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使い魔 2
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魔法実技の授業は学園のグラウンドで行われる。今日も生徒たちはイバン先生が待つグラウンドで整列していた。
「本日の授業では、使い魔の召喚術について教える」
イバン先生はそう言うと、生徒全員にプリントを渡してきた。プリントには、構造がよくわからない複雑な魔法陣が書いてあった。魔法陣の周りには一応解説がついていたが、じっくり読んでも意味がよくわからなかった。
これ、一年で習うレベルのものじゃないと思うんだけど。と思ったところで、先生が解説してくれる。
使い魔の召喚は一年生の最初に習得しておかないといけないらしい。今後、使い魔が必要になる授業が出てくるようだ。だから、今のうちに召喚の練習と使い魔との交流をしておけと言う事みたいだ。
どんな使い魔が召喚されるかは、人それぞれ違う。大概は召喚主と同じ属性の、使い魔がでてくるらしいが、例外も存在する。まあ、召喚主の特性や性格が大きく関係しているのは間違いない。
イバン先生が見本に使い魔を召喚して見せてくれる。魔法陣が紫色の光を放ち、数秒してその光が消えると、真ん中に大きな影が立っていた。しかしその形は、俺が最初期待していたものと随分違う。使い魔といったらドラゴンとか、猛獣とか、猛鳥とか、そういう強そうな生き物が出てくると思うだろう。だけど、あれは…なんだ?
一見人間の女性のようなシルエット。だが、人間にしては手足がやけに力なくぶら下がっているし、よく見れば首や服からほつれた糸が数本伸びている。金色の長い髪の毛は……毛糸?目があるはずの場所に茶色いボタンが縫い付けられていて、口は布が裂けた時のように糸を引いていた。そこからは鋭い牙がずらりと並んでいる。
あきらかに生き物ではないそれに、その場が凍りついた。
「私の使い魔のアイリーンだ。アイリーン、挨拶を」
アイリーン、と呼ばれたそれはかくかくとした動きで一礼する。
(に、人形の使い魔…!?)
使い魔と聞いたら、血の通った魔物が現れると思っていた。周りの生徒達の顔色をチラ見すると、度肝を抜かされた奴らが数人尻餅をついていた。顔が幽霊みたいに青くなっているやつもいる。
てか、あの動き完全にホラー映画に出てくる呪われた人形なんだけど…。先生は慣れているだろうけど、召喚術初心者達にはいささか刺激が強すぎるのでは…?
内心ドン引きしている生徒に気づいているのかいないのか、イバン先生は何事もなかったかのように授業を仕切りだす。
「使い魔を召喚できたものから、授業を終えてよろしい。でははじめ」
イバン先生がそう言うと、戸惑いながらも生徒たちはグラウンドのあちこちにばらけていく。それを見回るように先生が歩き出したのを見て、俺も動き出した。
生徒たちは配置につくと、それぞれの場所で地面に魔法陣を書きだした。それを見ながらいい場所を探していると、木陰の下に座って先生に渡されたプリントを眺めているニールの姿が目に入った。
話しかけたほうが良いだろうか。なんて話しかけるべきなんだ?一緒にやろうと誘っても、もしかしたら、向こうは授業にできるだけ参加したくないと思っているかもしれない。
どうしよう、とまごついてると、身体が支配される感覚がした。勝手に身体ががくんと動き出す。あ、これ、やばい時のやつだ。
ひとりでに動き出した身体は、ニールの方に向かって歩いて行き、彼の眼の前で立ち止まる。
「ニール、そんな端っこにいないで、俺のところに来なよ。近くに来たほうが見学もしやすいだろう?」
「レ、レオン?」
座り込んでいるニールの腕を立たせて強引に立たせると、日が照る場所に連れていく。俺の意志に関係なく動く身体に、焦りを感じた。
(え、これで大丈夫なのか?)
十中八九、今の俺は’’俺’’ではない。原作のレオンが、原作の物語通りの行動をしているのだ。こういったことは今までにも何度かあったが、碌なことになった試しがない。まあ、原作のレオンがやっているのは悪いことばっかりなのだから、当然と言ったら当然だ。そう考えるとこの状況はあまり良くない。
ーーーもしかして、俺が困ったりパニックになったりするときに、原作のレオンに切り替わるのか?
