税務署の職員が育児休業中に新車・中古車などの転売で2億円もの稼ぎをあげたというニュースが話題を呼んでいる。果たして素人でも車の転売でこれほど大きな利益を上げることは可能なものなのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。
福島県内の税務署に勤務する20代の男性職員。育児休業を取得していた2022年8月から今年2月までの約1年半の間に、自動車62台と携帯電話4台を転売して約2億円の売上をあげたという。育児休業期間中でも公務員の身であり、規則では所属長の承認を得ずに兼業に従事することは禁止されているため、男性は国家公務員法違反で停職1カ月の懲戒処分を受けた。26日付け朝日新聞記事によれば、育児休業中は無給となり共済組合から給料の半分ほどの給付金を受けており、車の転売を始めてみたところと楽しくてやめられなかったという。
では、この男性はどのような方法で転売ビジネスを行っていたのか。中古車販売店経営者で自動車ライターの桑野将二郎氏はいう。
「ネットオークションや『メルカリ』『ジモティー』など個人売買のサイトを活用して、市場小売り価格との差益を得るようなやり方をしていたのではないでしょうか。とくにプレミアム価格のついている人気車種を狙ったり、ニーズの高い高年式の軽自動車は比較的利益を出しやすい傾向にありますが、クルマが好きだったということから、中古車業者と同等の相場勘がありながら、良い個体を選ぶ眼も備えていた可能性があります。具体的には、相場より安い個体を仕入れとして購入し、ディテーリング(ボディの仕上げ)やルームクリーニング、簡単な基本整備をして、見栄えを良くしてから市場相場に合わせた価格設定で販売をすることで、差益を得るという形です。
今回の件について問題となるのは、国家公務法違反(兼業の禁止など)だけでなく、中古車販売業と見なされるだけの商売を古物商の資格を持たずにやってしまっている点です。中古車を扱う以上、古物商許可は必ず取得しなければなりません。古物商許可は、古物をビジネスとして売買し、継続的な利益を得る場合に必要となる許可で、自動車のほかに衣類や美術品など全13品目があります。中古車を扱う古物商は『自動車商』と呼ばれ、許可を取るまでの審査や準備しなければならない書類があるため、少しハードルが上がります。
とはいえ、中古車販売をやるにあたって、古物商許可以外にとくに資格や事業に関する取り決めはなく、比較的誰でも参入しやすい業種であることはたしかです。一般ユーザーでも売買に関わりやすい傾向にあり、ネットの発達で個人が仕入れをしようと思えば容易にできる環境も整っています。もちろんプロではないので、修復歴車の見極めが曖昧だったり、整備士が施すような行き届いたメンテナンスはできないと思いますが、個人売買の取引では『ノークレーム・ノーリターン』の一言を沿えることで、販売後のトラブルを防ぐという通例があり、古物商許可を受けていない人がいわゆる“もぐりの中古車屋”になることは、案外難しくないでしょう。
では、車の転売で2億円もの売上を上げるというのは、可能なものなのか。また、売上が2億円だとすれば、利益はどれくらいだと考えられるのか。
「およそ1年半の期間で62台の自動車を転売、約2億円の売上をあげたとされていますが、ざっくり1台あたりの売上が平均300万円前後で取引されていたと想定すれば、可能な金額だと思われます。また、2億円の売上に対して利益は10~20%程度が予想されるので、2000万~4000万円ほどの粗利を得ていた可能性があります。