いきなり!ステーキ、不可能といわれた「奇跡のV字復活」を遂げた意外な要因

 22年には創業者の一瀬邦夫氏が社長を退任し、後任には長男の一瀬健作氏が就任。経営再建を進めてきたが、ついに24年12月期には営業利益の黒字転換を見込むまでに改善が進んでいる。一瀬社長は9月14日付「東洋経済オンライン」インタビュー記事内で経営改善の要因として、不採算店舗の閉鎖、ファミリー客重視への転換、ボトムアップ型経営への転換、回転率重視から「食事の時間を楽しんでもらえるレストラン」への転換を挙げている。

ボトムアップ型経営への変更

 自身でも飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏はいう。

「業績回復の要因として、ボトムアップ型経営に変更したことが大きいと思います。私もコンサル業において『現場の従業員がもっとも状況を把握している』と考えており、現場とのミーティングを重視しています。彼らは日頃から店舗にいるわけですから、不満や自店のいいところ、悪いところに気づきながら仕事をしています。この情報を吸い上げて活かしていくことで、店舗の業績は改善します。

 ファミリー客重視の店舗やインバウンドに力を入れる店舗があってもよく、これらは立地など店舗の特性によって変わります。現場は日頃から客層を見て、お客さんからリクエストを聞いていますので、本部が納得するものならどんどん実施したり、強化したりすると、現場のやる気にもつながり業績は上がっていきます。もちろん、本部もコスト削減のために肉の仕入れ変更や不採算店の閉店を行い、売上増加のために海外出店し、トータルで業績回復となりますが、売上については現場の声を生かしていくことが重要です」

お客さんを飽きさせない

「いきなり!ステーキ」はファミリー客を重視した店舗への転換を進めているが、競合も多いなか、生き残って成長していくことは可能なのか。

「これについてもお客さんの声に耳を傾けていくことで可能だと思います。ステーキを食べたいというニーズ、ステーキを食事として選ぶ層は一定数います。このパイの奪い合いとなりますから、お客さんの選択肢に残り、選ばれる理由が必要です。

 ファミリー層は子どもに選択権があることが多く、『今日はどこに行きたい?』と親が聞いて子どもが出す案が優先されます。もし、ファミリー層を狙うとしたら、子供の心を掴む『遊び心』やサービスが重要になることでしょう。逆に都心部でサラリーマンや一人暮らしの人をターゲットにするのなら、ボリュームや価格などの『お得感』が近隣他店よりも勝っていることが重要になります。

 昨今お客さんは安ければいいという人ばかりではありません。味やボリューム、サイドメニュー、サービス、居心地など、いろいろなものが複雑に影響して、最終的にはお客さんの感情で『あっちのお店よりはここだな』と思ってもらえれば成功です。これらはお客さんの声、ニーズに表れてきますので、やはり現場からの情報吸い上げとその活用がカギとなることでしょう」(江間氏)

 では、今後について懸念などはないのか。

「現場の声のなかには雑音が混ざることもあります。『お客さんの声』というのは、従業員個人の感覚であって、正しくない場合もあります。それに惑わされてしまうと迷走につながります。ただし、複数の従業員から同じような話を聞くようになってくると、本部としては見過ごすわけにはいきません。これらの情報の取捨選択が必要になります。

 いったんは業績が回復しても、それがずっと続くとは限りませんし、続かないほうが多いものです。絶えずアンテナを張り、お客さんを飽きさせないということも必要です。新しいライバルも出現することでしょう。今の時代のお客さんは好奇心旺盛なので、料理に飽きてしまうこともあります。これらには兆候が表れますから、うまくいっていることは継続しながら、絶えずアンテナを張って前進していく姿勢が必要だと思います」(江間氏)

(文=Business Journal編集部、協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表)