キー局決算で見えた「TVerによる驚きの配信収入」

だが、いつのまにか「ドラマ配信アプリ」になってしまった。バラエティは再生が伸びるものが限られている。これではいつか行き詰まりかねない。

現状のTVerは「テレビ」とは言えないのだ。テレビとは、ドラマやバラエティに限らず、ニュースや情報番組、ドキュメンタリーや教養番組も含めた玉手箱のような装置のはずだ。ドラマばかりが見られるからと、ドラマの配信に集中していると、ある時点で成長がストップするかもしれない。

テレビとは、ふと「いまなんかおもしろいことないの?」とつけたら何かが出てくるものだった。それがいまはYouTubeにお株を奪われている。最近は民放のニュースや解説までYouTubeで見られている。

YouTubeで見られるのなら、TVerでも見られるはずだ。いまは配信してもなかなか見られないだろうが、配信し続けることが大事ではないか。そして開くとパッと何かが流れることも必須だ。テレビがそうであるように、つけたらとりあえず番組が目に入ってくることが重要なのだ。

そんなことはTVerの人々もわかっているはずで、実際去年の業界イベントではTVerのキーマンが新しい見せ方を取り入れると宣言していた。その開発は、大袈裟にいうとTVerの、さらにはテレビ局の今後を担っている。そこには期待したい。

ローカル局「ネットでの受け皿」がない謎

もうひとつは、TVerだけの課題ではないかもしれないが、ローカル局の問題がある。ローカル局は、TVerでぐんぐん再生されるようなドラマもバラエティも制作していない局がほとんどだ。いまもTVerに置かれているローカル局の番組はあるし、中には全国的にヒットする番組もある。

だがローカル局のコンテンツ資産とは主に夕方のニュースや情報番組だ。たまに福岡の実家に帰ると、その時間に地域の情報がわかる番組が流れる。だが夜7時になると、キー局のバラエティが流れ出す。

ローカルの夕方の番組がいつでも見られる環境を作ればいいのにと思う。絶対ニーズはあるはずだ。

ローカル局の番組をTVerで地域に合わせてフィーチャーするか、TVerとは別にローカル局の配信アプリを作るか。どちらかの大きな動きが必要だ。いまのうちに「ローカル番組が気軽に配信でも見られる」環境を作らないと、ただただ放送収入が下がっていくだけで、さきほどの取らぬ狸の皮算用がローカル局では成立しない。上がる部分が作れなければ、下がっていくだけだ。

そんなことは、キー局もローカル局もわかっているだろう。どうにも理解できないのが、それなのになぜローカル局のネットでの受け皿を誰も作らないかだ。TVerの好調ぶりを見るにつけても、どうして大きな動きが起こらないのか、不思議でならない。こういうことは、総務省や業界団体が音頭をとるものではないかと思うが、そんな話も聞かない。

配信広告を伸ばすことも大事だが、下がり続ける放送収入を食い止める何かも必要だ。日本テレビが昨年11月に発表したアドリーチマックス(AdRM)プラットフォームは、その何かになる可能性がある。来年4月からスタートすると言う。テレビCMの取引をこれまでの習慣から解き放ち、ネット広告の取引に近づけるのがコンセプトだ。例えばこれまでは、テレビCM素材は放送日の中4日前に入稿する必要があった。AdRMでは直前でも入稿可能になるという。天気など世の中の動きに合わせてCM素材を使い分けられるのは広告主にとってメリットだろう。

だが私が注目するのはAdRMの「インプレッション取引」だ。これまでのスポットCMの取引ではGRP、視聴率が使われていた。6月の2週間、1000GRPのCM枠を買いたい、と発注する。これをネットと同じインプレッションに変えるのだ。GRPは率なので、人数として捉えられなかった。だがインプレッションは実数であり、人数とも捉えうる。