MSJ開発失敗の遺産…三菱重工、世界の航空機運航を支える大きなビジネス展開

積極的な投資と事業の拡大、他社製のリージョナル・ジェットやナローボディ機の整備も

 現在、世界で約1200機のCRJ型シリーズの機体が運航を続けており、これらを支えるのがMHI RJの一義的な役割である。カナダの本社のほか、米国、ドイツ(部品補給のみ)に拠点を持っているが、7~8割は米国で運航されるため、米国の2つの拠点(アリゾナ州ツーソン、ウェストバージニア州ブリッジポート)がメインである。経営難で設備投資もできなかったボンバルディアに取って代わったMHI RJは、特に米国で積極的な設備投資を行い、事業インフラを拡充した。ITインフラを最先端の技術に置き換えると共に、MROビジネスの基盤となる機体整備ハンガーを拡大した。ウェストバージニア州のブリッジポートでは、従来のハンガーを建て替え、2022年10月に竣工した新ハンガーにより、約9300平米の整備作業スペースの拡大がなされた。また、隣にさらなるハンガー増設も計画されている。新ハンガーでは、広さだけでなく天井の高さも拡大されているため、リージョナル・ジェットより大きなB737やA320クラスのナローボディ機(狭胴機)の整備も物理的には可能となっている。

 MHI RJは事業規模を3~4倍に拡大し、数年内に売上高10~15億ドル(1500~2250億円/1ドル150円換算)規模とすることを狙っている。このため、CRJシリーズのMRO事業だけにとらわれず、事業の多様化(ダイバーシフィケーション)を図ることを経営マインドのモットーとしている。例えば、MRO事業では、ライバル関係にあるエンブラエル製のリージョナル・ジェットも対象に加えている。2023年4月にはアメリカン航空の子会社の地域航空会社ピードモント航空との間で大口の契約を結び、同社が保有するエンブラエル製のリージョナル・ジェット ERJ145(50席)の全機(50~60機)を3年間整備することとなった。

 さらに、その先に狙いを定めているのが、もともとボンバルディアが開発し、その後エアバス社に権利譲渡されたナローボディ機A220型機(最大160席)の整備である。昨年から整備チームを編成しオンサイトでの整備作業を開始し、今年からはブリッジポートの新ハンガーで重整備(オーバーホール)を開始する運びである。ゆくゆくはB737やA320クラスのナローボディ機の整備も視野に入ってくる。

 事業の多様化は、部品・補給品ビジネスにも及んでいる。ブリッジポートの工業団地に工場を新設し、従来はなかった部品の修理と中古部品の販売もできるようになり、CRO(コンポーネント・保守・オーバーホール)事業へとレベル・アップしている。これによる効果は絶大で、部品・補給品ビジネスでの売上は2年間で3倍増となり、MRO事業とほぼ肩を並べるレベルとなっている。

初の水素電動によるリージョナル・ジェットに秘めたる可能性

 MHI RJは、2021年10月に水素燃料電池による電動航空機の開発を目指す英国(および米国)のゼロアビア(ZeroAvia)社と技術提携契約を結んだ。同社は水素燃料電池が発電する電力でプロペラやファンを回し推力を得る水素電動エンジンを開発中であり、まずターボプロップ機に装着し実用化した後、将来的にCRJ型機のジェットエンジンを新型エンジンZA 2000RJに換装し世界初の水素電動リージョナル・ジェットを実現するという構想を持っている。MHI RJはCRJの型式証明の保有者として、データ提供、技術協力、また技術認証取得のためのサポートを行う立場である。

 2021年末にユナイテッド航空はゼロアビア社への資本参加を決め、また自社のCRJ550型機(50席)に装着するために、最大100基のZA2000RJ水素電動エンジンを購入する覚書を結んだ。さらに、2022年8月にはアメリカン航空も同様に投資する決定と、最大100基のZA2000RJ水素電動エンジンを発注する権利を約束する覚書を結んだ。民間航空のカーボン・ネット・ゼロに向けて、エアラインのCRJ水素電動化への期待は大きい。