企業による高卒者の採用が争奪戦の様相を呈しつつある。24年3月卒の就職を希望する高校生への求人倍率は3.98倍(文部科学省調べ)と過去最高を更新したが、2日付「日本経済新聞」記事によれば、三菱重工業は24年卒比9割増の255人、村田製作所は約400人(高専卒等含む)を採用する計画を持つなど、採用熱は高まっている。背景には何があるのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。
例年、高卒予定者の就職活動は7月1日に求人情報の公開が解禁され、7~8月に職場見学が行われ、9月初旬から企業の応募受付が開始。9月中旬から選考がスタートして同月中に内定が出るケースが多い。
「三者協定によって高校生は原則1度に1社しか応募できず、面接から1週間以内をメドに合否が決まるというルールがあり、さらに応募する会社が学校主導で決められるため、就職を志望する本人の意向が尊重されにくいと指摘されてきた。その結果、企業と就職者のスマッチが生じやすく、3年以内の離職率は約4割という高い数値になっている」(キャリアコンサルタント)
高卒者への求人倍率が高まっている要因は何か。
「もともと製造業や建設業では一定の高さの高卒者への採用ニーズがあったが、少子化で高校卒業者数が減少する一方、大学進学者数は増えているので、高校卒業と同時に就職する人の数は減りつつある。一方、企業側の求人数は一定どころか人手不足の進行で増加傾向にあると考えられ、その結果として求人倍率が上昇するのは当然。
また、事実上の大学全入状態となり大学入学者数は増えているものの、主に増えているのは私立文系の学生であり、即戦力にはならず、企業が欲しい上位大学の理系の学生は大きく増えてはいない。大学に4年間通ってビジネスで役に立たない勉強をしてきた大卒者、もしくは何も勉強していなかった大卒者を採用するより、4年若くて真っ白な高卒生を採用したいと企業が考えても不思議ではない。上位クラスではない大学の文系学生より、即戦力になる工業高校卒や高専卒の学生のほうが就職という面では企業からの人気は高い」(同)
実際に工業高校卒者、高専卒者の人気は高い。全国工業高等学校長協会の調査によると、2022年度の全国の工業高生に対する求人倍率は20.6倍と過去最高を記録(7月1日付「Wedge」記事より)。5年制の高専の学生への求人倍率は20倍以上であり(23年1月25日付「FNNプライムオンライン」記事より)、30倍以上の高専も存在する。
「これまで大卒者の生涯賃金は高卒者より5000万円ほど高いといわれてきたが、難関大学から大手企業に就職すれば生涯賃金は高くなるだろうが、一般的に賃金が低いとされる飲食業界や小売業界だとそうなりにくく、高卒で大手メーカーなどに就職したほうが高くなるケースはいくらでもあるだろう。また、高卒でIT系の専門学校を出て、最初は賃金が低い小さなシステム開発会社やSES企業に入り、経験を積んで大手IT企業に転職できれば生涯賃金は大きく跳ね上がる可能性もあり、必ずしも『大卒=高い生涯賃金』というわけでもない」(キャリアコンサルタント)
「厚生労働省の令和4年賃金構造基本統計調査によれば、高卒就職者の平均賃金に賞与を2カ月として試算すると、概算で約383万円。一方、大卒就職者は約508万円となっています。同調査の産業別データを参照すると、高卒の就職が比較的多い製造業では、概算で約422万円。一方、飲食サービス業は概算で約360万円。ですから、たとえば高卒で製造業の大手メーカーに就職できた人と、大学を卒業して飲食サービス業のチェーン店などに就職した人を比較すると、高卒就職者の生涯賃金のほうが高くなるというケースも充分考えられます」(ファイナンシャルプランナー・豊田眞弓氏/23年9月30日付当サイト記事より)
(文=Business Journal編集部)