7月後半から8月初めの日経平均株価の下落と歩調を合わせるかたちで急減した円キャリー取引だが、一部のヘッジファンドや富裕層投資家が取引を再開させているとの情報も出ている。背景には何があるのか。また、円キャリー取引の復活は今後の株価や為替にどのような影響を与えるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
今月2日の終値が前日比2216円63銭安の3万5909円70銭と、1987年10月20日のブラックマンデーに次ぐ歴代2番目に大きい下げ幅となった日経平均株価は、週明け月曜(5日)も下げ止まらず。終値は前週末比4451円28銭安の3万1458円42銭となり、ブラックマンデーを上回る過去最大の下げ幅を記録した。だが、その翌日の6日は急反発し、終値は前日比3217円04銭(10.2%)高の3万4675円46銭となり、過去最大の上げ幅となった。翌7日は約900円安となる場面もみられたが、日本銀行の内田真一副総裁の「金融資本市場が不安定な状況で利上げをすることはない」との発言も影響し、一転して上昇。終値は414円高の3万5089円となり、2日連続の上昇。その後は上昇トレンドを描き、20日の終値は3万8062円92銭と、今月1日(3万8126円33銭)と同じ3万8000円台にまで回復している。
今年に入り日経平均株価は乱高下を続けているが、背景には日銀の政策変更がある。日銀は今年3月、物価が安定的に2%上昇する環境が見通せるようになったと判断し、金融政策決定会合でマイナス金利政策を解除して日銀当座預金に適用する金利を0.1%に引き上げ、政策金利である無担保コール翌日物レートを0%から0.1%程度で推移するようにすると決定。さらに7月31日には政策金利を0.25%に引き上げ、国債買い入れ額を現在の月6兆円程度から26年1~3月に同3兆円に減額する方針を決定した。
金融緩和から金融引き締めへ大きく舵が切られるなか、7月31日の金融政策決定会合で日銀が政策金利の引き上げを決めるとの観測が広まり始めた7月後半、それと歩調を合わせるかのような動きを見せていたのが、円キャリー取引の量だ。
円キャリー取引とは、金利が低い円建てで資金を借り入れ、ドルなどの高金利通貨などに投資する取引。日本では2016年のマイナス金利政策導入を経て長きにわたって金融緩和による低金利が続くなかで、ヘッジファンド勢や機関投資家の間で、円の金利と投資先の外貨の金利の差による収益を狙った円キャリー取引が増大。先月後半に入ると円の金利上昇観測の強まりを受けて円キャリー取引の解消売り(巻き戻し)が広がり、円高ドル安が進行。7月上旬に1ドル=160円台だった為替相場は8月に入ると1ドル=140円台まで円高が進んだ。
その円キャリー取引が復活しつつあるとの情報も出始めている。16日付ブルームバーグ配信記事は、一部のヘッジファンドや富裕層顧客が円キャリー取引を再開させていると報道。ゴールドマン・サックス、ドイツ証券などの大手金融機関でプロップトレーダー(自己勘定トレーダー)を歴任し、現在もトレーダーとして活動する志摩力男氏はいう。
「現時点ではまだ円キャリー取引が再開するという観測が出ているにすぎませんが、もし仮に再開させている投資家がいるのだとすれば、短期ポジションの投機筋などが解消売りでいったんきれいになり、為替が1ドル=160円台から140円台まで円高が進んだことを受けて、今のほうが有利なレートでやれるチャンスだととらえて、再開させているというケースが考えられます。もっとも、どこまで本気で取引をしているのかはわかりません」