また、ハイブランドを求める顧客は、そのブランドの商品を購入する行為、所持したり着る行為そのものにステータスや自己満足を感じるため、一等地への店舗出店や高級感のある外装、スタッフのホスピタリティ向上など商品以外のところにもコストをかける必要があり、それも価格の上昇につながります」
今回ディオールとアルマーニで問題となっているのはサプライチェーンに関する部分だが、高級ブランドのサプライチェーンをめぐるあり方は転換期を迎えているという。
「これまでブランドにとってサプライチェーンというのは企業の競争力にかかわる部分なので、企業秘密扱いされてきましたが、SDGsの観点から透明化して開示すべきという流れに大きく転換し、隠すことが許されなくなりつつあります。ファッションの透明性を高める活動を行うFASHION REVOLUTIONグローバルは毎年、ファッション透明性インデックスを発表しており、世界平均スコアは26%です。1位はイタリアのOVSで83%、2位がグッチで80%。日本勢ではユニクロが50%、アシックスが45%、無印良品が28%、ミズノが18%、しまむらは4%となっています。
日本の経済産業省も『繊維・アパレル産業における環境配慮情報開示ガイドライン』を設定し、繊維・アパレル企業に環境負荷低減の情報開示を求めており、従来のような大量廃棄を前提とするビジネスモデルも難しくなりつつあります」(磯部氏)
高級ブランドは販売面でも大きな変化を求められているという。
「ハイブランドでは商品の希少性を保つため生産量・供給量を絞るということが行われています。たとえばエルメスの高級バッグ『バーキン』はオンライン販売や店舗店頭での陳列を控え、エルメスの商品の購入実績が高い上客だけを個室に案内して個別で商品を紹介することで知られていますが、これが事実上の抱き合わせ販売にあたるとして米国で集団訴訟を起こされています。また、ロレックスは10年以上にわたり正規代理店にオンライン販売を禁止して販売を阻害したとして、フランスの競争委員会から9160万ユーロ(約143億円/当時のレート)の罰金が科されました。こうした動向は長期的にみれば、高級ブランドの価格設定にも影響をおよぼしてくる可能性があります」(磯部氏)
では、高級ブランドの商品と、たとえばユニクロや「しまむら」など日本のファストファッションチェーンの商品を比較した場合、品質に大きな差があるものなのか。
「評価は難しいです。特にアパレルはバッグや靴などと比べて品質の違いが伝わりにくい面があります。アパレルの消費者は大きく2つのタイプに分けられます。着られればなんでもよいという価値観でアパレル品を単なる日用品と捉えているタイプと、そのブランドの世界観に価値を見いだし、服を身につけることに自己満足を感じるタイプです。後者のタイプにとっては、価格が高いブランド品でもその価格に見合う価値があるということになります。
また、ファストファッションチェーンのように大量生産だと一商品あたりの製造コストは低くなってきますが、オートクチュールやセミオーダー、フルオーダーの場合は手作業が増えて大量生産ができないためコストが高くなります」
(文=Business Journal編集部、協力=磯部孝/ファッションビジネス・コンサルタント)