PayPayデジタル給与払い「手数料無料」の盲点…事業者側にメリットない?

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PayPayのロゴ

 PayPayがデジタル給与払いサービスの提供を本格化させている。従業員は受け取った給与をPayPay残高として、そのままPayPay利用時の支払いに使える一方、事業者側には対応のための手間が生じるもののメリットが見いだせないとの声もある。また、PayPay銀行の法人口座を開設するなどの条件を満たす場合は振込手数料を無料とするが、PayPayはサービス開始当初、加盟店を増やすために事業者の手数料を無料にし、その後に有料化した過去があるため、利用する事業者が増えた段階で有料にするのではないかと警戒する向きもある。

 PayPayのデジタル給与払いの仕組みはこうだ。従業員はPayPayアプリで「PayPay給与受取」に申し込むと、「(1)給与受取口座」、受け取った給与をPayPay残高として保有する「(2)PayPayマネーアカウント(給与受取)」、同アカウントにチャージするための「(3)給与受取口座への入金用口座番号(銀行口座番号)」が設定される。事業者は口座(3)に給与を銀行振込すると、従業員のPayPayアカウントに自動的にチャージされる。

 これにより、従業員はPayPayで買い物をした際に残高を利用でき、チャージする手間を省くことができるほか、請求書払いうことで公共料金や税金の支払いもできる。「おまかせ振分」機能で自動的に自身の口座や家族のPayPayアカウントへ送金したり、PayPay資産運用やNISAなどPayPayの各種金融サービスとの連携も可能。本人名義の金融機関口座への送金手数料は月1回は無料、2回目以降は100円であり、PayPay銀行宛の場合は無料。

事業者側のメリット

 デジタル給与払いを開始するには、厚生労働省が定めている「賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)」の事前対応が必要となる。事業者は労使協定等を改訂して従業員(労働者代表等)と合意し、従業員向けに「賃金のデジタル払い(給与デジタル払い)」および「PayPay給与受取」について周知。前述のとおり従業員はPayPayアプリで「PayPay給与受取」に申し込み、事業者は厚生労働省提供の様式例を参考に、従業員から給与デジタル払いの必要情報を受け付けるという流れだ。

 事業者はPayPayとのサービス利用契約は不要であり、オービックビジネスコンサルタント(OBC)の「奉行Edge 労務管理電子化クラウド」の機能と連携することで、従業員の「給与受取口座への入金用口座番号」の入力誤り・負荷の削減や、事業者の給与振込先口座の収集業務の効率化が実現されるという。

 中堅IT企業の役員はいう。

「従業員側はそれなりにメリットがある一方、いまいち事業者側のメリットが見いだせない。労使協定を改訂した上で従業員の合意を得て、従業員からPayPayの口座番号を集めるというのは結構な手間。従来からある通常の銀行口座振込分に加えてPayPayの振込分の業務も発生するので、業務負担削減にもつながらない。その割に、従業員の給与受け取りの選択肢が増えるということ以外に積極的なメリットが思いつかない。

 PayPayおよびPayPay銀行としては、これを契機として法人口座を開設してくれる事業者を増やすことが狙いではないか。PayPayは今、法人向けビジネスの強化に注力しているので、その起爆剤の一つと位置付けているのだろう。事業者の振込手数料を無料にしたり、多くの中小企業を顧客に持つOBCと提携したのはそのためだろう。また、もちろんユーザの残高が毎月、自動でチャージされればPayPay関連のさまざまなサービスの利用機会が増えるので、流通金額の増大も狙いだろう」