このようにユーザーがAIをどのように利用できるかを知らなくても、最も典型的な活用ができる場面に、ちゃんとその活用方法がメニューなどの形で自然に表示され、希望のメニューを選べばAI機能が呼び出せるというのがApple Intelligenceの設計の基本になっている。
Apple Intelligenceは、このほか「母親を空港に迎えに行くのは何時?」など複雑な要求にも応えてくれる。こうしたより込み入った要求は、音声アシスタントのSiriを通して伝える設計になっている。声が出せない場面や、話し言葉よりも書き言葉の方が伝えやすい場合は、文字で伝えることも可能だ。
「会議の開始時間が遅れたが、子供の学芸会に間に合うか」といった複雑な問いかけに対しても、自分の子供が誰で、学芸会の時間が何時に始まるか、会議の場所から学芸会の場所までの道路がどれくらい渋滞しているかなどを調べたうえでちゃんと答えてくれる。
Apple Intelligenceは、このように利用者の家族構成や交友関係、予定や現在地などかなりプライベートな情報を把握しているからこそ、よりユーザーに有益なアシストが可能になっている。それを行ううえで重要になってくるのがプライバシーへの配慮であり、アップルが、他社に対して大きなアドバンテージを持つ領域でもある。
ITの世界において利便性向上とプライバシー保護は常に相容れない関係にあった。上記のようなアシストに必要な個人情報が、悪意を持つ人の手に渡ると悪用される恐れもある。
アップルはこれまで何年もかけてiPhone、iPad、Macといったアップル製品上で管理されている個人情報はいっさい外に漏れることがなく、同社でさえのぞくことができない設計であることを訴え続け、信頼を獲得してきた(昔、FBIがテロリストから押収したiPhoneのロックを解除することをアップルに要求したが拒まれたということもあった。現在のアップル製品は、そもそもアップル自身もロックを解除できない)。
実はこれはアップル以外の広告を主な収益源とするIT企業には、なかなか取りづらい戦略である。というのも、広告を収益源とするIT企業の多くが、ユーザーの個人情報に基づいて、より効果がある広告を表示させることで利益を得てきたからだ。
一時は行きすぎた個人情報獲得合戦を反省して、他社もプライバシーへの配慮を謳いはじめてはいるが、広告収入に頼っている以上、アップルより厳しいプライバシー保護は期待しにくい。
アップルはIT業界では希少になった製品の売り上げを生業にした伝統的製造業だからこそ、個人情報に頼らないビジネスが可能で、このアドバンテージを最大限活かすべく「プライバシー保護」を声高に訴えている。
ハードウェアやOSを作る際にも、「使用するデータを最小限に留める」「(通信を行わず)機器上で処理する」「機器上で何が行われているかについて透明性を保ち、ユーザーにプライバシー情報の管理権限を渡す」「しっかりとしたセキュリティー技術でプライバシー情報を守る」という4つのプライバシー保護に関するデザイン原則を設けて設計しているため、基本的にアップル製品に預けた個人情報は、ユーザー以外には漏れることがなく、アップルもこれを見ることができないという認知が広まっている。
Apple Intelligenceはこの信頼できるプライバシー設計の上に立脚したAI機能であることが実は一番の売りになっている。
もちろん、しっかりとプライバシー保護をしているからこその制約もある。