九州電力のサイトを見ると、玄海原発の定期検査は3月に行われ、川内1号機は6月、2号機は9月に予定されている。これを気候が温暖な4~5月に変えるのは無理がないように思えるがどうだろう。そして、出力抑制の問題を短期的に解決する方法は蓄電池だと飯田氏は話す。
「蓄電池が猛烈に安くなってきているので、とにかく大量に送電系統の上流に入れていくこと。太陽光や風力の発電事業者は出力抑制を最小化できるし、既得権益の電力会社にとってもメリットがある」
大手電力が火力発電を最大限止める努力をしないのには経営上の理由がある。
「電力の需給調整をするのは送配電会社だが、日本の発送電分離は中途半端な形だ。例えば、九州の送配電会社(九州電力送配電)は親会社が九州電力で、火力発電所を動かせば動かすほど儲かる。火力を止めればそれだけ儲けが減る。しかし、九州電力と資本関係のない外部の太陽光発電は止め放題。止めても自分たちは痛くもかゆくもない。自分たちの火力発電も一応ルール通りには止めるが、それ以上は減らさない」(飯田氏)
2012年7月から施行されたFIT(固定価格買取制度)法では、太陽光や風力などの再エネ電力を、長期固定価格で電力会社が買い取ることを義務付けていた。このFIT法は2017年4月に改正され、再エネ事業者からの買取義務が電力会社から送配電事業者に変更された。
北海道から沖縄まで10区域に分割され、それぞれの区域には1社の送配電事業者がある。ところが、例えば「東京電力パワーグリッド」の株主は東京電力ホールディングス100%であり、「関西電力送配電」の株主は関西電力100%である。他の地域もすべて同じ形だ。つまり、需給調整を任されている送配電事業者は、資本関係上、中立的な立場ではない。親会社の利益を優先したり、グループ内の火力発電をできるだけ止めないようにしたりするのは、会社にとって合理的な考え方なのである。
資源エネルギー庁の3月11日発表によれば、2024年度の全国の出力抑制量見通しは、昨年の1.4倍に増えるとのことだ。
「このままいくと、2030年には北海道は太陽光と風力の74%抑制とか、東北も85%抑制、九州も71%抑制などという具合に、ほとんど増やせない状況になる」(飯田氏)
再エネの普及拡大は地球温暖化防止対策として国が進め、受け入れ制限は起こらないという前提で太陽光発電などの再エネ事業は始まった。売電している再エネ事業者は、計画した発電量で毎年電気を売ることを前提に資金計画を立てている。売電できるかどうかわからないということでは事業計画が狂ってしまい、事業が頓挫し借金だけが残るという事態になることも考えられる。
「再エネ事業者からは悲鳴のような声がたくさん上がっている。それから、2014年9月に九電は初めて太陽光発電の新規買取契約の中断を発表し、国と電力会社は接続可能量を出してきて、その後の契約では無制限無保証を前提に系統連携するということになった。しかし、これは完全に優先的地位の乱用であり、電力会社はその条件でしか契約しないというので、すべての再エネ事業者は泣く泣く、一応それで契約している。契約しなければFITで連携できないからだ。それで電力会社は止めたいだけ止めるということをやっている」(飯田氏)
昨年11月末、経済産業省は22年度における国内の電源構成の速報値を発表した。国内の発電電力の割合は、火力発電が70%以上を占めており、次いで太陽光(9.2%)、水力(7.6%)、原発(5.6%)、バイオマス(3.7%)、風力(0.9%)、地熱(0.3%)という順だ。再エネは約22%程度を占めていることになるが、日本はどうやってこれを国際目標である3倍増にするのか。ビジョンがまったく見えてこない。
(文=横山渉/ジャーナリスト)