NYタイムズ「7年で売上半減」から劇的復活した訳

デジタル革命や他社のデジタル化が進むにつれ、NYタイムズの不十分な対応が、ビジネスに深刻な悪影響をもたらしはじめました。デジタル記事で権威ある賞を受賞した先進的な新聞社であったにもかかわらず、優秀なデジタル人材が他の新聞社に流れてしまいます。デジタルネイティブの新興メディアも、インタラクティブなスタイルでSNSを駆使しながら、検索エンジン用に最適化されたコンテンツを配信し、積極的に若い読者を惹きつけることで、NYタイムズを追い抜きました。

ついには、紙媒体広告からの収入は激減、デジタル広告も期待したほどの利益を上げることはできず、長期にわたる業績低迷に陥ります。総収益は2006年から2012年まで毎年減少し、わずか7年間で52%も減少しました。

ニューヨーク・タイムズ・カンパニーの収益の推移(2006年~2012年)
ニューヨーク・タイムズ・カンパニーの収益の推移(2006~2012年)

DXに失敗する企業の共通点

NYタイムズの最高経営陣の依頼で行われた綿密な調査の末にまとめられた「イノベーション・リポート」という内部報告書の中で、自社を、将来のデジタル化をめぐって独り悪戦苦闘している組織と評し、次のように総括しました。

「自分たちにとって快適で慣れたやり方の職場環境ができあがってしまい、怠慢につながった。真にチャレンジしなければいけない課題を避け続け、目指すべき姿やどう変わるべきかといった現在および将来の大きな課題に向き合わない姿勢に転じていった」

NYタイムズが直面した課題や危機は、現在、変革を推進している全ての伝統企業を直撃しています。まさにデジタル・ディスラプションの最中で新興企業が台頭する中で、新時代への適応に苦戦して行き場を失った多くの伝統企業と同様、NYタイムズも、将来を見据えたデジタル改革のロードマップを用意しておらず、無駄な努力に何年も費やす結果となり、この惨状を招いてしまったのです。

最悪の状況から一転、タイムズにとって2度目となるDXの成果は、実に驚異的なものでした。まず、「デジタル収益を8億ドルにする」という野心的な目標を1年前倒しで達成し、さらには「2025年までに購読者数1000万人」という追加目標も、予定より4年も早く達成したのです。なかでも注目すべきは、「デジタルの収益が紙媒体の収益を上回る」「購読料が広告収益を超える」という2つの重要目標についても、ともにクリアしたことです。

この偉業は投資家たちの注目を集め、2016年から2021年までの6年間で株価は261%も急騰しました。当時の年次報告書には、将来を見据えた新しいビジョンが次のように記されています。

「NYタイムズは、世界を理解し、世界と関わりを持とうとするすべての英語圏の人々にとって、購読者に欠かすことのできない媒体となることを目指している」

世界的権威が考案した「DXロードマップ」

では、なぜ、NYタイムズが、わずか数年で最悪期を抜け出し、DXを成功させた代表的な企業へと劇的な転身を遂げたのでしょうか? 

DXは、企業の生き残りがかかっているきわめて重要な挑戦です。この負けられない戦い、厳しい道のりを着実に進み、単なるデジタル化の推進ではなく、真にインパクトのある企業変革、イノベーションを実現するためには、必要不可欠な5つのステップがあります。

その5つのステップを着実にクリアしていくために、コロンビア・ビジネススクールのデビッド・ロジャース教授が考案されたのが、DXロードマップです。

そしてNYタイムズは、生き残りをかけて、変革を阻んでいた5つの課題を1つひとつ解決し、DXロードマップの5つのステップすべてを実行するという旅路を、見事にやり遂げたからこそ、劇的な転身を遂げられたのです。