映画レビューサイト「Filmarks」が、生成AIによって作成したウェブCMが物議を醸し、運営会社のつみきが謝罪文を出すに至った。動画が削除されても、インターネット上では同サイトに対する批判の声が後を絶たない。なぜこれほどまでに問題が大きくなったのか。生成AIに精通する専門家は、AIが映画に入り込むことへの拒否感が背景にあると分析する。
Filmarksは7月12日、「FilmarksのCMができました。それも、全編AIで」と公式Xに投稿し、AIを使って制作したウェブCMを公開した。CMは架空の映画とみられる映像を複数つなげたような構成で、最後に「映画って、やっぱり面白い」とまとめ、Filmarksで映画を検索するように誘導するかたちをとっている。
ところがこのCMは、どこか映画やゲームなどでみたことがあるような世界観やタイトルで、なんらかの作品を模倣した感覚が拭えない。また、ゾンビやホラー要素が多分に含まれており、グロテスクな作品が苦手な人には受け入れがたいのではないかとも思える。実際に、CMを見た人たちからは「気持ち悪い」という声が非常に多く上がっている。さらに、気持ち悪さの元は、画像のグロさだけではない。
AIやインターネット、セキュリティなどに精通するテクニカルライター兼コンサルタントの神崎洋治氏は、このウェブCMの問題点を次のように指摘する。
「まず、生成AIを差し置いても、映像が気持ち悪いと感じました。また、CMとしても、どこが面白いのかわかりません。本来のCMとしての役割、目的がどこにあるのかを見失っているように思えます。
また、CMを見た方たちの反応を見ると、AIが映画に入り込むことへの拒否感が現れていると感じます。今やAIは非常に精巧な人間の画像や動画を生み出せます。伊藤園が「お~いお茶 カテキン緑茶」のテレビCMでAIタレントを起用し、大きな話題になりましたが、現実の人間とほとんど見分けがつかないほどの精巧さです。いずれ、映画やテレビの世界において、俳優、エキストラ、脚本家など様々な職種でAIが人間に代わって入り込んでくるのは避けられないかもしれませんが、それに対する拒否感は強くあると思います。
昨年、米ハリウッドで俳優らが4カ月近くにわたってストライキを行ったのも、AIの利用の規制が争点のひとつでした。それほどナーバスな問題であるのですが、映画レビューを行うサイトが、『CM制作でも、ついにAIを活用する時代。クリエイターとAI技術の融合によって、こんな、観たことのないCMが制作されました!』と生成AIによるCMを意気揚々と流したのは、軽率といわざるをえません」
映画を紹介するサイトは、映画があって初めて成り立つビジネスといえる。その映画の世界で問題視され、ルールが整備されたとはいえないAIを使用したウェブCMを流したのは、確かに軽率との誹りを免れないだろう。
Filmarksの利用者は、映画を愛する人が多いことの表れなのか、生成AIによるCMが公開されると、「不愉快すぎる。すぐに退会する」といった声が続出した。
騒動が拡大する状況を受けて、Filmarksを運営するつみきは7月16日、「映画製作に携わるクリエイターの方々への敬意に欠けた、軽率な行動であった」との謝罪文を発表し、該当の動画などを削除した。だが、離れていったファンを取り戻すのは簡単ではないかもしれない。
(文=Business Journal編集部、協力=神崎洋治/ITライター)