3000万超のスマホユーザーを擁する企業の「最初」の一手は、生成AI普及のきっかけになるのか。
ソフトバンクは6月17日、生成AIを活用したサービスを展開するアメリカのスタートアップ、パープレキシティ社との戦略的提携を発表した。
同社はオープンAIのGPT-4をはじめとする複数の大規模言語モデル(LLM)を活用し、ユーザーが知りたい情報をチャット形式で回答する検索エンジン「パープレキシティ・プロ」を展開する。ソフトバンクはウェブやアプリで利用できるこのサービスを、同社のユーザーに1年間無料提供するキャンペーンを6月19日から開始した。
個人向け通信と生成AIを組み合わせたキャンペーンは、国内キャリアで初の試みとなる。
「パープレとの取り組みは、われわれのまだ最初の一歩だと思っている。『AI革命』の時代を老若男女かかわらず、大きく広げていく」。6月17日の記者会見で、ソフトバンクの寺尾洋幸専務執行役員はそう強調した。
ソフトバンクは、親会社であるソフトバンクグループの孫正義会長兼社長主導の下、最重要分野と位置づけるAI事業に邁進している。
孫氏は昨秋に開いた法人向けイベントで、「AIがほぼすべての分野で人間の叡智を追い抜いてしまう『AGI』(汎用人工知能)の世界が今後10年以内にやってくる」との予想を示し、進化したAIと比べると、人間の知能が将来的に「猿」や「金魚」のような存在になるとまで言い切った。6月27日には、ソフトバンクグループがパープレキシティ側に対し、1000~2000万ドル(約16~32億円)の出資を予定しているとブルームバーグが報じた。
事業会社のソフトバンクでは、大量の電力を使うAI向けデータセンター構築や、日本語に特化したLLMの研究開発を進めている。今回の提携は、AI活用を一般消費者にまで試験的に広めていく一手となりそうだ。
手を組んだパープレキシティは、オープンAIに在籍したアラビンド・スリニバスCEOらが2022年に創業した会社だ。アマゾンのジェフ・ベゾス氏をはじめとする投資家から1億6500万ドル(約260億円)の資金調達を果たしている。
検索エンジンをサブスクで提供するビジネスモデルで急成長し、月間の検索利用数は2億3000万。広告を収入源に開かれた検索エンジンを提供するグーグルに挑戦するサービスとして、注目されており、年内に広告も導入する計画が報じられている。
サービスは消費者の使いやすさに重点を置いており、利用者が聞きたいことに対し、インターネット上のさまざまな最新情報を基に、最適な内容を要約してシンプルに回答する「アンサーエンジン」の機能が特徴だ。
例えば旅行したい人が行き先・期間・予算などを入力すれば、それに応じた最適な旅行プランを提案してくれる、という具合だ。AIをめぐっては、誤った情報をもっともらしく回答する「ハルシネーション(幻覚)」の問題が指摘されるが、引用元を表示する仕組みも取り入れている。
今回の提携で注目すべきは、ソフトバンクが本業である携帯電話契約にひも付ける形でサービスの無料提供に踏み込み、AIに対する本気度を示した点にある。