また、同業のM&Aはしてこなかったカインズも、都市型DIY、雑貨ショップの老舗、東急ハンズ(現ハンズ)を子会社化している。こうしたM&Aの相手方の業種はさまざまだが、ホームセンターの本業に隣接する、少しズラした分野の強化ということになる。今後、縮小が避けられない、地方、郊外の住生活関連需要から幅を広げていこうとする布石なのだろう。
人口減少に伴う市場縮小の影響を軽減するためには、大都市部への進出も選択肢としてあるが、ホームセンター業界では広い売り場と駐車場、その割に低い売り上げという業態特性から、そのハードルは高い。
また、ホームセンターには都市型が、ほとんどいないため、他の同業を統合していったとしても、市場縮小スピードを緩和する効果がない。都市部マーケットへの進出を目指すなら、基本は新業態を開発しなければならず、それは言うほど簡単ではないため、いまだ実現したホームセンターはない。
かつてDCMは都市型に近い立地に展開する島忠(埼玉県)とのアライアンスを目指したが、家具インテリア雑貨の雄、ニトリにさらわれてしまった。そうした中で、カインズが、ホームセンターではないが都市型DIY、雑貨ショップのハンズをグループ化したのも、都市部業態開発への足掛かりと解釈すべきであろう。
カインズは、大型店舗に充実した品揃えで消費者の支持を集め、北関東から東日本広域へと店舗網を拡大、2000年時点ですでに売り上げトップ企業になっていた。カインズは業界最大にして最強とされ、個人的には人気漫画『キングダム』になぞらえて説明することが多い。この話、古代中国の戦国時代末期、最強の秦に対して、秦以外の列国が同盟して「合従軍」を興して対抗するという史実が舞台となっている。
業界でも、カインズに対抗するために、大手企業3社が経営統合してトップシェアを奪取したのがDCMであり、まさにホームセンターにおける「合従軍」といえば、わかりやすいだろう。そしてDCMは3社から始まって、次々に大手や中堅中小同業をグループ化しているのだが、カインズは着実な成長を続けながら、同業M&Aをすることもなく、2021年度にはトップシェアを奪還してしまった(ハンズのグループ入りは2022年3月)。カインズとはそんな存在である。
カインズは売り上げトップを奪還しただけでなく、2010年代には急速にプライベートブランド(PB)商品強化を進めて、現在ではPBを軸に売場を構成しうる域にまで達している。この点でも競合他社の追随を許さぬ商品力を実現したと言っていいだろう。
他社がM&Aによる基盤拡大と統合にエネルギーを割かれている間に、カインズは製造小売業としての基盤を確立し、キングダムにおける秦のごとき存在となった。現時点で、カインズは単独でシェア拡大可能な競争力を備えたため、同業M&Aによる事業基盤拡大を必要としない存在となった、とも見える。
業界トップの競争力を確立したカインズではあるが、大都市圏における存在感はほとんどない。大都市部への出店フォーマットを持たないホームセンターは、トップ企業カインズといえども、大都市の住生活に対応する業態を持っていない(「Style Factory」という生活雑貨業態はあるが、いまだ5店舗で実験中)。
ハンズのグループ化により、都市部でまとまった店舗網は得たが、あくまでもハンズとして、であり、カインズ化する予定もない。カインズの考える、大都市への展開とはどんな形なのかは、まだ明確にはなっていないのだが、その他の小売業への商品供給戦略を見ていると、その方向性をうかがい知ることができる。