはしょせんは飾りだし。
お面の造形に労力を費やす暇があったら、新たな竹武者でも制作した方がよほど有意義だからね。
「さすがにこのモブ顔でカグヤ姫を名乗るには、おこがましいにもほどがある。私はそれほど恥知らずじゃないよ。
というわけで、とりあえず無難に竹姫(小)とでもしておくか」
私がつぶやくなり、麾下の竹人形たちが一斉に立ち上がってはカンカン、カンカン――腕を交差しては打ち鳴らす。
自分たちの仕えている女主人の新生を祝う音色にて。
私はその音に「やあやあ」と手を振り応えつつ、竹女官から渡された竹の皮のマントを羽織った。
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