そう思えば、今までのことにも納得できる。原作のレオンが出てくる時は大抵、どうしたらいいかわからなくなっている時だ。こんな大事なこと、もっと早くに気づくべきだったのに。
確証はないけど、やけにしっくりする条件だった。それにこの現象は高確率でニールの前でなっているから、原作の修正力でも働いているのかもしれない。これが本当に条件であるならば、対策は少し難しいかも知れない。自分でこのオートモードを解除する方法が見つかれば、全て解決なのだが。
しかし今は、ようやく見つけた対処法に喜ぶ場合ではない。原作のレオンが乗り移ったままの俺はニールをグラウンドの真ん中に連れ出していた。
「どうせなら君も書いてみなよ、魔法陣。実践したほうが身につきやすいし」
「う、うん」
ニールは動揺したように不安な目で俺を見上げながら、俺の言う通りに魔法陣を描き出す。なんか、ごめんよ。
それはそうと、俺のこの状態はいつ解けるんだ。まさか、勝手に解けるまで待たないといけないってことはないよな。
ハラハラしている俺をさておいて、”レオン”は魔法陣を描き出す。勝手に出来上がっていく魔法陣を見ながら、俺はその美しさに感嘆していた。
(か、かっこいい~!)
そんなこと言ってる場合じゃないのはわかっているものの、心は少年の俺は、魔法の世界ならではの光景に感動していた。こんなに大きい魔法陣を書くのは、初めてだったのだ。
この魔法陣の真ん中で呪文を唱えれば、俺の使い魔を召喚できるのか。今すぐにでも召喚したくてワクワクしていると、勝手に動いている身体は杖を握ると、すらすら呪文を唱えだした。
青色に輝き出す魔法陣。それから目を離さずにいれば、そこから青色の猛鳥が真ん中に現れる。ふわりと飛び上がった鳥は水色の光を描きながら空を一周すると、俺の元に戻ってくる。そして、差し出してやった俺の腕にとまると、毛づくろいをはじめた。深いブルーの瞳がきれい。近くで見ると結構厳つい顔をしているな。
「あれ、レオンの使い魔か?」
「羽の色が海の様にきれいだな。けっこうレベル高い使い魔なんじゃないか?」
鳥が空を一周したのを見た生徒たちが、ひそひそと何かを言っている。とても美しい羽を持った使い魔は、存在するだけで人目を集めていた。さすがレオンの使い魔だ。ただ、使い魔の属性は主人に左右されるから、原作と違う使い魔が召喚されているんだろうけど……。
「本日の授業では、使い魔の召喚術について教える」
イバン先生はそう言うと、生徒全員にプリントを渡してきた。プリントには、構造がよくわからない複雑な魔法陣が書いてあった。魔法陣の周りには一応解説がついていたが、じっくり読んでも意味がよくわからなかった。
これ、一年で習うレベルのものじゃないと思うんだけど。と思ったところで、先生が解説してくれる。
使い魔の召喚は一年生の最初に習得しておかないといけないらしい。今後、使い魔が必要になる授業が出てくるようだ。だから、今のうちに召喚の練習と使い魔との交流をしておけと言う事みたいだ。
どんな使い魔が召喚されるかは、人それぞれ違う。大概は召喚主と同じ属性の、使い魔がでてくるらしいが、例外も存在する。まあ、召喚主の特性や性格が大きく関係しているのは間違いない。
イバン先生が見本に使い魔を召喚して見せてくれる。魔法陣が紫色の光を放ち、数秒してその光が消えると、真ん中に大きな影が立っていた。しかしその形は、俺が最初期待していたものと随分違う。使い魔といったらドラゴンとか、猛獣とか、猛鳥とか、そういう強そうな生き物が出てくると思うだろう。だけど、あれは…なんだ?
一見人間の女性のようなシルエット。だが、人間にしては手足がやけに力なくぶら下がっているし、よく見れば首や服からほつれた糸が数本伸びている。金色の長い髪の毛は……毛糸?目があるはずの場所に茶色いボタンが縫い付けられていて、口は布が裂けた時のように糸を引いていた。そこからは鋭い牙がずらりと並んでいる。
あきらかに生き物ではないそれに、その場が凍りついた。
「私の使い魔のアイリーンだ。アイリーン、挨拶を」
アイリーン、と呼ばれたそれはかくかくとした動きで一礼する。
(に、人形の使い魔…!?)
使い魔と聞いたら、血の通った魔物が現れると思っていた。周りの生徒達の顔色をチラ見すると、度肝を抜かされた奴らが数人尻餅をついていた。顔が幽霊みたいに青くなっているやつもいる。
てか、あの動き完全にホラー映画に出てくる呪われた人形なんだけど…。先生は慣れているだろうけど、召喚術初心者達にはいささか刺激が強すぎるのでは…?
