話し合いで価格調整が行われると、競争原理が働かなくなり、商品やサービスの質の低下や価格上昇という、公正な取引が阻害される可能性が生じる。このためカルテルは独占禁止法で厳しく規制されている。保険業界でも同様で、金融庁も損害保険協会も法律遵守のために「保険会社の独占禁止法遵守のための指針」を作成し、今年12月には改定も行っている(「損害保険会社の独占禁止法遵守のための指針」)
今回の問題で保険業界に衝撃が走ったのは、公正取引委員会が保険代理店2社にも立ち入り検査を行ったことだ。代理店は筆者の調査で東京エイドセンター(本社:東京都新宿区)と共立株式会社(本社:東京都中央区)だと判明した。
【東京エイドセンターのHPより】
東京都人材支援事業団指定・幹事損害保険代理店として、東京都職員・教職員及びその家族・退職会員の福利厚生に寄与することを目的(略)都職員・教職員・退職会員延べ7万人余の方々および東京都、東京都関連団体等100社のご契約をいただいている代理店です。
【共立株式会社のHPより】
共立グループはみずほフィナンシャル・グループの親密会社として、上場企業約400社を共同含む5,000社に及ぶ有力企業との取引実績を有し、独立性と専門性が求められる公共プロジェクトにも数多く参加しています。
ただ、損保4社には業務改善命令が下された一方で、代理店には下されなかった。金融庁は慣習的にカルテルが行なわれた事実を踏まえ、その背景には損保の現場でのコンプライアンスの意識の低さもあるとしている。「保険会社の監督官庁である当局は、カルテルに対して個別の白か黒かを判断しない。代理店の管理監督責任は保険会社にある。なぜ不正行為が行なわれたのか、まずは改善案を精査しながら、二度とこのようなことが損保業界で起こらないように監督していく」と理由を明かす。金融庁は、「今回発覚したカルテルに関し、どの程度の不利益が契約者におよんでいたのかは現時点では不明だ」という。
「ビッグモーター不祥事でも多くの方にご迷惑をおかけしたが、ひょっとしたら被害額や規模はビッグモーターの不祥事以上に膨らむ可能性もあるのではないか」(保険業界関係者)と緊張が走っている。一方で、「業界の膿を出し切るいい機会だ」という関係者もいる。金融庁は今回の業務改善にとどまらず、金融審議会を立ち上げ、損保・生保、少額短期のすべてのチャネルに「適切な保険募集」「法令遵守」の徹底を図るべく業法改正や監督指針の見直しを検討するのではないか、と筆者は考えている。保険業界は正念場を迎えている。
(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)