大手不動産会社・ヒューリックが東京都心のビルを猛烈な勢いで買っているとして業界内で話題となっている。東京都内の駅近くを中心に約210の物件を保有し(除く住宅等)、今年だけで新規取得に約2400億円を投資予定。23年12月期の営業利益は前期比15.8%増の1461億円と業績が右肩上がりの成長を続け、社員の平均年収は約1908万円(23年12月期有価証券報告書より)と高待遇も目を引く。そんなヒューリックとは、どのような企業なのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
ヒューリックの主な事業は不動産の賃貸事業。その特徴は、保有物件の約70%が東京23区に集中し、駅から徒歩5分以内の物件が全体の77%を占める点だ。銀座エリアに37物件、渋谷・青山エリアに25物件、新宿東口エリアに8物件、浅草エリアに6物件を保有。銀座・数寄屋橋の「Gapフラッグシップ銀座」(23年に閉店)が入居していたビル、御茶ノ水ソラシティ、旧リクルートGINZA7ビルとして知られるヒューリック銀座7丁目ビル、渋谷 パルコ・ヒューリックビル、晴海アイランド トリトンスクエア オフィスタワーY、東京駅前の八重洲で建設中の東京駅前八重洲一丁目東B地区第一種市街地再開発事業のビルなどもヒューリックの保有物件。21年に電通グループが汐留の本社ビルをヒューリックが出資する特別目的会社に売却すると発表し、注目されたことも記憶に新しい。
賃貸事業のほか、開発・建替事業、不動産の改装・増築・コンバージョン(用途変更)を行うバリューアッド事業、高齢者施設事業、「THE GATE HOTEL」「ビューホテル」、高級旅館「ふふ」などのホテル・旅館の開発・運営も手掛けている。
業績は好調だ。23年12月期は売上高に当たる営業収益こそ前期比減の4463億円となったものの、ここ数年のトレンドとしては右肩上がりで、営業利益は前期比15.8%増の1461億円、当期純利益は同19.5%増の946億円。中期経営計画(23~25年12月期)では25年12月期までに営業利益を1650億円、当期純利益を985億円まで引き上げるとしている。
そんなヒューリックが「都心の不動産を買いまくっている」(不動産業界関係者)と注目されている。同社の強みは何なのか。金融ジャーナリストの森岡英樹氏はいう。
「同社はもともと日本橋興業という社名で、旧富士銀行(現みずほ銀行)の店舗管理と保険代理店業をやっていましたが、バブル崩壊で多くの銀行が不良債権化した不動産を別会社に移すなか、適正化措置済会社の日本橋興業は富士銀行系の金融機関が抱える不良債権の受け皿となりました。その後、徐々に景気が回復するのに伴いヒューリックが抱えていた不良債権化していた不動産が優良資産に変わり、同社は業容を拡大させていきました。
大きな転機になったのは、06年にみずほ銀行副頭取だった西浦三郎氏がヒューリックの社長に転じたことです(現在は会長)。以降、西浦氏のもとで拡大路線を進めてM&Aも重ね、攻めの営業姿勢を貫き、22年には東証プライム市場に移行しました。今後は海外展開にも力を入れていく方針で、今年2月には海外事業に最大500億円の投資枠を設けると発表し、米国の高齢者住宅の開発プロジェクトなどに取り組んでいます。
同社の強みは、みずほ銀行をはじめとする芙蓉グループから豊富な情報や取引案件がもたらされるという点です。みずほ銀行と太いパイプがあるため大きな信用力がある点も、さまざまな局面で有利に働きます」
不動産業界関係者はいう。
「大手ディベロッパー3社の三菱地所、三井不動産、住友不動産が扱わないような小さな物件も手掛けられるのが強みともいえます。ただ、ヒューリックも大規模なビルを持ってはいますが、ミッドタウンや丸ビルクラスの大規模施設をゼロから開発し、数多く保有している大手3社との間には、超えることができない大きな壁があるといえるでしょう」
(文=Business Journal編集部、協力=森岡英樹/金融ジャーナリスト)