日本の企業だから安心、外資系だから不安、ということではありません。そもそも、ドラマ制作などは不安定な労働環境です。もちろん、テレビ局の社員はいますが、プロデューサーやディレクターなど一部だけで、あとは非正規雇用やフリーランスの方がほとんどです。
つまり、“流出”とはいっても、転職とは違うのではないかと思います。テレビ局を退職して配信サービスの会社に転職する人もいるでしょうが、少数だと思います」(同)
ドラマをはじめとして視聴者の興味は、テレビ局よりも配信サービスのほうに向いているように見えるが、今後もその潮流は強まっていくのだろうか。
「テレビのドラマはどんどん経費がなくなっていっています。たとえばテレビ局は、ひとつのドラマをつくると、そのスピンオフ版を同じテレビ局系の配信サイトで配信するという流れがあり、ドラマ制作の労力が数十パーセント増しになるわけです。しかも同時期の撮影期間で行われたりします。
対してNetflixは時間的、資金的に余裕があり、出演者への配慮も行き届いています。たとえば、7月に公開された映画『先生の白い嘘』で、主演の奈緒がインティマシー・コーディネーターを要望したにもかかわらず、監督が断ったことが波紋を広げましたが、まだ日本ではそのような専門的なところまで気配り・目配りをしたうえでのプロデュースは整っていないのが現状です」(同)
では今後、テレビ局はネット配信サービスに飲み込まれていくのだろうか。抗う術はないのだろうか。
「残念ながら対抗する術はないでしょうね。地道に良いドラマをつくっていくしかないのですが、現実的には難しいと思います」(同)
それではテレビ局のドラマは廃れてゆき、“ドラマはネット配信、テレビはバラエティ”といった具合に住み分けが進むのだろうか。
「どの世代がテレビを見るか、ということが大きいと思います。ビジネス的にテレビは先細ってゆく流れではあるでしょう。ただ、テレビは“リアルタイム”に長けています。しかし、コンテンツビジネスで儲けることは難しくなっていくと考えられます。新聞などのメディアが、ネット上のポータルサイトにコンテンツを提供するように、テレビ局もひとつのコンテンツを提供する一業者のような位置づけになっていくのかもしれません」(同)
少なくともドラマなどのコンテンツにおいては、テレビ局はNetflixなどのネット配信サービスに大きな差を付けられており、逆転することは難しいだろうとの見立てだ。
また、ドラマだけではなくスポーツの場にあっても、DAZNが存在感を強めている。プロ野球やサッカー、ボクシング、モータースポーツなど、さまざまなスポーツの中継を独占し、テレビ局が太刀打ちできないほどの力をつけている。
かつてはマスコミ業界の頂点に君臨し、映像業においては独占的地位にあったテレビが、今や明るい展望を描けなくなってきている。
(文=Business Journal編集部、協力=水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授)