ストライキの間にアメリカ全体で160以上の作品の制作が完全に止まっていたことがイギリスのリサーチ会社Omdiaによって報告されています。Omdiaの調査によれば、アメリカの主要メディアの中で影響を受けた番組数が最も多かったのはNetflixでした。世界的人気シリーズの「ストレンジャー・シングス」の新作を含む約25本の制作が停止した状態に陥ったそうです。
このストライキによって、撮影準備やプロモーションの時期がずれ込んだアメリカ発の作品は確かにあり、実写の「ONE PIECE」はアメリカ全体で通常よりもライバルが少ないタイミングで配信できたと言えます。
それでも、日本の漫画を実写化した作品が残した実績のインパクトは大きいはず。今はハリウッドから生まれた作品ばかりが人気を占めるだけでなく、Netflixの非英語のシリーズや映画は視聴全体の3分の1近くを占めていることがわかっています。
最も視聴されているのは韓国、次いでスペイン、日本と続きます。日本由来のコンテンツにまだまだポテンシャルがあるなかでの「ONE PIECE」の快挙でした。
日本政府がここにきてコンテンツ産業を日本の基幹産業にしようとする動きも後押しするかもしれません。4月17日に開催され、映画監督の是枝裕和氏らが出席した「第26回新しい資本主義実現会議」で発表された資料によると、日本由来コンテンツの海外売上は4.7兆円に上り、鉄鋼産業、半導体産業の輸出額に匹敵する規模にあたるというデータが敢えて示されています。
4.7兆円のうち、大半はゲームで占められ、映像による海外収入は1兆6000億円ほどです。この内の9割はアニメですが、過去の「クールジャパン施策」による効果とは言い難く、'60年代から個々が自力で続けてきた賜物です。
ただし、メディア環境が様変わりするなかではこれまでと同じようにはいきません。中身のある総合戦略で伸びしろを広げることにようやく目が向けられているのです。
「ONE PIECE」の事例はグローバルプラットフォームで漫画やアニメの実写化に活路を見出していく強力な後押しになることが期待できます。原作次第では海外ドラマとして作ることができ、クオリティを追求するために十分な予算を充てることも可能です。
「ONE PIECE」の場合、2017年から計画に着手し、1話あたりの製作費は一部の海外メディアが報じた数字によると、1800万ドル(約28億円)に上ります。
また作者の尾田栄一郎自ら実写版の共同エグゼクティブ・プロデューサーを務めたことで原作の世界観がしっかり確保され、集英社も製作協力する体制が組まれました。さらにアメリカのNetflix製作チームに日本のNetflixプロデューサーも参加し、コミュニケーションの徹底化が図られました。この勢いで製作決定しているシーズン2にも期待が高まります。
「ONE PIECE」だけではありません。2023年は冨樫義博原作の「幽☆遊☆白書」の実写版も配信され、1700万ビューを記録しました。先のNetflixのレポートでは非英語の人気作品の1つとして紹介されています。
過去には、Netflix日本発作品として最高記録の視聴時間を保持する麻生羽呂原作の「今際の国のアリス」も実写化作品として成功例に挙げられます。Netflix日本発作品の中で初となるシーズン3の製作が決定し、ブロックバスター(超大作)級は実写版から生まれているのです。