主人公を犯さないと死ぬ悪役に成り代わりました

キルキ

文字の大きさ
上 下
21 / 24

閑話  SIDE ニール・エグバード

しおりを挟む
努力という言葉がこれほど似合う人を、今まで見たことがなかった。周りは彼を天才だともてはやしているけど、僕がレオンが誰よりも努力していることを知っている。


あの怒涛の儀式が行われてから、数ヶ月が経った。相変わらず僕は無属性のままだけど、学園生活には慣れてきた。やっぱり学校の中では浮いた存在のままだしいじめっ子にも目をつけられているけど、なんだかんだで無事に過ごせてきている。何度か襲われかけたのは流石にやばいと思ったけど、レオンの助けもあってなんとか貞操を保つことができていた。

レオン・フェレオル。僕の友達。僕が今まで無事に通学を続けられているのは、彼のおかげと言っても過言ではなかった。

何故か僕を助けてくれるレオンは、入学初日からずっと僕のそばに居てくれた。いじめっ子たちが流した僕の噂を知っているはずなのに、彼だけは僕に普通に話しかけてくれるし、僕が困っているときはフォローをしてくれる。この前は休日に遊びに誘ってくれたし、僕が手を伸ばせば抱きしめ返してくれた。そこまでしてくれるレオンを、好きにならないわけが無い。気がつけば頭の中がレオンのことでいっぱいになって、彼への感情がどんどん大きくなっていくのがわかった。

レオンは僕以外にもたくさん友達がいる。優しくて優秀な彼のことだから、誰にでもこんなことをしているのだろう。それが寂しかった。









何かに顔を塞がれてなんだか息苦しい。

息がしやすい方に顔を傾けた拍子に、ぼんやりと視界が揺れだした。目の前には、寝息をたてているレオンの顔があった。

そうだ、昨日。レオンのところに泊まったんだった。半ば押しかけるような形だったけど、レオンが「わかった」って言うものだから、あのまま二人で布団でおしゃべりをしながら寝てしまったんだ。


レオンは僕の背中にしっかり手を回しながら、ぐっすり眠っている。昨晩は「一日中寝てたんだからもう寝られない」とか言っていたのに、今はすっかり寝入っているようだ。

彼にぎゅうぎゅう抱きしめられるのは慣れているけど、彼の胸元に顔を埋める形になっているからとても息苦しい。そうっと頭を動かして体勢を変えようとしたら、レオンが僕から手を離してしまった。

レオンがごそごそと身じろぎをして、くるりと身体が向こう側に向けられる。顔が見えなくなって残念だ。別にあのままの体勢でも良かったのに。僕の方から彼にくっついてあげようかとも考えたが、起こしてしまうのが怖くて結局やらないことにした。

落ちかかっている掛け布団をレオンにかけ直して、自分も再び布団にもぐる。


「……ふふ」


布団についたレオンのにおい。僕、ほんとうに彼の部屋にいるんだ。その満足感に、無意識に口角が上がる。


僕と一緒にいたって何のメリットもないだろうに、この学園で、彼だけは僕と友だちになってくれた。ずっと僕のそばに居てくれて何度も手助けをしてくれる彼に、特別な感情を抱くのはそう遅くないことだった。

きっと僕は、レオンのことが好きだ。

彼の中では、僕は大勢の友人の中のひとりにすぎないだろう。『一番好き』って言ってはくれたけど、優しい彼のことだから、きっと誰にでも言っているだろうし。でも僕はレオンの特別になりたい。恋人じゃなくてもいいから、とりあえずは彼の特別になりたい。




彼の両親の話を軽く噂で聞いたことがある。フェレオル家は、代々知性に優れた男が家を継ぐことになっている。フェレオル家で産まれた長男は幼い頃から親に生活を管理されて、厳しい教育をしているらしい。成績が非凡な者は全員フェレオル家から縁を切られてしまうそうだ。

一度だけ、レオンが母親と電話をしているところに遭遇したことがある。母親との会話なのに、レオンはどこか一歩線を引いたような態度で話していた。

レオンは家族の温かみを知らずに今までを生きている。レオンが自分の体に無頓着だったり、自らを痛めつけるようにタバコを吸ったりするのも、もしかしたらそれが原因なのかもしれない。レオンのことを本気で心配するような人が今までにいなかったから、自分の体がどれだけ大切なものなのかわかっていないのかもしれない。

僕が家族のあったかさを教えてあげたいと思うのは、思い上がり過ぎかもしれないけど。でも僕だって、彼の支えになりたいのだ。



……本当は、普段からずっと彼のそばにいたいんだけど。彼は友だちが多いし、庶民の僕が側にいたら彼の体裁も悪いだろうし。

そのためには、もっと強くならないといけない。ジャン達をどうにかできるようにならないと、僕はずっと彼に迷惑をかける事になる。

「……杖、茶色だなぁ」

無属性の象徴である茶色の杖が目に入って、ため息をつく。無属性のままだと魔法面では誰にも勝てっこないから、それ以外の方法で反抗するしかない。

僕が落ちこぼれで、出来損ないじゃなかったら、胸を張って彼の隣にいれるのに。

……ああ、そういえば、明日は学園長に属性魔法の再診断をしてもらうんだった。次こそ何か現れてくれると良いな。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

就職するところがない俺は男用のアダルトグッズの会社に就職しました

柊香
BL
倒産で職を失った俺はアダルトグッズ開発会社に就職!? しかも男用!? 好条件だから仕方なく入った会社だが慣れるとだんだん良くなってきて… 二作目です!

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

処理中です...