米投資ファンドが今さら斜陽産業の携帯ショップの最大手を買収する合理的理由

 ティーガイアは売上高4490億円と業界では2位のコネクシオに倍以上、3位のベルパークに4倍以上の差をつけています。そして4位以下となると急激に企業規模が小さくなります。今後の販売手数料引き下げなどによって下位企業は廃業するか、上位企業に飲み込まれることになるはずです。似たような形でトップ企業が規模を増やした事例に、DVDレンタル業界があります。業界全体が大幅に縮小するなかで業界トップのゲオが相対的なシェアを上げ続け、ほぼ業界一強の地位にたどり着きました。それと同じことがティーガイアも狙えそうです。

 そして今後は競争が減ることで残存者利益が見込めるようになります。ティーガイアは市場が縮小しても耐えられるように、今年5月に200人の希望退職に踏み込んでいます。売上が減少するとはいえ、高齢者を中心に携帯の乗り換えはショップに頼らざるをえない人もいます。そのような消費者人口は大きいので、業界自体がなくなることはありません。今の縮小期を乗り切れば、残存者利益は大きいでしょう。

 さらに今回のTOBの条件は、買収するベインキャピタル側に有利な条件になっています。買収発表直前の株価が3670円だったのに対して、TOB価格は2670円と27%も下回るディスカウント条件となっています。株主にとっては悪い条件であるにもかかわらず、全体の70.1%を保有する2大株主の住友商事と光通信がTOBに応じる姿勢を見せているため、一般株主がTOBに抵抗するのは難しいでしょう。

 住友商事や光通信の側から見ると今回の提案は税金面でのメリットがあるうえに、22年から23年にかけての株価は1600円台で低迷していたわけで、この段階でティーガイアへの投資資金を回収しておくのは悪い判断ではないでしょう」

シニアビジネスと法人営業の分野

 携帯ショップの持つ資産・ノウハウ等を活用によって成長が見込めるビジネス・事業というのは、どのようなものが考えられるのか。

「ここは正直なところ、あまり余地は大きくはないと考えます。ベインキャピタルとしてはあくまで残存者利益狙いが最重要テーマでしょう。ただティーガイアの資産やノウハウを用いた新規領域としては、シニアビジネスと法人営業の分野で可能性がないとはいえません。ティーガイア自体は新事業として女性の健康や生活に関する課題を解決するフェムテックの新店舗を開店しています。ベインキャピタル自体もドラッグストアチェーンや保険代理店の運営に力を持っています。健康や金融商品など高齢者向けのビジネスでの相乗効果は、一定レベルで試行錯誤されるのではないでしょうか。

 また、法人分野では中小から零細企業にかけてIoTやDX、セキュリティなどの需要は一定数あります。これらのソリューションとなる製品サービスの販売代理店として、一定の売上を確保できる可能性はないとはいえないでしょう」

(文=Business Journal編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)