さらに、アルムナイ人材は退職時よりも幅広い知識と経験を有していると評価される傾向にあるという。
「退職しても、まったくの異業種に転職するという人は意外と少なくて、元の会社と同じ業界で働くことが多いんです。その場合、業界動向にも詳しく、より視野が広がっていると評価されます。1回外に出てみることで、自社も含めたサービスやプロダクトに対する客観的な視点が生まれるわけです。また自社に対しても、ここが強みであるとか、今後の課題なども冷静に判断できるということも強みになります」(同)
他業種でも、そこで得た知見を元の仕事にフィードバックすることは期待できる。では、逆にアルムナイ人材を採用するデメリットはあるだろうか。
「企業側のデメリットとしてよくあげられるのが、辞めてもすぐ戻れることを前提とすると、既存の社員たちの退職に対するハードルが下がりすぎてしまうという懸念ですね。これを防ぐためには、個々の契約期間をしっかりと決めておくことや、勤続年数によって賞与比率や退職金を変動させるなどの報酬面で求心力を高めるというのが有効です」(同)
人材を確保するために雇用の流動性を高めると、同時に社員の流出も招いてしまうというジレンマが生じる。
「ある研究によると、社員のキャリア自律を高めても、離職率が大きく上がるわけではないといわれています。自分のキャリアを本当に支援してくれる組織であれば、愛着も上がり、もっとこの会社のために働こうと考えるのです。今後は日本企業でもジョブ型雇用が増えてくる傾向にあり、会社ではなく、仕事そのものに対してコミットしていくようになっていきます。退職しても、また同じ会社に戻ってくることが、自然な働き方として日本のビジネスパーソンに浸透すれば、経営側もわざわざアルムナイを制度化しなくてもよくなるかもしれません」(同)
逆にいえば、会社に頼らず、自分自身でキャリアを積んで、有効なスキルを身に着けていかないと評価されないし、アルムナイ人材として戻ってくることも難しくなる。会社の知名度や肩書でなく、個人のバリューを高めていかなくてはいけない時代になっていくのだろう。
(文=清談社、協力=安藤健/人材研究所シニアコンサルタント)