構造改革の最終章が始まったか――。
セブン&アイ・ホールディングスはグループの祖業であるイトーヨーカ堂など、傘下企業の一部株式の売却に向けた調整に入っている。10月10日の決算会見で正式に公表される見通しだ。
売却先としては投資ファンドが取り沙汰されているほか、買い手が見つかるかは不透明だが、セブン&アイ経営幹部の中には同業他社を推す声もある。
ヨーカ堂のある幹部は「直近の取締役会でもそんな話はいっさいなかった。外資ファンドに買われてしまっては、さらなる閉店を求められるかもしれない」と動揺を隠さない。
ヨーカ堂などスーパー事業を巡っては、セブン&アイが今年4月、2027年度以降の新規株式公開(IPO)を目指し、将来的には連結からの分離もありうると説明していた。IPOに先立ち、一部株式を譲渡する方針を固めたのはなぜか。
セブン&アイは現在、カナダの同業大手、アリマンタシォン・クシュタールから買収提案を受けており、9月初旬に「受け入れられない」と返答。その主な理由として「株主価値を著しく過小評価している」としていた。
ただ、上層部の中からは、ガソリンを軸とする北米型コンビニとファストフードを主力とする日本型コンビニとは、ビジネスモデルも客層も大きく異なり、傘下入りするメリットがないとの声もある。金額の多寡ではなく、買収されること自体に反発する幹部も多いようだ。
ヨーカ堂株の早期売却を検討しているのは、セブン&アイHDの設立以降、非効率と指摘され続けてきたヨーカ堂事業の株式を一部でも前倒しで売却することで、構造改革の本気度を市場に示し、株価を上げる狙いがあるとみられる。
短期的にも株価を上げられれば、その分、クシュタールにとって買収のハードルが上がることになる。実際、株価は一連の報道を受けて上昇した。すでにクシュタールによる買収報道で高値圏にあった株価は、10月7日に一時2281円をつけるなど、上場来最高値を更新している。
また、ヨーカ堂がIPOする「条件」とした2025年度の財務目標(首都圏スーパーストア事業のEBITDAを2026年2月期に2023年2月期比3倍の550億円)についても、「計画達成は困難」(証券アナリスト)と指摘する市場関係者は多い。株式の一部売却を通じた外部パートナーの参画によって、収益改善やIPOに向けた戦略に説得力を持たせる思惑も透けて見える。
積年の課題である構造改革が前進しつつあることは評価できるだろう。しかしセブン&アイのもくろみどおり、株価を維持、向上させるのは容易ではなさそうだ。
連結収益の大半を占める国内・海外のコンビニエンスストア事業は苦戦が続いており、10月10日に公表される2025年2月期第2四半期(3~8月、海外は1~6月)決算は厳しい結果が予想されるからだ。
近年の業績拡大を牽引してきた海外コンビニ事業は、7月公表の1~3月決算と同様、4~6月も既存店売上高の前期割れが続いている。
主力商品であるガソリンは、1ガロン販売当たりの粗利額(CPG)も北米事業の利益を左右する重要指標であるが、すでに公表された4~6月期のCPGは前年同期比7%減。前期並み程度だった1~3月からも悪化している。
国内も減益となった3~5月期の決算から状況は変わっていない。セブン‐イレブン・ジャパンの既存店売上高は、6~8月すべてで前年同月比マイナスの推移だった。増量キャンペーンなどお得感を訴求し、増収を継続している競合とは対照的だ。
こうした「本業」での苦戦の結果が明るみになり、マーケットの想定を下回れば、構造改革への期待で一時的に高まっている株価も調整局面に入る可能性は多いにある。
前出の証券アナリストは「ヨーカ堂がどうこうではなく『集中する』としているコンビニ事業が厳しいことがこの会社のいちばんの問題」と指摘する。
独立路線を目指す経営陣に必要なのは、企業価値を一段と引き上げる、中長期の明確な戦略を示すことだろう。
井阪隆一社長らセブン&アイ経営陣に真に求められるのが、コンビニ事業の変革であることに変わりはない。10月10日の決算会見では、ヨーカ堂株の早期売却についてだけでなく、より明確な成長戦略の説明が必要だ。