「現在の契約数の伸びを見る限り、年内の黒字化は濃厚といっていい。携帯電話は通信・通話の高い安定性が求められるので、安ければよいというわけにはいかないため、楽天モバイルが始まった当初、業界内では黒字化できるという見方は皆無といってよかった。なので黒字化すれば奇跡が起こったといっていい。他の大手キャリアと比べて安いのは確かで、かつ楽天ポイントのユーザーはメリットが大きいというのもあるが、やはりサービス開始から4年がたち消費者の間で『楽天モバイルでも大丈夫みたいだね』という品質面での信頼性が確立されつつあるという要素が大きいように感じる」(大手キャリア関係者)
一方、懸念点もあるという。
「4月には楽天モバイル利用者のSIMが第三者に乗っ取られるという事象が続出する問題があったが、楽天モバイルはさまざまな面でユーザーの登録や操作の手順を簡素化するためにセキュリティがやや甘くなっている部分がある。なので、今後大きなトラブルが生じるようなことがあると、同社の契約数の増加には逆風となる。
また、楽天モバイルへの契約流出が顕著になれば、当然ながら他の大手キャリア3社は静観してはいられなくなり、対抗値下げを行って契約者を奪い取ろうとしてくるだろう。現在の大手3社の利益水準は高く、値下げを敢行するための余力は十分に持っているので、携帯業界で再び値下げ競争が熾烈化する可能性はゼロではない」(大手キャリア関係者)
もっとも、楽天グループは携帯電話事業に参入するために経営的には大きなリスクを背負っている点は見逃せない。同社が携帯事業に投下した資金は累計1兆円以上とみられ、24~25年には、その資金の調達のために発行した社債のうち計約8000億円の償還を迎える。また、資金調達のために、グループ内で利益貢献度が高い楽天銀行や楽天証券ホールディングスなどの金融事業会社の株式の一部を売却し始めており、4月には楽天銀行や楽天証券、楽天カードなどの金融事業を一つのグループにまとめる方針を発表している。そして、楽天Gの成長の源ともされる楽天ポイントサービスに関係する楽天ペイメントを傘下に持つ楽天カードを上場させるとの観測も以前から流れている。
「金融事業を一つにまとめることでグループとして資金調達の道具として活用しやすくなる一方、金融事業との一体経営が弱まるようなことになれば、デメリットも生じる。そうした点も踏まえて長期的な視野でみたときに、たとえ黒字化したとしても携帯事業に乗り出したことが楽天グループ全体にとって良かったのか悪かったのかは評価が難しいところだろう」(大手銀行系ファンドマネージャー)
(文=Business Journal編集部)