三菱商事、夏ボーナスが641万円、トヨタの年収と大差なし…当たり前の理由

 これを例えば『資本は設備投資を行うためのものだ』という考え方のメーカーと比較してみるとよくわかります。東証プライム企業のなかでも最高の営業利益をたたき出しているトヨタの平均年収は40.6歳で895万円と、三菱商事の夏のボーナスと大差ありません。理由は経営者が『自動車会社は設備が金を稼いでいるのだ』と考えるからです。役員報酬は億単位でも、製品原価を構成する従業員報酬は1000万円に満たないのです。

 三菱商事は日本企業のなかでは高額報酬として知られる会社です。俗に『10年目からは年収2000万円』といわれるように、30代前半でM2職(管理職相当のグレード)となり、その水準に達します。業界トップレベルの人材を引き付けるためには、この報酬は必要経費なのです」

業界トップであり続けるべきだという経営陣の意思

 そもそも同社のボーナス額について「高額」という認識は的を射ているのか。もしくは、諸条件を勘案すれば特段に高額とはいえないのか。

「三菱商事は前述したように日本企業のなかでは高額報酬として知られています。ただ三菱商事の場合は、その前提で考慮すべきポイントがあります。まず、直近の業績では、資源価格の下落が響いて対前年比で純利益が▲18%も減少しました。純利益額では三井物産に抜かれて業界2位に転落しました。にもかかわらず夏のボーナスが対前年比で6.9%増加している。つまり利益に対する報酬という考え方ではないのが、ひとつめのポイント。業績への成果報酬ではなく、人的資本の能力自体に報酬を支払っているわけです。

 次に従業員報酬を比較すると利益トップの三井物産よりも高いのです。これは長期安定的に競争優位を築くために、人に対する投資を意味する従業員報酬は、三菱商事が業界トップであり続けるべきだという経営陣の意思を感じます。

 そして3つめに前年比6.9%という金額水準です。政府の要請で経団連が5%以上の賃金増を掲げているなかで、日本企業平均を大きく上回る水準を打ち出してきました。夏のボーナス641万円というのは、もはや日本の大企業のなかでは圧倒的というべき金額です。人が事業を築き、これからも人が事業を築き続けることに対する自信の大きさを感じさせます」(鈴木氏)

日本のIT企業や金融機関の報酬レベルは低い

 三菱商事のボーナス額が目立つ背景には、日本企業の給与の低さがあるという。

「世界的な資本主義の潮流として、競争優位のカギが工場や店舗のような物的資産から、人のような無形資産へとシフトを始めています。しかし日本企業はそのトレンドを把握していながら、なかなか人への投資額を増やすことに踏み切れていません。アメリカの巨大IT企業や、ウォール街の一流金融機関と比較すれば、日本のIT企業や金融機関は人的資本経営を標榜しつつも、その報酬レベルは一桁低いのが現状です。

 その例外といえるのが総合商社です。人がビジネスを構築してきた歴史があり、その人に対する投資を増やすことに経営陣が何ら不安を感じない。その姿勢を日本企業はもっと見習うべきだと思います」

(文=Business Journal編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)