かつては「就職無理学科」ともいわれ就職活動では不利になるというイメージが強かった大学の数学科。ここ数年、企業からのニーズが高く「就職に困らない学科」「企業から人気の学科」になりつつあるというSNS上の投稿が一部で話題となっている。その理由とは何なのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
現在、東京大学をはじめとする旧帝大や、早稲田大学・慶應義塾大学などの難関校に限らず一定レベル以上の私立大学の数学科の卒業者の就職実績は悪くない。たとえば私立の東京理科大学の理学部第一部・応用数学科の卒業生の進路をみてみると、学部卒の約3割が大学院に進学するが、それ以外の人の就職先には、みずほフィナンシャルグループなどのメガバンク、日立製作所やNTT東日本などの電機・通信、ヤフー、富士通、日本アイ・ビー・エムなどのIT、花王や東レなどのメーカーなど、大手有名企業がずらりと並んでいる(学部卒・修士課程修了)。
<幅広い職種や就職先を選択することが可能です。情報産業への就職が例年最も多く、金融・保険関連や教育関係に進む学生が毎年一定の割合を占めているのも本学科の特徴です。また近年では、データサイエンティストの需要の増大に伴い、グラフには表れていませんが、データサイエンティストとして活躍している卒業生がすべての系統で増えています>(同学科の公式サイトより)
また、NTTデータ、日立製作所、富士通、日本電気(NEC)など多くの学校推薦企業を持つ慶應義塾大学理工学部・数理科学科の公式サイトでは以下のように就職状況が説明されている。
<就職に関しては、各企業に就職した卒業生の活躍もおおいに貢献し、数理科学科の卒業生は「柔軟な発想と広い視野を備えている」、「抽象的・本質的なもののとらえ方ができる」といった定評ができており、幅広い職種の企業から数理科学科の卒業生が歓迎されています。実際、卒業生の就職先は、電気機器などのメーカー、鉄道、コンピュータ・ソフトウェア、銀行、保険、商社、製薬など多岐にわたっています>
35年ほど前に東京の有名私立大学の数学科を卒業した男性はいう。
「大学で同じゼミだった同学年の6人のうち、私を含めて5人が学校教員になった。あくまで個人的な所感ですが、当時は数学科が就職に強いという傾向はなかった気がする。というより、私も含めて一般企業に就職するということ自体に興味がない人たちが数学科に来ていたという印象で、『卒業したら運が良ければ大学院に進むか、学校の教員になるんだろうなあ』という意識の学生が多かったのではないか。
当時は一般の人々は携帯電話もパソコンも持っておらずインターネットも普及していなかったし、今のようにIT関連のエンジニアという仕事も少なかった。データサイエンティストやAIエンジニアなんていう仕事は、まだ存在しなかった。存在したのかもしれないが、大半の人は知らなかった。また大手の銀行や保険会社は文系学部の学生が就職するところとなっていたので、数学科を出て入るという発想すらなかった。なので『数学科で学んだことなんて社会で何の役にも立たない』と数学科の学生自身が思っていた。もっとも私の周囲がたまたま意識が低い人間ばかりで、そう思い込んでいただけかもしれないが」
数学科で学ぶ科目例は
・微積分
・代数学
・線形代数
・幾何学
・微分方程式論
・複素関数論
・解析学
・数理統計学
・多変量解析
・数値解析
・数値モデリング
・離散数学
・確率論
などだが、実際に数学科の卒業者への採用ニーズは高いのか。株式会社UZUZ COLLEGE代表取締役の川畑翔太郎氏はいう。