作業服チェーン運営会社ワークマンが、社員にプログラミング言語「Python」を習得させ、データ分析や予測、人員配置などの業務に活用していることが注目されている。流通業に従事する社員が畑違いのプログラミングを学習して業務に活用するというのはハードルが高いようにも思えるが、プログラミングは職種に関係なくすべてのビジネスパーソンにとって必須の知識・スキルになるという指摘も聞かれる。ワークマンのような事例は今後増えていくのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
全国に作業服販売の「ワークマン」を約400店舗、一般消費者向け機能性ウェアなども扱う「ワークマンプラス」を約550店舗展開するほか、2020年から出店を始めたレディースウェアの「#ワークマン女子」も50店舗を超えるなど勢いに乗るワークマン。同社では全社的に積極的にマイクロソフトの表計算ソフト「Excel(エクセル)」を業務に活用していることで知られているが、21年からは社員がPythonを学習する研修プログラムを推進している。
4月2日付「ダイヤモンド・チェーンストア」記事によれば、競合のECサイトからのデータ自動取得やピッキング作業の予測、パート従業員の配置、需要予測などにPythonを活用しているという。
Pythonとはどのようなプログラミング言語なのか。データアナリストで鶴見教育工学研究所の田中健太氏はいう。
「IEEE(米国電気電子学会)が毎年発表しているプログラミング言語の人気ランキングではPythonは2017年からずっと1位であり、現在世界でもっとも注目度が高い言語といえます。コンパイルが不要なスクリプト言語、インタープリタ言語であり、プログラムを動かしやすいというのが特徴です。業務を効率化するためのちょっとしたシステムから世界中で使われる大規模なシステムにまで使われています。AI(人工知能)開発向け言語としてはデファクトスタンダードとなっていることから、学校や企業におけるプログラミング学習で採用されることも多いため、少しだけでも学んだことがあるという人も多いのではないでしょうか。
読み書きがしやすく、一般的にJavaやCなどより習得しやすいといわれています。各種ライブラリが豊富にそろっているため、いちいちゼロからつくる手間が少ないというのもメリットです」
社員へのDX研修を行う企業は増えているが、社員にPythonを学習させる企業は多いのか。
「非常に多いです。IT部門のみならず全社的に学ばせる企業も増えている一方、具体的にどのようなことに使うのかが明確でないまま研修を行うケースも多いです。『今後はIT部門以外の社員もプログラミングができるようにならないとね』という旗印のもとで『今流行ってるから』という理由でPythonを選択するようなケースも少なからずあります」(田中氏)
企業で業務にPythonを活用する事例には、具体的にどのようなものがあるのか。
「たとえば小さな業務効率化の例としては、大量のファイルを作成日付ごとに自動的に振り分けて保管したり、従来は紙やエクセルで情報共有していたものをちょっとしたウェブアプリに置き換えて、誰でもどこからでもすぐに在庫状況を確認できるようにしたりできます。また、本格的な例としては、データ分析や統計解析をしてグラフ作成を行ったり、機械学習まで活用した需要予測なども可能になります」(田中氏)
では、今後はビジネスパーソンであれば誰でもPythonのスキルが必須となってくるのか。
「生成AIの普及が進めばプログラミングでローコード、ノーコードが広がると予想されますし、全員が必ずしもプログラミングを習得しなければならないということにはならないでしょう。また、プログラム言語には用途によって向き不向きがあり、たとえば大規模な基幹系システムでは現在でもJavaが主流ですし、企業の情報システム子会社やSIerではJavaプログラマーへのニーズが高いといえるでしょう」(田中氏)