16億円で取引の鹿島、Jクラブ本当の市場価値は?

その考え方は欧州サッカーにも共通しており、プレミアリーグも発足の1992年以降、総収入と総支出で黒字になった年はないという。

「オーナーは赤字を出してでも高給のいい選手を獲得し、試合で結果を出すことで賞金や放映権料を得て、人気チームになるという状態を目指しています。そういう考え方が日本サッカー界にはまだ根付いているとは言い切れません」と木村氏は指摘する。

こうした調査・分析の結果、欧州・アメリカのクラブ価値評価はこれまで以下のようなファクターを見ながら進められてきたことが明らかになった。

A…売上高、チーム人件費率、選手の市場価値、SNSフォロワー数、放映権料、スタジアム保有の有無

B…純資産、チーム成績、負債比率、アカデミー

C…営業利益、背後人口、スタジアムの築年数

このうち、現在のトレンドはAになる。特に売上高、選手の市場価値、SNSフォロワー数は重要な要素になっているという。

J1全クラブの推定価値を算出

木村氏の属する研究室は、欧州のクラブ価値がどのように算出されているのか、その計算方法を導出した。

その結果、

【モデル1】売上高+SNSフォロワー数

【モデル2】所属選手の市場価値+SNSフォロワー数

の2つで説明されるという結論に至った。その算出方法を2023年度のJリーグクラブ経営情報のデータに適用したものが、以下の表になる。

(出所)東京大学先端科学技術研究センター スポーツの価値額(安田生命)寄付研究部門

Jリーグ最大の運営規模を誇る浦和は、モデル1だと242億4000万円、モデル2だと65億円という数字になる。それに続くのが、2017~2021年の5年間のうち4度のリーグ制覇を果たした川崎フロンターレ。モデル1だと211億6000万円、モデル2が56億5000万円となっている。

上位を占めるのは、前述の浦和、川崎を筆頭に、横浜F・マリノス、神戸、鹿島、名古屋グランパス、ガンバ大阪といった親会社のあるクラブで、特定の企業のスポンサードを受けていない市民クラブはモデル1で100億円に達していない。

前述の通り、チェルシーの2022年の売却額が6800億円だったことを踏まえると、「Jリーグクラブの国際的な企業価値はまだ低い」という印象を受ける。それでも、冒頭の通り、リーグの規模自体が拡大しているのは間違いない。それをどうクラブの企業価値に結び付けていくべきかが今後の重要なテーマになってきそうだ。

最終的な価値は買い手次第に

「この研究を通してわかったのは、Jリーグと同規模の売り上げを記録している欧州クラブと比較して、選手価値の評価額やSNSフォロワー数が極端に少ないということ。売上高はある程度の数字に達しているのに、Jリーグクラブの企業価値の推定値がかなり低くなるという課題が見えてきました。

ただ、実際の企業価値というのは、いくらで買い手がつくかどうか次第になります。今回の研究では、算出された推定値でクラブを購入する意思のあるオーナー(個人、企業、団体)の有無については確認できていないので、次の段階として需給関係を調べていくことが大切になってきます」(木村氏)

冒頭に例示した鹿島や大宮の経営権譲渡にしても、身近なところで話を進めた結果、16億円、3億円といった話がまとまったのだろう。購入意思のある新規オーナーをもっと幅広く募っていたら、それぞれの評価金額は引き上げられた可能性も少なくないはずだ。

「Jリーグの場合、親会社から経営者が出向してくるケースが多く、インカムゲインの考え方が根強い。単年度黒字になっていなければ『もっとコストを下げろ』『選手人件費を減らせ』といった話になりがちです。