ライセンスビジネスとスカパー・ピクチャーズの目標値を合算すれば、伊藤忠がエンタメ・IPビジネスで狙う事業規模は1000億円に上る。この青写真を実現するうえで重要となるのが、Rights & Brands Asiaとスカパー・ピクチャーズのシナジーの深化だ。
スカパー・ピクチャーズにおいて、IPコラボの需要が溢れかえるような作品をプロデュースできれば、Rights & Brands Asiaはコラボ案件の運用・企画力を対外的にアピールできる。IPホルダーからの期待値が高まれば、新たな人気キャラクターの商品化権獲得につながるだけでなく、Rights & Brands Asiaと密接な関係のスカパー・ピクチャーズにヒットの見込みが高い原作も集まりやすくなるわけだ。
ただ、スカパー・ピクチャーズのプロデュースした「チ。」は作品性を高く評価される一方、出版大手の漫画編集者からは「キャラクターグッズがよく売れるタイプの作品ではないだろう」という声も上がる。
現状の製作パイプラインには「商品化の需要が強い作品ばかりが控えているわけではない」(長内社長)ため、前述のシナジーが最大化されるフェーズとは言いがたい。
「商品化を見据えた作品も検討していく」という長内社長。「葬送のフリーレン」など数々の人気アニメを手がけたアニメスタジオ・マッドハウスをアサインできた「チ。」のように、まずは有力なアニメスタジオの制作ラインを押さえつつ、作品性の高い原作ものアニメやオリジナルアニメを投下していく。同時に、Rights & Brands Asiaが海外で独自性のあるコラボ企画を積み重ねることで、出版社などのIPホルダーに運用・企画力を示す、といった我慢の時期が続くだろう。
エンタメ・IPビジネスの成長へ、伊藤忠はグループのリソースを惜しみなく生かす方針だ。
「チ。」の放送・配信が始まった10月には、傘下のファミリーマートの店舗サイネージでメインキャラクター役を務める人気声優・津田健次郎氏のインタビュー動画を放映した。サイネージが設置されている約1万の店舗網で宣伝し、作品の稼働を支援することはもちろん、広告収入拡大を狙うサイネージの視認率も上げてしまおうという伊藤忠ならではの取り組みだ。
伊藤忠がこれだけ本気なのだから、ほかの総合商社もこのビジネスに目を付けないはずがない。丸紅は6月、小学館と日本のマンガ・アニメコンテンツのグッズ開発・販売や海外流通網の構築などを担う合弁会社・MAG.NETを設立した。
同社は2022年に講談社と集英社、小学館を束ね、AI(人工知能)やICタグなどを活用した出版流通改革の合弁企業を設立。ある丸紅関係者は「裏側の本音として、世界に向けたキャラビジネスへとつなげたい。これまで出版業界との付き合いがなかったので、まずはその課題解決から始めた」と明かしていたが、いよいよ動きが本格化してきた。
ただ、エンタメ業界内では、「ベイブレード」で実績を上げたアニメ会社を2015年にアサツー ディ・ケイ(現ADKマーケティング・ソリューションズ)へと売却した三菱商事などを含め、総合商社は"アニメビジネスから一度逃げたプレーヤー"という烙印を押されている向きもある。その本気度に対する懐疑論はいまだ根強い。
伊藤忠はエンタメ・IPビジネスで稼ぎを積み上げ、ソニーグループや東宝、バンダイナムコグループなどと比肩するプレーヤーになれるのか。追随する同業との違いを見せつけ、エンタメ業界からの信頼を勝ち取ることも、成功に向けたカギを握りそうだ。