家電メーカー関係者はいう。
「気になるのは売上が大きく落ち始めている点だ。2010年頃から相次いで新商品が話題となり、目新しさにつられて購入した人々が買い替えのタイミングを迎えてバルミューダの商品を選択していない可能性が考えられる。たとえば扇風機の『The GreenFan』は約4万円、トースターの『BALMUDA The Toaster』は約3万円もするなど、同社の商品はかなり高い。安くても性能が良い家電が大手メーカーから多数出されているなか、リピーター客を獲得するのは難しい。今後しばらくは物価上昇で消費者の節約志向がますます強まっていくと考えられ、同社はしばらく苦戦が続くと予想される」
同社は今回の業績悪化の理由として、以下を挙げている。
・想定以上に厳しい外部環境の影響を受けて売上高が減少
・原材料価格の高止まり
・記録的な円安ドル高による仕入コストの上昇
・旧品在庫のセール、評価減により売上総利益率が低下
・携帯端末事業の終了決定に伴い特別損失を計上
そして、施策として
・製造コスト低減・価格改定による利幅の改善
・売上規模に対応した組織・人員体制の再構築
・国内外における製品ラインナップの拡大
に取り組むとしている。
厳しい環境に直面し、同社は手をこまねいているわけではない。中国と米国でオープンドリップ式コーヒーメーカー「BALMUDA The Brew」を、韓国で電気炊飯器「BALMUDA The Gohan」を、台湾でオーブンレンジ「BALMUDA The Range」を、タイ、マレーシア、シンガポールで「BALMUDA The Toaster」「BALMUDA The Pot」を発売し、海外展開を加速。また、「BALMUDA The Range」「BALMUDA The Toaster」「BALMUDA The Toaster Pro」のリニューアルモデルも投入した。
こうした積極果敢な取り組みは成果も生んでいる。23年12月期第4四半期連結会計期間の国内家電売上高(携帯端末関連を除く)は過去最高を更新。昨年10月に発売したホットプレート「BALMUDA The Plate Pro」が発売初週で累計出荷台数5000台を突破するヒットを記録したことも話題となった。
バルミューダにとって再成長のために必要な施策は何であると考えられるか。前出・鈴木氏はいう。
「前述したように、まずは赤字を止めて緊急避難的に黒字化することが財務体質を維持するためには必須です。そのうえで今後の日本市場では円安が長期化しそうである点と、少子高齢化が続く点を考慮すると、再成長のためにはプラスアルファの戦略が必要になるはずです。
考えられる戦略のひとつは、日本発の高級家電であるというブランドを引き続き強化していくこと。リストラの結果、商品イメージまで悪化するような間違いを決して起こさないように商品価値に目を光らせることが重要です。その延長線上ではもう一段、商品ブランドイメージが上のレベルになる必要があるかもしれません。具体的には価格が1.5倍に設定されたとしても消費者がバルミューダを選ぶくらいの製品イメージ向上を狙うべきです。
もうひとつはアジア展開です。今回、韓国市場の売上が大幅に縮小したことで、足元のバルミューダはほぼほぼ日本市場一本足打法の展開になってしまいました。円安、少子化が進む前提で考えると、この状況は好ましくありません。つまり韓国以外のアジア圏の中流の上からプチ富裕層がバルミューダを支持するように多国展開を進めるべきです。香港、シンガポール、マレーシア、タイといった高範囲のアジアでバルミューダブランドが浸透していくように構造を変えていかないと、再成長は見込めないでしょう」
(文=Business Journal編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)