不動産業界関係者はいう。
「1階にはラーメン店、2階には『銀だこハイボール酒場』などが入っているものの、全体的に価格設定が高い。『うに』『いくら』と生卵が豪快に盛られた海鮮丼や、フラワーデザインの『おはぎ』、大きな果物を挟んだフルーツサンド、『あわび』『いくら』が豪快に盛られた海鮮丼など、外国人観光客受けしそうなヴィジュアルの商品が目立っており、インバウンド客を強く意識したテナント揃えとなっている。こうした高額の商品に多くの日本人客がお金を払うとは考えにくく、もはや日本人客は切り捨てているという印象すら受けるほどだが、財布の紐がきつい日本人客が大勢来るよりも、円安の影響もありジャンジャンお金を落としてくれる外国人観光客、それも団体客に来てくれたほうがビジネス的には利益につながるので、戦略としてはアリだろう。もっとも、日本人が家族連れなどで行くと『高くて手が出ない』とストレスを感じる可能性もあり、下手に足を踏み入れないほうがいいかもしれない」
食楽棟では当初、170のテナントを誘致する予定だったものの、開業時点では約70店にとどまっている点もクローズアップされている。前出「BUSINESS INSIDER」記事によれば、1区画あたりの面積が狭いという理由で出店を断られるケースが多いというが、前出・西川氏はいう。
「まず、賃料が高めである可能性が考えられる。また、施設の運営側としては、各店舗の区画を小さめにして多種多様なテナントを揃えたいという意向を持っていたのだろうが、出店する側にとっては面積が小さいと採算がとりづらい。豊洲市場という立地的に、長期的に期待通りの集客ができるのかという懸念も影響しているだろう」
外食チェーン関係者はいう。
「現在は人件費と原材料価格が高騰しているので、高止まりしたコストを賄って利益を出すためには、時間単位当たりの売上を伸ばさなければならないが、店舗面積が狭いと、その分、接触できる客の数が減るので売上が伸びにくく、経営効率的に難がある。加えて外国人客がメインとなれば、英語ができるスタッフを常に確保できるか不透明な部分もあるし、接客面で何かと想定外の事態や面倒が生じる恐れもあるという点も、テナント候補の事業者側が二の足を踏む要因になっているのでは。
千客万来のテナント料がどれくらいなのかは分からないが、もし仮に施設運営側が強気の金額・条件設定をしていれば、純粋に費用対効果的に見合わないという判断をした事業者も出てくる。こうした商業施設は開業直後は多くの集客があるものの、興味本位で『見に来るだけ』の客も多いため店舗単体の売上に直結しなかったり、数年たつと施設全体の集客が苦戦するケースもあり、メインとなるインバウンド客もコロナのときのように何らかの事情で突然消える可能性もあるため、長期的にみると出店するリスクが大きいと判断する事業者もいるだろう」
気になるのは長期にわたり客を集め続けられるのかという将来性だ。前出・西川氏はいう。
「インバウンド客は今後も増大していくので、一定の集客は望めるだろう。あとは純粋に来た人が魅力を感じられる、満足してくれる施設になるかどうかにかかってくる。長い歴史をかけて自発的に形成され、その結果として人気スポットとなった築地の場外市場と異なり、千客万来は『つくられた賑わい』を特色とするので、それが多くの人々に受け入れられるかという点が分かれ目になってくるだろう」
(文=Business Journal編集部、協力=西川立一/流通ジャーナリスト)