内心ドン引きしている生徒に気づいているのかいないのか、イバン先生は何事もなかったかのように授業を仕切りだす。
「使い魔を召喚できたものから、授業を終えてよろしい。でははじめ」
イバン先生がそう言うと、戸惑いながらも生徒たちはグラウンドのあちこちにばらけていく。それを見回るように先生が歩き出したのを見て、俺も動き出した。
生徒たちは配置につくと、それぞれの場所で地面に魔法陣を書きだした。それを見ながらいい場所を探していると、木陰の下に座って先生に渡されたプリントを眺めているニールの姿が目に入った。
話しかけたほうが良いだろうか。なんて話しかけるべきなんだ?一緒にやろうと誘っても、もしかしたら、向こうは授業にできるだけ参加したくないと思っているかもしれない。
どうしよう、とまごついてると、身体が支配される感覚がした。勝手に身体ががくんと動き出す。あ、これ、やばい時のやつだ。
ひとりでに動き出した身体は、ニールの方に向かって歩いて行き、彼の眼の前で立ち止まる。
「ニール、そんな端っこにいないで、俺のところに来なよ。近くに来たほうが見学もしやすいだろう?」
「レ、レオン?」
座り込んでいるニールの腕を立たせて強引に立たせると、日が照る場所に連れていく。俺の意志に関係なく動く身体に、焦りを感じた。
(え、これで大丈夫なのか?)
十中八九、今の俺は’’俺’’ではない。原作のレオンが、原作の物語通りの行動をしているのだ。こういったことは今までにも何度かあったが、碌なことになった試しがない。まあ、原作のレオンがやっているのは悪いことばっかりなのだから、当然と言ったら当然だ。そう考えるとこの状況はあまり良くない。
ーーーもしかして、俺が困ったりパニックになったりするときに、原作のレオンに切り替わるのか?
そう思えば、今までのことにも納得できる。原作のレオンが出てくる時は大抵、どうしたらいいかわからなくなっている時だ。こんな大事なこと、もっと早くに気づくべきだったのに。
確証はないけど、やけにしっくりする条件だった。それにこの現象は高確率でニールの前でなっているから、原作の修正力でも働いているのかもしれない。これが本当に条件であるならば、対策は少し難しいかも知れない。自分でこのオートモードを解除する方法が見つかれば、全て解決なのだが。
しかし今は、ようやく見つけた対処法に喜ぶ場合ではない。原作のレオンが乗り移ったままの俺はニールをグラウンドの真ん中に連れ出していた。
「どうせなら君も書いてみなよ、魔法陣。実践したほうが身につきやすいし」
「う、うん」
ニールは動揺したように不安な目で俺を見上げながら、俺の言う通りに魔法陣を描き出す。なんか、ごめんよ。
それはそうと、俺のこの状態はいつ解けるんだ。まさか、勝手に解けるまで待たないといけないってことはないよな。
ハラハラしている俺をさておいて、”レオン”は魔法陣を描き出す。勝手に出来上がっていく魔法陣を見ながら、俺はその美しさに感嘆していた。
(か、かっこいい~!)
そんなこと言ってる場合じゃないのはわかっているものの、心は少年の俺は、魔法の世界ならではの光景に感動していた。こんなに大きい魔法陣を書くのは、初めてだったのだ。
この魔法陣の真ん中で呪文を唱えれば、俺の使い魔を召喚できるのか。今すぐにでも召喚したくてワクワクしていると、勝手に動いている身体は杖を握ると、すらすら呪文を唱えだした。
青色に輝き出す魔法陣。それから目を離さずにいれば、そこから青色の猛鳥が真ん中に現れる。ふわりと飛び上がった鳥は水色の光を描きながら空を一周すると、俺の元に戻ってくる。そして、差し出してやった俺の腕にとまると、毛づくろいをはじめた。深いブルーの瞳がきれい。近くで見ると結構厳つい顔をしているな。
「あれ、レオンの使い魔か?」
「羽の色が海の様にきれいだな。けっこうレベル高い使い魔なんじゃないか?」
鳥が空を一周したのを見た生徒たちが、ひそひそと何かを言っている。とても美しい羽を持った使い魔は、存在するだけで人目を集めていた。さすがレオンの使い魔だ。ただ、使い魔の属性は主人に左右されるから、原作と違う使い魔が召喚されているんだろうけど……。
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