ただし、ストレートな意見をぶつけるときに気をつけなくてはいけないのは、その時の状況だという。
「衆目のある状況で上司に対して意見するというのはタブーです。どんなに内容が正しくても、第三者が見ているなかで目下の者が目上の者を責めると相手のメンツが完全に潰れてしまうからです。中国人は、このメンツを潰されることを最も嫌います。メンツは中国人のアイデンティティの根幹をなしているからです」(同)
中国人にとって、メンツは「名誉」や「世間体」だけでなく、自分が他人よりも優れているということを証明するために譲れないものという意識がある。『中国人は謝らない』といわれることがあるが、それもこのメンツを重視しているためだ。
「彼らが最もメンツを潰されたと感じるのは『人前で恥をかかされた時』だそうです。この意識は世代を超えていて、中国人の若者に聞いても同じことを言います。メンツを傷つけず、自尊心を満たすということは、中国人とコミュニケーションを取る上ですごく重要です」(同)
ここでいう「人前で恥をかかされた」という状況は、その本人がいなくても起こりうる。
「例えば、飲み会などの本人がいないところで陰口を言うのもNGです。日本人でも、その場にいない人の悪口はあまり言わないほうがいいと思う方は多いですが、中国人はもっと敏感で、陰口が漏れ伝わって本人の耳に入った場合、メンツを潰されたということで、深刻なトラブルになる可能性があります」(同)
中国人がメンツを重要視するということは、逆にメンツを立てるように振る舞えば、より友好的な関係になれるということでもある。
「中国人は気を遣うより、気を遣われるほうが上という意識を持った人が多いです。なので、気を使って特別扱いをしてあげれば、相手のメンツも立つし、自尊心も満たされる。わかりやすいのは『お土産』ですね。みんなで取りわけられるようなものではなく、その人にだけ特別に渡すようなお土産を贈ると自尊心が満たされ、とても喜んでくれます。モノを贈ることに抵抗があるなら、情報でもいい。『これは誰にも言ってないことだけど、あなただけに教えます』など、重要な情報をいちばん最初に伝えることも『特別扱い』になると思います」(同)
上司のメンツを立てようとするあまり、部下はイエスマンとなってしまいがちだが、そこでしっかり意見を言い、目標に向かって仕事を進めるというのが理想的だ。ただし、そこで気をつけるべき点がある。
「中国人はスピード感を重視すると言いましたが、その一方でコンプライアンスが置き去りにされがちなところがあります。法を破るような犯罪まではやらないが、グレーゾーンを攻めるようなことは当たり前にやる。激しい競争社会で揉まれているので、綺麗事を言わず、少しでも出し抜いたほうが勝つというマインドなんです」(同)
中国企業や上司の下で仕事をする場合、自分の倫理観が試されるような場面もあるかもしれない。
「中国には『上に政策あれば、下に対策あり』という格言があります。中国は社会主義国なので、国が一方的にさまざまな規制を強いてくる。それを庶民はただ従うのではなく、どこに抜け道がないかとまず考えるんです。この感覚を日本人が共有するのは難しいかもしれません」(同)
とはいえ、そのスピード感や、ギリギリを攻めて勝ち取っていくことに仕事としてのダイナミズムを感じるかもしれない。中国人の気質を理解しつつ、あまり小さな事にはこだわらない器量を持って付き合っていくというのが心得といえそうだ。
(文=清談社、協力=千葉祐大/キャリアマネジメント研究所代表理事)