NEC子会社であるNECソリューションイノベータの元社員が、転勤に応じなかったことで懲戒解雇されたのは不当であるとして慰謝料の支払いや解雇無効の確認を求めて裁判を起こした件が、あらためて注目を浴びている。
元社員は、長男の病気や母親の介護を理由に転勤に応じなかったことで懲戒解雇とされたため、2019年に会社を相手取り慰謝料100万円の支払いや解雇無効の確認を求めて提訴。一審の大阪地裁は2021年、転勤による著しい不利益はないとして請求を棄却。判決を不服として控訴し、翌2022年に大阪高裁で会社側が解決金約420万円を支払うことで和解が成立した。
ちなみに一審の判決では、「(転勤命令は)業務の効率化や雇用の維持の観点から必要性があった」として転勤の必要性を説明。懲戒解雇についても「命令に応じない事態を放置すれば企業秩序を維持できない」として、合理性があると判断している。
確かに、社員の転勤については最高裁が1986年、会社側に幅広い裁量を認める判断を示しているが、元社員側は2002年施行の改正育児・介護休業法で会社側に義務づけられた「転勤時の配慮」を怠っていると主張している。
日本の大手企業では、転勤の制度を導入しているところも多い。なかには、複数の支店や支社を経験することが、出世の必須要件となっている企業もある。だが、家庭の事情などで転勤を受け入れがたいという人もいるだろう。冒頭のNEC子会社の元社員は、育児や親の介護を理由とした転勤拒否が求められず、懲戒解雇という処分を受けることになった。
一般的に、転勤は拒否できないものと理解すべきなのだろうか。山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士は、次のように解説する。
「就業規則で『転勤があること』が定められている場合は、転勤を拒否できません。なぜなら、転勤があることを理解して入社していること、日本では自由に解雇ができないことから、その代わりに従業員の配転についてはある程度、会社側に自由が認められているからです。
したがって、例えば、家が遠くなるから、マイホームを買ったばかりだから、高齢の親がいるから、といった理由では転勤を拒絶できません。それにもかかわらず転勤を拒絶すれば、『会社の命令に従わなかった』ことになりますので、場合によっては『解雇『もあり得るわけです』
つまり、事前に転勤があることを理解して入社している場合や、就業規則に転勤がある旨が記載されている場合には、転勤を拒否するのは難しいといえるわけだ。ただし、判例をみると、業務上の必要性がない場合や、転勤命令が不当な目的による場合、転勤による労働者の不利益が著しい場合には、転勤命令自体が違法となり、会社側に損害賠償の義務が生じたり、解雇や降格等の処分があった場合には無効とされることになる。
(文=Business Journal編集部、協力=協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)