AI翻訳「ポケトーク」アメリカ市場を席巻の原動力

翻訳専用端末はブルーオーシャン

AI翻訳市場は急速に成長しており、特にスマートフォンアプリの分野では大手テック企業を含む多数のプレイヤーが参入し、過当競争の様相を呈している。Google翻訳、Microsoft翻訳、DeepLなど、強力な競合がひしめく中、個々のアプリの差別化が困難になりつつある。

一方、専用ハードウェア市場に目を向けると、状況は大きく異なる。ポケトークの川竹一CTOによれば、AI翻訳に特化した専用デバイスは2~3種類存在するものの、法人レベルのセキュリティ水準とMDM(モバイルデバイス管理)機能を備えた製品となると、選択肢はポケトークのみだという。この点が、ポケトークの市場での独自性を際立たせている。

松田会長は「彼らの弱みは逆にスマホが必要であること」と指摘する。スマートフォンアプリの翻訳サービスは個人利用では便利だが、ビジネスや公共サービスでの使用には制限がある。多くの企業や組織では、セキュリティリスクを考慮し、個人所有のスマートフォンを業務で使用することを制限している。

低価格で複数人で共有しやすいことは専用端末ならではのメリットだ(筆者撮影)

ポケトークは、これらの課題に対応するため、専用端末戦略を採用している。法人向けの高度なセキュリティ機能とMDM機能の実装により、ビジネスや公共サービス分野での需要に応えている。この戦略には複数の優位性がある。ハードウェアの開発・製造には多くの資本と技術が必要で、これが新規参入の障壁となっている。また、特定の用途に特化したニーズに対して、より適切なソリューションを提供できる点も大きな強みだ。

過当競争のアプリ市場を避け、高度なセキュリティ機能を備えた専用ハードウェア市場という、比較的競合の少ない領域で独自のポジションを確立していることが、ポケトークの現在の成功につながっているといえるだろう。

ポケトークの松田憲幸会長CEO(左)と、ソフトバンクの野崎大地常務執行役員(筆者撮影)

ハイブリッド戦略:専用端末からソフトウェアサービスまで

一方で、ポケトークのサービス群は、専用端末だけにとどまらない。ポケトークアプリ、ポケトークライブ通訳、ポケトークカンファレンス、ポケトーク for スクールといったサービス群を構え、さまざまなシーンでの音声翻訳に対応している。

ポケトークアプリは、スマートフォン向けのAI通訳アプリで、85言語に対応し、カメラ翻訳機能や発音練習機能も搭載している。2022年5月の日本国内での提供開始以降、急速にグローバル展開を進め、現在45の国と地域で利用されている。

ポケトークライブ通訳は、ブラウザベースのAI同時通訳サービスで、さまざまなデバイスで利用可能だ。リアルタイムでの音声およびテキスト翻訳が可能で、オンライン会議や対面会議、セミナーなど多様な場面で活用できる。

ポケトークカンファレンスは、大規模な国際会議やイベントでの同時通訳を可能にするサービスで、10言語から74言語への音声およびテキスト通訳に対応している。聴講者は自身のスマートフォンで簡単に利用でき、専用機材が不要なため準備が容易でコスト削減効果が高い。ポケトークの若山幹晴社長によると、ポケトークカンファレンスの性能に感銘を受けた聴講者が、ポケトークユーザーとなることも多いという。

ポケトークカンファレンス
会議をリアルタイムで翻訳するポケトークカンファレンス(筆者撮影)

教育現場向けには、ポケトーク for スクールというサービスを展開している。このシステムは、教師の発言を生徒の母国語にリアルタイムで翻訳し、タブレットに表示する仕組みだ。若山社長によると、神戸市でのテスト導入を行っているほか、ソフトバンクと協力して多くの教育委員会への導入を進めていく方針だ。