セブン&アイ・ホールディングス(HD)の取締役5人の役員報酬の総額は約85億円だが、5月28日の同社の株主総会の招集通知には取締役6人の報酬総額として7億6300万円と記載されていたことがわかった。6月19日付「日本経済新聞」記事が報じた。同社は株主総会の開催後に有価証券報告書(有報)を公表し、そのなかで約85億円という金額を開示。株主総会で高額な役員報酬への指摘が出ることを避ける意図があったのではないかとの見方もあるが、法律・会計ルール上の問題はないのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
コンビニエンスストア「セブン-イレブン」やスーパー「イトーヨーカドー」などを展開するセブン&アイHD。2024年2月期連結決算では、営業収益(売上高にあたる)は前期比3%減の11兆4717億円、営業利益は5%増の5342億円、純利益は20%減の2246億円。公表された24年2月期の有報によれば、代表取締役の井阪隆一氏の報酬は3億4100万円、他の3人の日本人取締役は1億円台である一方、ジョセフ・マイケル・デピント取締役は77億3200万円。セブン&アイHDの連結子会社で同氏がCEOを務める7-Eleven,Inc(米セブン-イレブン)から受け取る分が大半を占め、セブン&アイHDから受けるのは2200万円。米セブンが21年にM&Aによるスピードウェイ事業の取得を完了させたことで22年の業績が計画を上回ったことに伴い、米セブンから約74億円のインセンティブが支払われることで金額が高額となった。
セブン&アイHDの役員報酬は固定報酬と業績連動報酬(賞与・株式報酬)からなる。たとえば井阪社長の固定報酬(米セブン分含む)は9900万円で、業績連動報酬は約2.4億円となっており、全体の約7割が業績連動報酬。
ちなみに競合するイオンをみてみると、同期の営業収益は前期比5%増の9兆5535億円、純利益は前期比2.1倍の446億円。同社の吉田昭夫社長の報酬は1億7100万円となっている。
「セブン&アイHDの売上・利益規模を考慮すれば、井阪社長の役員報酬は妥当な水準といえる。また、米セブンの母体は米国企業であり、その社長を務めるデピント取締役の報酬も米国の基準では妥当といえる。役員報酬に関する日米の慣習の違いによって、子会社社長の報酬が親会社社長より20倍以上も高いという現象が起きた」(外資系コンサルティング会社社員)
報酬額が適正だとしても、今回のセブン&アイHDの情報開示のプロセスは適正だといえるのか。会社法では、役員報酬総額は株主総会で決めると定められており、役員ごとの報酬は取締役会で決定されることが一般的。よって、株主総会では役員ごとの個別の報酬を議題として取り上げる必要はない。また、役員が子会社などから支払われる報酬を、この総額に含める必要はない。一方、金融商品取引法では、役員が1億円以上の報酬を受け取る場合は有報に記載することが義務付けられており、その報酬には子会社などから受け取る分も含めなければならない。
「法律的には問題ないが、株主総会で株主から追及を受けることを避けるために法律の隙を縫って、意図的に行っているとみられても仕方がない。一部の外国人取締役の報酬が突出して高いことに正当な理由があるのであれば、株主総会で厳しく問われても粛々と説明すれば済む話でもあり、『株主総会で報酬総額が決議された』という既成事実をつくることを優先するあまり、小細工をしてしまったという印象がある。会社の重要事項の公表においては法律を遵守することと同程度に、より正確に情報開示を行いステークホルダーからの合意を得ようとする真摯な姿勢を示すことも重要。こうした『追及逃れ』的行為は株主からの不信を買い、企業イメージが損なわれることにもつながりかねず、長期的にみればセブン&アイHDにとっても好ましくない結果につながるだろう」(公認会計士)
(文=Business Journal編集部)