フジの夏ドラマの強みは他にもある。『新宿野戦病院』は脚本家・宮藤官九郎が手掛ける初の医療ドラマ。新宿歌舞伎町を舞台に、ホスト・キャバ嬢・ホームレス・トー横キッズ・外国人難民などが交錯するなかで「命」の尊さを問いかける一風変わった「救急医療エンターテインメント」だ。やはり初回の見逃し配信は300万回再生を超え、水10ドラマ歴代1位となった。
『ビリオン×スクール』も特筆に値する。個人全体の平均視聴率は1.9%で、GP帯ドラマ全14本中最下位。コア層でも13位、Z世代でも12位とまったく振るわない。ところが19歳以下では5位に急上昇し、中高生や小学校低学年では4位に輝く。ネット配信では初回が300万回を突破した。ネット記事などでは個人視聴率の低迷で「大爆死」などと揶揄されているが、ネット展開上はベスト5に入る奮闘ぶりなのである。
各局の今年4~6月期のネット配信からの収入を比べてみよう。
デジタル広告費 前年同期比
テレビ朝日 16.9億円 +4.4億円
日本テレビ 17.8億円 +6.1億円
TBS 19.8億円 +4.2億円
フジテレビ 19.4億円 +7.4億円
以上の通り急伸しているが、当該期間のフジの春ドラマは今クールほど大躍進していない。このペースで行くと7~9月期のデジタル広告費も大いに期待できそうだ。
実はネット配信では、15秒CMの再生1回あたりの収入は3円前後といわれている。仮に60分ドラマにCM時間帯が4回あり、1回あたり15秒CMが6本入れば、本編の冒頭・最後もあわせ単純計算で90円ほどの収入となる。フジの7月期が5621万再生だったので、単純計算で総額は50億円超となる。だが、実際にはこの何分の一しか収入はない。ネット広告の営業が当初想定通りには進んでいないからだ。それにしてもネット配信は、広告主のニーズの高い若年層が主体となる。しかもターゲット別に分けて異なる広告を配信することができる。今後はテクノジーの進化で、ネット広告の価値を今以上に高めることも可能だろう。
テレビ広告費はリアルタイム視聴が減り、テレビ広告費は減少の一途だ。その減少分をネット配信でどれだけ補い、さらに増収につなげていくことができるのか。各局はますますネット配信での視聴に力を入れていくことになる。
(協力=鈴木祐司/次世代メディア研究所代表)