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使い魔 1

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視界が靄がかっていて、世界が白く濁っている。頭は鉛のように重くて、その拍子にぐらりと身体が傾いた。
怠い。きつい。まともにものを考えられない。

頭を打ち付けないように床に手をつくと、か細いうめき声が聞こえた。不思議と、その声の正体が誰なのかすぐにわかってしまった。

(…ニール?)

その時、白く濁った視界を見つめていると、白いもやからぼんやりと何者かの姿が現れる。その姿は白く霞んでいてはっきり見えなかったが、ひと目でそれが誰なのかを理解した。

「やだ…っ、やめて、レオン」

息を吐きながら、落ち着いて眼の前を見つめる。俺に組み敷かれているニールが、力なく藻掻きながらこちらを見上げていた。

俺はいったい何をしているんだろうか?状況がよくわからなかったが、深く考える気力もわかなかった。

涙に濡れた瞳が、それでも反抗の意思を保ったまま、レオンを睨む。

「嫌い……!レオンなんか、きらい!」

そんな悲痛な叫び声を最後に、目の前が真っ白になった。








途端に眼の前が開けて、見覚えのある天井が飛び込んでくる。走ってもないのに息を切らしながら自分の額に手をやった。

「………ゆ、ゆめ……」

夢だとしても最悪すぎるものを見てしまった。脳が覚醒していくに連れて、先程見た夢の詳細を少しずつ思い出してしまう。うわあ、いっそのこと記憶から消えていたらいいのに。

ニールを無理矢理押さえつけていた。そのままあんなところやそんなところを触っていて、ニールが必死に抵抗していて…。思い出せば思い出すほど、最悪すぎる。

(なんつー夢だ…。もしかしてあれって、原作のシーンなのか……?)

そういえばあんな描写があったようななかったような……。俺はあんなことをする気はさらさらないが、それでも安心とは言えない。ニールの貞操を狙うのは原作レオンだけではなく、彼の取り巻きであるジャン達もいるのだ。現にこの世界でも、ニールの貞操が危ない瞬間に何度か出くわしている。運良く毎回なんとか助けられているが、もしも俺の目の届かないところで起きたら、守りきれないかもしれない。

さっきのが予知夢にならないように、俺がしっかりニールを守らなければ。

汗で服が肌に張り付いて気持ち悪い。時計を見れば、アラームが鳴る10分前。珍しくアラームが鳴る前に目をさますことができていた。もしかして、入学依頼初めてじゃないか?まあ、昨日は十分過ぎるくらい寝られたしな。頭も普段よりすっきりしている気がする。この時間なら、シャワーを浴びる時間も取れそうだ。

隣から聞こえる穏やかな寝息は、ニールのものだ。ぐっすり眠った様子のニールが、俺の方に顔を傾けながら目を閉じていた。そうだ、昨晩はニールが俺の部屋に泊まったんだ。

いつも朝はなかなか頭が働かないのだが、嫌な夢を見たせいなのか、今朝は目がしっかり起きている。飛び起きるくらいショックな夢を見たのだから、当然かもしれない。

考えてみれば、BLゲームの世界のお泊りなんて、何かが起こる気配しかしないよな。俺とニールの間で何かが起きるなんてこの先ありえないし、ありえないようにしなければならないんだけど

(…そういえば、最近あまり考えていなかったけど、今って原作だとどの辺まで来ているんだ?)

レオンとニールの間で起きる一連の事件は、入学式から三、四ヶ月経った頃に起きるはず。今は入学して約3ヶ月。ニールがヤドリギの泉に向かうのは、時期的にはもうすぐなのではないか?

(まさか、”その時期”が近づいたから、あんな夢を見てしまったってことか?か、勘弁してくれ)

時々俺は、”原作のレオン”のような言動を取ることがある。その間は俺以外の誰かから操られているような、不快な感覚がする。その状態に入ると、なかなか自分で身体の制御ができなくなるのだ。何が起きているのか分からなくてパニックになっているうちにその状態は解けるから、今まで日常生活に支障が出たことはない。しかし、どんな条件でその状態になってしまうのか、どうやってその状態を解けばいいのかを未だに分析することができずにいた。

もしも自分の体を制御できなくなって原作と同じようにニールに酷いことをしてしまったら、今までのことが全部無駄になってしまう。

とにかく、ニールにはさっさとヤドリギの泉に向かって物語を進めてもらうのが手っ取り早い。ついでに原作シーンをこの目で見ることができたらいいな。ストーリーを少しずつ思い出してきてはいるけど、まだまだわからないことはたくさんあるし。

…でも、俺が普通に誘っても、真面目なニールは立ち入り禁止区域にあるヤドリギの泉に向かおうとしないだろうなぁ。うーむ、どうしたものか。

(…とりあえず、朝の準備でもしようか。せっかく早起きできたんだし)

静かにベッドから降りて、寝巻きから制服に着替えていると、背後のベッドから布の擦れる音が聞こえてきた。

「うう……れおん?」
「あ、起こしちゃったか。ごめん」
「んーん……おはよう。なんだ、全然早く起きれてるじゃん。僕が起こしたかったのに」

朝が強いというのはどうやら本当らしい。目を開けたニールは眠たそうにまばたきをしていたが、そう時間をかけずにベッドから身を起こした。

「一限目って何の授業だったっけ……」
「イバン先生の魔法実技の授業だ。俺と一緒だよ」
「実技かー…嫌だなぁ」
「ああ、ニールは見学だっけ」

手洗い場に向かいながらそう言うニールは、憂鬱そうな表情をしている。

実技の授業は、ニールはいつも端っこの方で見学をしている。そんなニールをからかいに行く輩は何人もいるのだ。

だけど実技の授業のとこは俺も手が離せないことが多くて、あまり手助けできていない。いじめっ子グループもそれを狙って、この授業のときは一際ニールに目をつけているし。ニールにとって嫌な時間になっているだろう。

今日はどれくらい彼の側にいられるだろうか。洗面台で顔を洗って戻ってきたニールの寝癖を撫でながら、ズキズキ痛む頭を抑えた。

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